乗客を乗せて
「10時30分発、日本行きに搭乗のお客様は10番搭乗口までお急ぎください」
めんどくさ過ぎる・・・自分で飛んでいったほうがよっぽど早く日本に着けるのに・・・
航空券を握りしめる手に一層力がこもった。
だが、日本行きを反対していた父が、出発の1週間前に用意してくれた航空券を使わないのは、用意してくれた父に悪い気がした。父も、私が能力で日本まで飛んでいけることは当然知っていた。でも、父は私が能力を使う事があまり好きではなかった。ある日、母から聞いたことがあった。
「お母さん、お父さんって私の能力嫌いなのかな?」
台所仕事をしていた母に、なんとなく聞いた。
「そうね、お父さんは嫌いかもね」
「お母さんも?」
「お母さんもお父さんと同じ気持ちかな」
「どうして?こんなにすごい力なんだよっ! この力を使えばスーパーヒーローになれるよ」
「…そうね、雫の力ならなれると思うわ」
「でしょっ! 私の力は凄いんだから」
搭乗ロビーには同じ飛行機に乗る乗客が搭乗口で列を作っていた。
なんだ全然急がなくったって間に合ったじゃない。アナウンスでお急ぎくださいなんて言うから急いできたのに、もう少し状況を見てアナウンスできないのかしら。
そう思いながらも、最後尾に並らぶと、大きな窓の外はこれから乗るであろう飛行機が出迎えてくれた。
飛行機ってよく見ると、なかなかかわいい顔してるわね。スマホを取り出すと写真を一枚撮ると、母に「飛行機って案外かわいい顔してるよね」と写真付きでメッセージを送った。
そんなことをしていると、後ろから息を切らした少女が並んだのが分かった。
「お母さんッ! 早くッ! 」
「…マリア、お母さんもうダメ…く…苦しい」
ほら…あんないい加減なアナウンスするからここにも騙された親子がいるぞ、よし航空会社に苦情のメッセージを送ってやろう。暇だし…
この親子が並んでからは、もう乗客らしき人が並ぶことがなかったので、搭乗を並ぶ順番としては遅いほうだったのかと考えたら、あながちあのアナウンスは間違えではなかったのかな?
ようやく次が私の航空券のチェックかと思っていると、一人また一人と後ろの親子の後に並ぶ者たちが現れた。最終的には10人が並び、また長い列が形成されていた。
一人一人がプロレスラーのような体格に強面な姿、後ろの少女は状況を察して母親にしがみつき、その母親も後ろからのプレッシャーから不安な表情を見せていた。
「怖いですよね、お先にどうぞ」
「えっ!? あっありがとうございます」
親子に順番を譲ると、なるほどね、確かに…この威圧感、あの親子には数分でも生きた心地がしなかったろうなぁ。可哀そうに。
ここで再起不能なくらい全員ギタギタにしてあげても良いけど、何かされたわけでもないし…大人しくしてあげるわ、超絶優しい私に感謝しなさい。
そして飛行機は乗客を全員のせて、アメリカを飛び立った。





