さて、中身は?
僕らは再び山の頂上に来ていた。
僕の両手には苦労して手にいれた"戦利品"がある。
「もうすっかり夕暮れやなぁ」
そう呟く友人は転落防止の柵にもたれ掛かって、遠くの景色を観ている。
僕は手の中のクッキー缶を上下に振ってみる。
ゴソッ ゴソッ と鈍い音がする。
「なあ、本条」
僕が呼びかけると、友人がこちらを振り向いた。
友人の名は 本条 太志と言う。
「ん、なんや?」
「100冊以上あるって言ってなかったっけ?」
「言うてた」
僕はクッキー缶を横にも揺らしてみる。
さっきより鈍い音を伴って、内容物が動いているのを手のひらに感じる。
僕は素直な感想を述べることにした。
「この中に100冊は無理だと思う」
「そうやろうな……」
「せいぜい10冊ってとこかな」
「んー。これは、あれちゃうかな……?」
本条は考え込むようなポーズを取った。そして真剣な顔を崩さずに言う。
「"100冊分の価値があるくらいすごい"ってことちゃうかな?」
僕は、彼の言ってることが全然理解出来なかった。
「えっどういうこと?」
「いや、つまりは"量じゃなくて質が大事"ってことや」
「100冊は嘘だったってこと?」
本条は右手を前に"ちゃうちゃう"と横に凪いだ。
「その中に入ってる10冊が、実は100冊分エロいってことやんか」
「……まあ、そういうことにしとくか」
僕は疲れていて、言い返す気がしなくなった。はいはい、そういうことでいいですよ。
僕はさっき”あの場所”で、そうしてたようにクッキー缶を見回す。
すると、あっさりとクラフトテープの継ぎ目を発見した。
(あの時は全然見つからなかったのにな)
物置小屋の裏手にある木々が空を覆い隠していて、薄暗かったのが原因なのか、はたまた別の原因なのかは分からないが。
僕はそこに爪を立て、小さな引っかかりをつくることに成功した。
それを指の先で摘まむと、べりべりとクラフトテープを剥いでいく。
「まだ、もう一個くらい埋まってたりしてね」
僕はそう、おどけて言いつつ本条の方を見た。
泥んこの学生服を着た彼が青ざめていた。
「正気か。"あおやん"」
「勿論冗談だよ」
僕の名前は青山 陸斗。
本条からは、この通り”あおやん”と呼ばれることもある。
大抵は”お前”とか、”おい”とかお互いを呼び合うけど。
僕はクラフトテープの最後の一剥ぎを終え、クッキー缶は蓋が開く状態になった。
本条がこちらに駆け寄ってくる。
「おっ開いたみたいやな」
「うん。じゃあ、開けるよ」
僕は蓋に爪を引っかけると、上に引っ張った。
すると、蓋がポンと音を立てて開いた。
中には予想の半分以下。たった三冊の雑誌が入っていた。
僕は缶を地面に置く。
その中から震える右手で、その中の一冊を取り出した。
僕と本条は、中から取り出したそれをじーーっと見つめた。
"週刊少年マガジン"だった。
人気のグラビアアイドルが水着姿で楽しそうに笑っている。
「ここに来る前、お前家で”これ”読んでたよな」
友人が小さな声で言う。
「うん。毎週買ってるからね」
僕も小さな声で答えた。
二人の間に沈黙が訪れた。
僕は缶の中から残りの2冊も取り出す。
"週刊少年ジャンプ"、そして”週刊少年サンデー”だった。
僕はそれらを、そうするのがさも自然といった調子で、地面に投げた。
「あっ」
本条がそれを目で追いかける。
ばさぁ。
雑誌は地面に着地して、ページが開いた。
開いたページが風に吹かれてパラパラと捲れる。
「ちくしょぉぉぉぉぉだまされたぁぁぁぁぁぁ」
僕は全力で叫びながら、帰り道目指して全力で疾走する。
やってられるか。こんなもの。
「おーい。ちょっと待てってーー」
本条が叫びながら僕を追いかけてくる。
いや、待ってられるか。
憤りと悲しみに突き動かされて、僕は走りださずにはいられなかったのだ。
山の頂上には3冊の少年雑誌と、大きなクッキー缶だけが残された。




