最後にエロが勝つ
膝くらいまでしか地中に埋まっていなかった僕が、先に地上へと出た。
ズボンや靴下の中にまで、沢山土が入ってしまった。
これは大変、不快である。
早く家に帰ってシャワーを浴びたいものだ。
かたや友人は何とか抜け出そうと体をよじっているが、ぜんぜん抜け出せそうな兆しは無い。
「あかんわ、これ」
友人が真顔でそんなことを言った。
笑いのツボがここ数分で、すっかり浅くなってしまった僕は、腹を捩って笑った。
「絶対写真に撮りたいな、その姿。皆に見せたい」
「頼むわ。てか、割に合わへんわ。これ」
そう言い合うと、次は二人して声を上げて笑った。
************
「なんか道具がいるな。これ」
僕は友人を掘り起こす道具がないかと、辺りを見渡した。
「物置小屋になんかないかな?」
と、友人から提案。
「あるかも。探してみるわ」
僕は物置小屋の正面まで行き、閂を引っ張ってみた。
閂は、思ったよりすんなりと抜くことが出来た。
厄介だったのは扉の方で、大変建付けが悪い。
扉に片足を掛けて、全身全霊で引っ張る。
それで、ようやく人が一人通れるくらいの隙間をつくることができた。
滑り込むようにして中に足を踏み入れると、薄暗くて、とても黴臭い。
中にあるのは、用途の分からない古臭い道具達だった。
ただその一角にまだ新品のブルーシートと、オレンジ色のシャベルがあるのを見つけた。
(もしかしてタカザキさんが置いてったのかな?)
ブルーシートの下には何か置いてあるようだが、兎に角、今は友人の救出を優先しよう。
僕はオレンジ色のシャベルを手に取ると、生首になった友人のところへ向かった。
ザクッ ザクッ
友人の首周りの土をシャベルを使って除けていく。
「すまんな。この借りはまたいつか」
友人が申し訳無さそうに言う。
「いいよ、別に。困ったときはお互い様、って偉い人も言ってる」
「誰や。その偉い人って」
「僕」
「お前かい!」
ザクッ ザクッ
友人の肩が、地上にお披露目された。
「それにしても何やったんやろな。これ」
友人がしみじみと言う。
「まあ、俄かには信じがたい現象だったね」
「エロ本を取られたくない!……っていう【タカザキさんのエロ】が具現化したんちゃうかな?」
「漫画みたいだね」
「いや、これはもうほぼ漫画やな」
現実では到底考えられない出来事が起こったのは間違いない。
もしかしたら友人の言う通りなのかもしれない。
ザクッ ザクッ
友人の胸の辺りまで見えてきた。
「よし、ちょっと一旦挑戦してみるわ」
友人がそう言って、もぞもぞと動く。
すると、土の中から手が生えてきた。
そのまま、友人が両手を地面について体を上に引き上げようと頑張る。
なので、僕も両脇を抱えてサポートした。
3分ほどそんなことを続けていると、ある瞬間に友人の体が軽くなった。
こうして、友人が久方振りに、大地に立った。
「うひゃあ。念願の地上やぁ」
ため息まじりにそう言うと、友人は地面に寝転がって大の字になった。
僕も地面に尻餅をついて、空を仰いだ。
「ありがとうな」
友人が照れ臭そうに僕に言った。
「別に何度もお礼言わんでもええよ」
「いや、今の【ありがとう】は、叫んでくれた分のお礼や」
「【叫んだ】?」
僕は首を傾げた。
「いやさ、お前が最後になんか必死で叫んでくれたから、【沼】がどっかいってくれた気がするわ」
「あれはただ【エロ本も読めずに死ねるか】って言っただけだよ」
「なんやそれ。ただの【エロ】やんか」
「うん。僕の【エロ】が【タカザキさんのエロ】を超えたから、【沼】がどっかにいってくれたかも」
「なんじゃそりゃ。【エロ】って言いすぎやろ」
友人は呆れたように笑った。




