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エロ本を探しに

 




「うおー、うおーーー」




 友人の体が”じわじわ”と地中に飲み込まれていく。

 遂には地上に彼の上半身だけになってしまった。




「あんまり動くなよ。こういうのは動かない方がいいってどっかで聞いたことがある」




 僕は両手を前に出し、ジタバタと足掻いている友人を制止した。

 何が起こっているのかを簡単に説明したいと思う。



 ――友人が"沼"に嵌ってしまった。

 ――以上。



 物事が長い間、上手く運ばないことを"沼に嵌る"などと言う。

 だけど、そういうのではなくて本当に"沼"に嵌ったのだ。



 事の経緯はこうだった。




 ********************************




 放課後、僕と友人はいつも通り僕の家に集合すると、漫画を読んだり、ゲームをしたりと、だらだらとした日々を満喫していた。


 このような惰性的な日々は非常に僕好みで素晴らしいし、僕の友人である"彼"にとっても好ましい状態であると思われた。



 しかし、その日の友人はどこか違ったらしかった。



 僕が大変興味深く少年雑誌の少し"えっち"な描写を、角度を少しずつ変えながら眺めて楽しんでいたところ、友人から声を掛けられた。




「お前はそれで満足か?」




 友人の方を見ると、彼が余りにも真剣な表情をしていたものだから、僕は茶化すように彼の前に正座した。




「と、いいますと?」

「お前は、こんな少年雑誌に載っているような"ヌルイ"絵を見て、喜んでていいのか……と、俺は言っている」




 彼が真剣な表情を崩さず、怒気を込めた口調で僕に言った。



 僕は、"今時の少年漫画は、案外、夜のお供となり得るほどの際どい描写を見せることがある"



 という持論を口に出すことは出来ず、彼が次の言葉を発するのを待つことにした。




「ゴルフ場のとこを超えて、真っすぐ行くと山があるやろ」

「はい。あります」




 僕は何故か敬語で答えた。

 ゴルフ場は僕の家の近所だった。




「あそこには大量のエロ本が隠してあるらしい」

「マジですか。隊長殿」

「ああ、すごくマジだ」




 友人の目は、じっと僕を見つめていた。

 すごい、瞬きもしやしない




「……"情報源"は誰からですか?」

「ふっ……」




 友人は自信たっぷりに笑う




「知りたいのか?」

「はい、知りたいであります」




 僕は隊長に敬礼をした。




「よろしい。ならば、教えよう」




 隊長はじっくりと間をためている。





「……"タカザキサン"だ」

「たか……ざき……えっ、誰?」




 僕は大変拍子抜けした声で友人に尋ねた。





「え、知らないのか」

「知らないよ……僕の知り合いだっけ、その人」

「いや、多分知らないと思う」

「殴るぞ」




 僕は大層呆れた。

 そしてこの友人の前で正座をしているのが損な気になって、足を崩した。

 友人は尚も続けた。




「まあ、ともかく"タカザキサン"は"エロ"に関してはうちの学校一って噂がある人なのよ」

「へぇー聞いたことないな。学年は?」

「3年」

「ふーん。その人、お前とどんな繋がりがあるの?」

「いや、この前初めて会ったんだけど、教えてくれた」

「はぁ?」

「中々感動的な出会いだったぞ。後ろから声を掛けられてな」

「え、怖いじゃん。急に話しかけられたら」

「うん……まあね」




 何だか怪しい話っぽいし、これはもう聞かなくてよさそうかな。

 僕がそんな態度をしていると、友人が少し焦った表情になった。




「いや、ちゃんと理由があって!俺にエロ本の隠し場所を教えてくれたのには!」

「へー、なんでなの?」

「なんでもタカザキサンは最近彼女が出来たらしい」

「なんだ。そのどうでもいい情報」

「いや、それがきっかけで"エロ"との決別を決めたらしいのよ」

「彼女が出来たんなら、"エロ"と決別してないじゃん。むしろガッチリと接着してるよ」




 僕は憤慨した。

 ”リア充”には厳しいのだ。




「いやいや、だから彼女以外のエロを捨てるってことやんか。男の(みそぎ)ってやつやろ」




 小さく”きっと”と友人が付け加えた。





「まあ、そういうわけで」

「どういうわけで?」




 僕はツッコミを入れる。




「今からそのタカザキサンが隠したと言うエロ本を探しに行きます」




 友人は僕を無視して、そう告げた。





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