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Brake Time コトダマアタック

久々登場、BrakeTimeです。

「何してんだ、桜木?」

 午前中の授業が終了した直後、ペンをクルリと回した薫の横に弁当箱を持参した陽太が、適当な椅子を見繕い自分の場所を確保しようとしている。

 昼休みの教室。今日は雨が降っているから、屋上で昼食とはいかなかった。そこで、薫の机を中心にランチタイムが始まろうとしていたのだ。しかし、机の上に見慣れない数字の羅列を見つけ陽太がポロリと言葉を零したのだった。

 その言葉を薫は「う〜ん」と生返事であしらおうとするが、その上に弁当がドサッと置かれ、集中していた思考が停止する。もう少しでたどり着きそうだった回答が、スウっとどこかへ消えてしまった。薫は溜め息を鼻から抜くと、対面で笑顔を見せる陽太に口を尖らせた。

「何するんだよ。もう少しで解けそうだったのに」

「悪い悪い。って、何してたんだよ。数字を並べて何が楽しいんだ?」

 へらへらと笑う陽太に、薫は弁当を机の端に寄せると、自分が何をしていたのかを見せつける。

「魔方陣を解いてたんだ。いわゆる一つのナンプレってやつ」

「魔法陣!?」

 知ってるよね? と紡いだ言葉だったのだが、どうもその反応は違う気がする。薫が一応念のためと補足説明をしようと口を開いたが、陽太の言葉が先にでる。

「な、何する気だ桜木。もしかして、悪魔を呼び出して俺の携帯を水びたしにするつもりなのか」

「違う!」

 やっぱりだった。文字にしなければわからないだろうと、『ナンプレってやつ』を後に付けたつもりだったが、やっぱり陽太には伝わっていなかった。見せびらかす様に二つ折りの携帯電話を取り出した陽太の姿を見据えて、やれやれと肩を落とす。

 別に、どうやって丸めこんで買ってもらったかわからない携帯電話が憎たらしいわけでもないし、それより、悪魔を召喚するつもりなんて、さらさらなかった。

「じゃ、じゃあ、俺の携帯に呪いを……」

「かけるつもりもない!」

「だったら……」

「しない!」

 まだまだ続きそうな陽太の被害妄想を、『面倒くさい』と叩き斬る。どうも、陽太が携帯電をを手に入れてから、何かに構わず、携帯へと結びつける被害妄想が展開されている様な気がする。その事で、こうやってバッサリ切り捨てる事が最適だと、委員長・康則と共に、毎日何度も切り捨て御免を実行していた。まさか、宮前先生だけでなく陽太にこの技を使う事になろうとは思ってもみなかったのだが……いや、心のどかでそれは感じていたのかも知れない。この二人は同類項で、足したり引いたりできる同じ存在だと。

 そうやって薫が深く溜め息をつくと、タイミングを見計らった様に大輔が椅子を引きずりながらやって来る。いつものメンバー終結完了に、薫も黙って弁当箱を取り出した。

「どうしたんですか? 桜木さん」

 さっきまでのやり取りを見ていた。と言うより聞いていたのだろう。訝しそうな表情で大輔が席に着く。

「実はな、桜木が魔法陣を書いてたんだ」

 お、仲間がやって来たと、迎える様に陽太が、椅子をずらし大輔の空間を広げる。

「へ〜、魔法が使えるんですか桜木さん」

 一体どこからその発言が出てくるんだと、溜め息交じりに大輔に一応説明をしようと口を開きかけたが……

「そうなんだぜ。悪魔を召喚して俺の携帯をだな……」

 続いた言葉に、その気も失せた。とりあえず手討ちにしておこう。

「破壊してやる」

 鋭い視線で携帯電話を睨みつけると、陽太の動きがぴたりと止まった。そして、慌ててポケットに宝物を落としこむ。それを見ていた大輔が、声を上げて陽太を笑った。

「ば、馬鹿だな。桜木さんを怒らせたら、命がいくつあっても……」

 大輔の言葉が途中で止まる。理由は簡単。薫の視線だ。

 何だか最近になって、こんなやり取りが多い気がする。最後に睨みをきかせて二人を黙らせる結末。少し暴力的な解決方法に流される自分が、昔とは違う様な気がしてならない。そんな事を考えた薫は、自嘲的な笑みを浮かべると、目の前にいる二人に溜め息をついた。

「一応説明しとくけど、魔方陣は二人が思ってるものじゃないから。数学的なパズルだよ」

「な〜んだ。そうなら、そうと、早く言ってくれよ。俺はてっきり携帯をねたんで……」

「折るよ。逆に」

 聞いた瞬間、陽太は両手で口を押さえる。膨れた頬が憎たらしい。

「桜木さんの手はわずらわせませんよ。森本、次言ったら、俺が折る」

 ある程度本気であるという事が、大輔にも伝わったのだろうか、それとも大輔自体、鬱陶しいと感じたのだろうか。まあ、どちらでも良い。薫は陽太の反応が面白くて吹き出してしまった。

 それを見ていた、陽太が照れ隠しの様に頭を掻く。ふてくされているように唇を尖らせると、原因はわかりづらい日本語だと口を開いた。

「それにしてもさ、難しくないか日本語って。同じ発音なのに違う意味があるんだぜ。何気ない物だって必殺技に聞こえる事がある」

「ん? 何だそれは?」

 大輔が、必殺技という単語に敏感な反応を見せた。それに気分を良くした陽太は立ち上がり、身振り手振りを激しく言葉を紡ぐ。

「例えばさ、東北新幹線。それっぽく言うと――『ひぃっさつ! とぉーほく、新・幹・せぇーん!!』って感じ」

「言い方だけじゃない?」

 恥ずかしげもなく『ひぃっさつ』なんて叫ぶ陽太を、頬杖をつきながら細めた瞳で見つめる薫。しかし、大輔の反応はその反対だった。

「森本。そうやって叫ぶより、こう、さすらいの剣士が必殺技を繰り出したあと『必殺、東北新幹線』て静かに言った方がカッコ良くないか?」

 意外な反応に薫の口が半開きだ。大輔は絶対こんな話をしないと思っていた。なのに、結構楽しそうにそれをやってみせる姿が、とても面白い。自然と薫に笑顔が零れた。

 そんな薫をほったらかしに、二人の会話がヒートアップし、必殺技っぽい掛け声の応酬が始まった。


「じゃ、じゃあ、これはどうだ『喰らえ、地獄の業火、ハミングフレア!』」

(えっと、洗剤だったかな……)

「や、やるじゃねぇか。だったら『争議権! 団結権! 団体交渉権!!』

(労働三権ですね……)

「三ヒットコンボ……恐るべし。でもまだ『ターヘル・アナトミア!!』」

(本の名前……だったかな)

「くそぉ、横文字ばかり使いやがって。こうなったら『奥義! 式子内親王しょくしないしんのう!!』

(平安末期・鎌倉初期の女流歌人。後白河天皇の第三皇女。賀茂の斎院になり、のち出家。和歌を藤原俊成に学んだ人)


 冷静にツッコミ的解説を入れた所で、周りの視線が自分たちに集中しているのがわかる。ここまで大声で恥ずかしい言葉を連発しているのだ。目立たない方が無理というものだろう。それに耐えきれないと、薫が二人を止めようとした瞬間。

「いい加減にしなさい」

 隣で、いつもの様に文庫本を広げていた委員長が、眼鏡をキラリと二人の間に割って入った。

「うるさくて、本が読めないでしょ」

 言葉の戦いを中断させられた二人の視線が委員長に集まる。

「邪魔すんな宮前。これは、俺と森本との戦いだ」

「そうだぜ委員長。それとも俺たちを倒す必殺技があるって言うのか?」

 すごい剣幕で詰め寄る二人。しかし、委員長は一度深く溜め息をつくと、馬鹿な二人にしか聞こえないくらいの声で、たった一言、囁いた。

「……」

 瞬間。その言葉が本当の必殺技であったかの様に、聞いた二人が倒れこむ。それを鼻で笑った委員長はやっと静かになったと、自分の席に戻り文庫本を静かに開いた。

(な、何が起こったんだ?)

 訳がわからない薫は、とりあえず二人の様子を確認する。力なく倒れこんでいる二人の口が、酸素を求める金魚の様にパクパクと動く。

「な、何? 何があったの」

「さ、桜木さん。あいつは強すぎる……」

 息も絶え絶えな大輔。

「ど、どういう事?」

「委員長は、最終兵器を、持ってたんだ」

 薫にすがりつく陽太。

「最終兵器って?」

「そ、それは……」


 ――袖ビーム――


 最後の言葉を残して、二人は白く燃え尽きた。

「森本ー! 大輔君ー!」



 袖ビーム――ガードレールの端にあって、丸まっている部分のアレ。


すいません、藤咲一です。BrakeTimeは、やっぱり息を抜かないとという事でこんな感じです。皆さんも『必殺技』の一つや二つお持ちですよね。なんて……

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