from.高崎
誰も居なくなった山の頂上で、荒ぶ風が"週刊少年マガジン"のページを捲っていた。
いっそう強い風が吹き、巻末までページが捲られる。
すると、そこには黒い油性マジックで書きなぐられた文字が綴られていた。
"騙されたと思ったかい?
安心しな。愛すべき俺の後輩よ。
エロ本は小屋の中だ。大事にしてくれよ。
高崎より"
その隣で風に吹かれる"週刊少年サンデー"。
その開かれたページに、同じく黒いマジックで書かれた、びっしりと細かい文字。
こちらは先ほどの殴り書きに比べ、丁寧に書かれている。
"こんにちは。久しぶりだね"
"ここまで来てくれて嬉しい。ありがとう"
"さて、小屋にあるのは俺がお小遣いやお年玉をつぎ込んで買った"宝物"だ。87冊ある”
"正直手放したくない。一冊一冊に本当に色んな思い入れがあってさ、本当に"
"僕って学校では"エロ博士"だとか"エロ大魔王"だとか言われてる"
"だからかな、女子受けが凄く悪いんだ"
"でもさ。こんなどうしようもない僕を好きだと言ってくれる人が目の前に現れた"
"だから彼女と付き合うことが決まった時、エロ本とは決別しようって決めたんだ"
"まあ、この前話したように 男の禊 ってやつだ"
"だから捨てようとしたんだけど......どうしても捨てられなかった"
"捨てようとすると、初めて買ったときのこととか思い出しちゃってさ"
"背中に電流が走ってね。ありったけの勇気を振り絞ったんだ"
"そういう経験って人生で初めてだったんだ。すごく興奮したよ"
"そんなだから、捨てるなんて出来ないって思った"
"それで、あの物置小屋に隠すことにしたんだ。我ながら女々しい男だと思う"
"でもそうすると、毎日不安に襲われるようになった"
"あの子たち が物置小屋で誰からも読まれることなく終わっていくことに耐えられない"
"あの子たち は何にも悪くないのにって"
"それに僕の勝手な都合で……後悔の念が押し寄せて、居ても立っても居られなくなった"
"それでこの際、きっぱりと誰かに譲ってしまおうと思ったんだ"
"そうすればあの子たちも救われるだろ?"
"そこで誰に譲ればいいか考えたんだ"
"ただ、僕の周りにいる人間はその資格を持ってなかった"
"僕の周りにいる奴らは"本当に下品"な奴らばかりだ。そして、"エロ"に対して失礼な奴"
"ここでいう下品っていうのはさ、"ムッツリ"ってことなんだよ"
"エロを求めるのって確かに恥ずかしいことも多いし、女子からの反感も買ったり、周りの人から白い目で見られたりすることもある"
"でも、だからといって 僕はエロくないです みたいな顔をしている男が、僕は大嫌いだ。"
"だってそれは嘘つきじゃないか"
"男なんだからエロが好き。女性が好き。当たり前だ。そこを誤魔化すような奴は大嫌いだ"
"そこで君なんだ"
"この前はいきなり話しかけてすまなかった。さぞ、驚いたことだろう"
"面識のない上級生からいきなり話しかけられたんだからね"
"しかも、突拍子もなく エロ本に興味があるかい? なんて聞いちゃってね。今思い返すとやばい奴だよね"
"でもあそこで君が はい。あります。と即答するのを聞いて、僕は自分が間違えてなかったことを確信したよ"
"君になら僕の宝物を預けてもいいと思った"
"君と出会った日の話をしよう"
"ある日の放課後、学校からの帰り道。君の後ろをたまたま僕は歩いていた"
"ちょうど、あの子たちを誰に譲るべきか悩んでいた頃さ"
"そのとき君の前方には僕らの学校の制服を着た、おそらく2年生かな? 女子二人組が歩いていたんだ"
"そして強い風が吹いて、左に居た女の子のスカートが捲れあがった"
"僕は やったー。今日はツイてる と思ったよ。"
"女の子は やだー なんて言いながら後ろを歩く僕らを睨んだよね。"
"僕はこういうときに目を伏せたりないんだ"
"だってそれをしてしまうと"エロ"に失礼だからさ"
"だから、見ましたよということを報告する為に、じっと彼女の方を見たよ"
"でも僕以上に誠実な対応を君はしたんだ"
"【すいません。見てしまいました。ありがとうございます】"
"君はあの時こう言ったんだ"
"僕は心の底から感動したよ"
"見てしまったことを公言した上でお礼を述べることができるなんて"
"さすがの僕もかなりの勇気を振り絞らないとそんなことはできない"
"前の女子二人は君に キモイ だの 死ね だの暴言を吐いて駆け足で去っていったよね"
"それで君がちょっと伏し目がちになって歩くのを見て、僕は君を今にも抱きしめてしまいそうだったよ"
"そんなことがあって、信用たる君に僕の宝物を譲ることを決めたのさ"
"土の中に埋めたって嘘をついてしまって済まなかったね"
"君に話している途中で僕の中にある"エロ本への思い"が勝手に話をすり替えてしまったんだ"
"僕は君に譲ることを100%納得して、君に話しかけたはずなのにさ。それほどまでに僕の "あの子達"への思いは強かったようだよ"
"それで、あの後この山に上って、こうして メッセージを残す羽目になったのさ"
"そして、どうしてこのメッセージを書いてるのかと言うとね"
"もしかしたらこのクッキー缶を開けたときに、僕に騙されたと勘違いして、メッセージも観ずに帰ることを期待しているんだ"
"なんでこんな意地悪をしてしまうのか僕にもよくわからないよ"
"エロ本を譲るのを嫌に思う僕の気持ちがどうやら、とても強いみたいなんだ"
"もしかしたら、これは僕にかけられた呪いのようなものなのかもしれない……なんてね"
"この前約束したように一人で来てくれたよね?僕は君にしか譲るつもりはないから"
"あと、このことは誰にも言わないようにね。男と男の約束だ。"
"それじゃあ、エロ本達を大切にしてやってくれ。頼んだよ。"
"高崎より 本条くんへ"
p.s.
色々と迷惑をかけてすまなかったね。学校で会っても別に挨拶とかしなくても大丈夫さ。
もし、僕とエロトークがしたいなら、その時は言ってくれ。何時間でも付き合うよ




