探索ー1ー
自転車に乗って5分ほど漕いでいくと、目的の登山口が見えた。
僕らは登山口の近くに自転車を停めると、いそいそと山の中に入っていった。
「正確な場所とか分かってる?」
僕は友人に尋ねた。
「ああ。物置小屋の裏手に穴を掘って埋めたらしい」
友人が僕の前を先導して歩きつつ、こちらを振り向くことなく答えた。
「で、その物置小屋っていうのは?」
「それは、今から探す」
友人がこちらにニコリと微笑みかけた。
僕はその満面の笑みに対して、ちょっぴり殺意を覚えた。
「もしかして、これって結構な重労働だったりしない?」
「いや、大丈夫。タカザキサンは恐らくそんな山奥に本を隠したりしない。すぐに取り返せるように近くに埋めた筈さ」
友人の足取りは軽やかだ。
この男は性欲を原動力にきっと動いているのだろう。
そして、かくいう僕も胸の高鳴りを感じていた。
何故なら、生まれてこの方、僕は"エロ本"というものを読んだことが無かったのだ。
こうして足取りの軽い二人は山登りが続いた。
今僕らが登っている山は標高が300mぐらいしかないので、1時間もあれば頂上につく予定だ。
前を歩く友人は時折、僕がちゃんと付いてきているかを確認したり、話を振ってきたりした。
「大丈夫か、辛かったら俺がおんぶしてやるからな」
「いや、いいよ。そんなの」
「なんでや、こんな機会二度とないぞ」
「何が悲しくて汗まみれの男二人で密着しないといけないのよ」
季節は短い夏休みを終えて、少し暑さも緩やかになった9月の中旬。
しかしながら、山を登る僕たちは当然のように汗だくになってしまっていた。
そして、一向に小屋が見つかる様子はない。
「物置小屋なんか何処にもないんやけど……そのタカザキサンってのは実在してるの?」
「あほか、居るに決まってるやろ。なんやったら、会わせてあげてもええで」
「いや、別に会わなくてもいいけど。エロ本返せって言われても嫌だし」
「おっ、もうエロ本を手に入れた気になっとるとは、やる気満々やな」
「まあ、ここまで苦労してるからね……もしもエロ本を手に入れられなかったら、僕はお前を殴ろうと思う」
「あちゃー、殺る気も出てもうてるな」
そんなくだらない会話を交わしつつ山を登り、僕らは一時間後に頂上に辿り着いた。