2話 支配
「よぉ~し。今日の分は片付いたし、帰ろう!」
そう思いながら勤怠管理システムの退勤にチェックを入れて帰宅準備を始める。
「お先に失礼します。お疲れ様でした。」
そう言って俺は頭を下げる。
「お疲れ様~。」「おう、お疲れさん。気を付けて帰れよ~」「お疲れ様。最近物騒だから気を付けてね!」
先輩方の声が聞こえる。そして俺は「はい、ありがとうございます。気を付けます。」そう言って会社を出て帰路につく。
「今日は何にしようかな。とりあえずジャガイモとネギともやしと…」
晩御飯を考えながらスーパーに向かう。適当に野菜炒めと味噌汁を作ればいい。あとはご飯を炊く、それで十分だ。男の一人暮らしだし、いっぱい買っても消費できなければ無駄になる。何よりも一人暮らしだから安く抑えたい!!
あと俺は小さいころから体が弱くてよく風邪をひくから何かあった時のためにポカリ買っておこう。
買い物を済ませて、家に向かう。
ぱぱっとご飯作って食べる。そして風呂に入る。たまにはシャワーだけじゃなくてお湯を貼って湯船に浸かろう!うん、そうしよう。
*
家に帰ってそうこうしているうちに気が付いたら湯船に浸かっていた。どうやらお風呂で寝てしまったようだ。
長い時間湯船につかっていたのか、少しぬるくなっている気がする。手もふやけてしわしわだ。
「寝ていたのか…?最近ずっと遅かったから疲れが出たのかわからんがこのままだと風邪ひくし上がろう。」
そう思いながら立ち上がり、お風呂から出ようとドアに手を掛けたときに強烈なめまいがし意識が飛びかけた。
「っ!!!??!?」
この瞬間、昔実家のトイレで意識が飛んで倒れたときの記憶がフラッシュバックした。
これはまずい、非常にまずい。こんなところで意識が飛んだらたまったもんじゃない。
実家の時は家族がいたからなんとかなった。だが今は上京してきている、つまりこの家には俺一人、同居人なんかいるわけがない。もしこの場でぶっ倒れて頭なんか打ってみろ。助けがないうえに下手すればそのまま死んでしまう、そんなのまっぴら御免だ。
「…んな……し……で…か!!」
とにかくどうにかしてここから出ないといけない。どうせ倒れるなら部屋で、服も着ていたほうがいい。じゃないと醜態を晒すことになるからな。
そんな呑気なことを考えているとここでやばいことに気が付いた。
「っ!?! や……こ…もか…!!?」
声がうまく出せない。自分の身に一体何が起きているのか理解できない。だがいくつか理解できたことがあった。それは、今なんとか持ちこたえているが、このまま意識が飛んでしまったら非常にまずいこと。下手したら死んでしまうかもしれないこと。
この状況の中でまずいの3文字が頭の中を駆け巡っていた。
「…とにかく服を着なければ!」
下着を付けて一安心。そしてTシャツを着たところで少し気が緩んでしまった。
「あっ…」
気が緩んでしまったところから入ってきた暗闇が意識を支配していく。
「あぁ…やっば…目の前がどんどん遠くなっていく…下手したら死ぬかもな。でもこんなところで嫌だな…まだやりたいことはいっぱいのに…」
完全に意識が暗闇に支配され、倒れてしまった。