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冒険の終わり



「なあて。ちょっと止まってぇや」



本条の声が徐々に近寄って来る。

どうやら僕の全力疾走は、本条に及ばないらしい。足場が悪いってのもあるけどね。

やがて背後から、右腕を掴まれる。



「やだ。早く帰って、シャワーを浴びるんだ」

僕は止まりたくない理由を簡潔に述べた。


ズボン、靴下、靴の中に泥が混じって、一秒ごとに不快感が増していく。

僕は地面を勢いづけて踏みつけ、精一杯体を前に送ろうとするが、それは成功しない。

大柄な本条の方が、力が強いなんてのは自明なことだ



「いや、雑誌置きっぱなしだしさ、捨てておけないだろ?それに……」

本条が言いよどんでいる。


僕はため息をつくと、全身の力を緩めた。



「なんだよ。なんか他に言いたいことがあるの?」



僕がつんけんどんにそう言うと、本条は伏し目がちになる。

その様子を見ると、心に罪悪感が芽生える。

目の前の全身が泥んこになった男を前にして、シャワーに入りたいなんてちょっと配慮が足りなかったな。


そして、次に本条が言った言葉は、僕をハッとさせた。



「べつに俺はエロ本なんかどうだってええ。お前と冒険ごっこが出来ただけで十分や」



どうして、どうしてこいつは。

こんな恥ずかしいことが言えるんだ。

きっとまだ土の中に埋まったなんて特殊な体験をした興奮が残ってるんだろうさ。そうに違いない。


そして、本条がそう言うなら、僕は僕自身が、ただの駄々をこねる子供のようにしか思えなくなった。

だから、もうやめだ。



「はあ……じゃあ、さっさと頂上に登って、雑誌とか缶とか回収しに行こうよ」



そう口火を切ると、僕はやれやれといった態度を装い、再び山を登り始めた。



「ありがとな」



そう言って、本条は僕の後ろに続いた。






「タカザキサンってどうして本条に話かけたんだろうね」

「なんでやろ?さっぱりや」

「じゃあ、あの"沼"はなんだろ?」

「そやなぁ……あの雑誌とか缶々になんかヒントがあるんかもしれへん」



こうして、泥んこの学生服を着た二人が、再び頂上を目指して歩いた。






底なし沼に嵌った -終-


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