雫
「……はい、もしもし」
「やっと出たッ! 可愛い妹からの電話なんだからもっと早く出てよね」
兄の贔屓目に言っても、咲良やレイカと比べて引けを取らないくらい可愛い。
一緒に買い物に出掛ければ、過ぎ行く人の視線の殆どが雫に向けれらる。
そんな妹は――――超絶お兄ちゃんLOVEなのだ
一緒に出掛ける時は、まるで恋人のように歩く妹。それが、本当の彼女ならどんなことを言われても、幸せ一杯な気分なんだろう。
だがしかし、妹なんです。
「は?こんな男がこの子の彼氏?」
「ちょっと不釣り合い」
過ぎ行く人達の謂われない中傷にたいして「違う!彼女じゃなくて妹なんです」と一人一人に説明するわけにもいかず。黙って失笑の視線を浴びながら歩くしかなかった。そんなオレの気持ちなど露知らず、妹は人通りが多くなるにつれて、ベタベタと密着度を強くする。
だから、以前に一度だけ、「あまりベタベタと抱き着くな、雫と歩くと彼氏と間違えられて、俺にまで視線がくるだろ」と怒った事があった。妹は黙ってうつ向いた。あれ?普段なら煩いくらい言い返して来るのにやけに大人しい、余りにも大人しすぎるので、もしかしたら泣いているかと心配になったので、そろり妹の顔を覗き込んでみた。
すると、口角がつり上がり、薄ら笑みを浮かべる雫、「分かった、お兄ちゃんを笑った奴らみんな殺しちゃえばいいよ、そしたら雫はお兄ちゃんと一緒に歩けるじゃん」不気味な笑みの奥にサイキッカ―としての裏の顔が姿を見せた。
生まれながらに強力なサイキッカ―としての能力があった雫。予知、透視、瞬間移動など様々な能力をもっていたが、特にテレキネシス(念力)の力がスバ抜けていた。
雫が中2のある日、新幹線で家族旅行に行こうとしたときだった、ホームで新幹線を待っていると、ホームで遊んでいた子供が誤って線路に落ちてしまった。気付いた乗客がすぐさま非常停止ボタンを押そうとするが、時すでに遅く新幹線がホームに入ってきていた。もうダメだと誰もが思った瞬間―――、一時停止された動画のように新幹線がピタリと停止したのだ。その場にいた全員がその不思議な光景に釘付けとなっている中で、妹の雫だけは、躊躇いもなく線路に降り、子供を抱き抱えてホームへと戻ったのだ。
そう、雫のテレキネシスは、物体の重さや大きさ・質量に関係無く、物を操作することも変形させることも出来る。
だから、雫にとったら、人間なんて豆腐を握り潰すより簡単な事だ。
普段は、冗談も言う妹だが、今の妹は笑っていても目が本気。このままだと、オレ達が歩いた跡には無惨な肉片しか残らない。
「分かったッ! 分かったからッ! だから物騒なこと言うな、もう回りの視線は気にしないッ! 気にならないから」と必死に妹を説得してなんとか収まったが、それからというもの、妹と出掛けるている時に、笑っている人を見ると、その人の体が突然、爆発するのではないかと戦々恐々だった。
日本に行く前に、妹から「1日一回は必ず連絡すること」と約束させられ、しぶしぶ日本留学を許してもらえた。本当、親父を説得するより、雫を説得する方が難しかった。
当初、俺はアメリカのハイスクールに通う予定だった。そこは親父の親友が理事を勤めているアメリカ指折りの名門学校で、親父もそこの卒業生だったから、俺もそこへ行くのが当然だと思っていた。
試験も無事に合格し、入学までを三ヶ月というときに、日本から一通の手紙が届いた。
『拝啓
錬太郎君、咲良です、お元気ですか?。突然の手紙で驚ろかしちゃったかな。っていうか私のこと覚えてますか?貴方に散々苛められ、空港でファーストキスまで奪われ、貴方には本当に散々な目に合わされました。でも、そのお陰で気弱だった私も少しは強くなったんだと思います。来年はお互いに高校生ですね。私はレイカと同じ高校に行くことになりました。あ、レイカ覚えてる?私といつも一緒にいためちゃくちゃ綺麗な女の子、あれからまた一段と綺麗になったんだよ。錬太郎君も背が伸びてカッコ良くなってるのかな(笑)彼女とかもいるのかな。では、またいつか会えるときが合ったら良いですね。敬具
宝生 咲良』
忘れていた訳じゃない、たまに思い出すこともあった。それは思い出として振り返るだけの記憶。いずれは忘れてしまう幼き頃の思い出。
――――のはずだった。この手紙を読むまでは。
パソコンの電源を入れると、咲良達が入学する高校の名前を検索した。そして、入試情報を探す。
『本年度一般入試の募集は全て終了しております』
何やってんだオレは、もし仮に募集していたら受ける気だったのか? オレはアメリカの高校に合格し、その高校に行くとこが決まっているじゃないか。深呼吸をして頭を冷静にするが、落胆しているのが自分でも分かった。ぼんやりと画面をスクロールする。ん?
『帰国子女入試 定員3名 試験日 12月27~28日 試験は各国で行います』
……そのまま親にも相談せずにネットで入試受付を済ませてしまった。
試験当日は、友達と遊びに行くと言って試験を受けた。
後日送られてきた試験の結果は、合格。もう、俺の気持ちは決まっていた。
数日後、親父がいる書斎のドアをノックした。
「あのさ、親父、相談があるんだけど」
「入れ」
パソコンに向かって仕事をしている親父の背中が見えた。
「なんの話だ?」
「……あのさ、高校のことなんだけど」
キーボードを打つ手が止まり、ゆっくりと振り向いた。
「おれ、日本の高校に行きたいと思ってる」
「……話はその事か?ダメだ」
またパソコンに向かいキーボードを打ち始めた。
「もう、入学手続きしてきたから」
「決定事項は相談とは言わないぞ、こっちの高校を蹴るだけの理由があるんだろうな」
「親父にとったらバカな事だと思うだろうけど、俺は一緒に高校生活を送りたい奴らがいる、だからそいつらと同じ高校に行く」
そのあと数日間、俺への説得が続いた。
「将来を棒にフルのか」
「学費、生活費は出さない」
「どうしても行くなら、もう帰ってくるな」等々
最終的には、「勝手にしろ」と出発の日になっても親父は口を聞いてくれなかった。一方で唯一の理解者であった母は「大丈夫よ、心配しないで精一杯頑張ってきなさい」と応援して送り出してくれた。
雫は……「絶対に行かせない」の一点張りで、終いには妹の部屋に監禁されてしまった。しかし、その頃には、セルフィーから受けた修行のおかげで妹の能力を破って逃げ出すことも出来たが、力ずくの突破は雫を傷付けてしまう可能性があった。そこでセルフィーに協力してもらい妹の能力を無力化してもらった。
力ずくでの抵抗が出来なくなった雫は、大粒の涙を流して「行かないで、お兄ちゃん」と泣き叫んだ。そんな妹を抱き締め「ごめん、ごめん雫」と泣き止むまで抱き締めながら言い続けた。
そして、こっちに来てからというもの色々と忙しくて雫への連絡を全く忘れていたことに、今更ながら気付いて超絶焦っている。
「わ、悪い、丁度今起きたところなんだ」
「もう、もうお昼過ぎだよ、休みだからって何時までも寝てないッ! まぁ、こっちに居たときは雫が毎日起こしてたからね、だからお兄ちゃんに独り暮らしなんて無理だって言ったんだよ、咲良ちゃんやレイカちゃんはどうしたの? やっぱりあの人達じゃダメね」
「ちょ、ちょっと待てッ! 咲良やレイカは関係ないだろ」
話がヤバい方向に行きそうだ。雫は子供の頃から何故か咲良やレイカに敵対心を持っていて、特に咲良に対して対抗意識が強かった。





