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知らない所で、色々と動いているようです


 ノルウェー・ジャン・フォレスト・キャットは女神フレイヤが乗る車を牽かせる為に用いた巨躯のネコ。


 かの雷神トールでさえ、その巨躯の為持ち上げることが出来なかった。


 トラ吉はその血を濃く受け継いだ。戦闘時になれば、巨大化してもネコ特有のしなやかで俊敏な動きは失われず、竜巻のような攻撃が襲い掛かる。


 そんな攻撃力を持っていても、飼い主である咲良やレイカのまえでは只野食いしん坊なネコ。


 しかし、今はそんなナリを感じさせないトラ吉がいた。


 ガラス玉のように大きな瞳がバルコニーにいる人物を捕らえる。


 「懐かしい香りがするから来てみれば、どうしたのだ?ルア」


 「お母様……少し昔の事を思い出していました」


 「……心配性なところは誠一郎にそっくりじゃな、心配無用じゃ、ワシの探索能力は我が父をも凌ぐ、奴が『この星』の『この時間軸』に居ることは間違いない、焦らず探すことじゃ」


 「そうですね、必ず見付けます」


 「しかし、この地球は騒がしい星じゃな、それとも偶然なのか……フフフ、いや必然なんじゃろう、そうであろう」


 マナは誰もいない漆黒の空間に視線を送る。


 マナの誰かに話し掛けるような言葉に、レイカが首をかしげると、「気にするな」と笑った。


 しかし、完璧に気配と姿を消していた筈なのに、マナに存在を射ぬかれたトラ吉は身の毛がよだつ思いで、その場から全力で逃走。


 (オオオオオオオ、おっかないニャッ! )


 ☆


 「あら、バレてしまったわ」


 トラ吉の瞳を通して覗き見をしていた女神フレイヤは、クスクスといたずらっ子の様に笑った。


 「如何致しましょう、戦闘の準備を致しますか?」


 「面白そうだから覗いていただけ、血生臭い事には興味ないわ」


 「では、シダは引き揚げさせます」


 色香が漂う艶やかな身体を魔獣フェンリルの毛皮が敷いてあるベットに沈ませた。


 「そう……いえ、ネコはそのままで良いわ」


 フレイヤは悪巧みを思い付いた子供のような笑みを浮かべた。


 ☆


 錬太郎が自分の部屋に戻ると、誠一郎が「待っていたよ」っとばかりにグラスを持たせビールを注がれた。


 「えっ?!誠一郎さんボクまだ未成年なんですが――」


 「ん?あっそうだったね、だってさぁセルフィーさん寝ちゃって、付き合ってくれる人がいないんだよ」


 横を見るとアル中寸前で真っ青なセルフィーが「寒い…寒い」と震えてダウン中。


 (誠一郎さん、どんだけ飲ませたんですか……)


 ため息を漏らしながら、その張本人を見ると、今度は滝のような涙を流し泣き叫んでいる。かと思えば、長々と奥さん自慢に娘自慢を聞かされ――

 やっと眠ってくれた。


 自分の父親も酔って帰ってきたときは、こんな感じだったなぁ、大企業の社長さんでも、普通の人ってことだ。


 そう言えば、日本に来てドタドタしてて、まだまともに連絡していなかった。


 携帯を取り出し、親父の番号を表示させるが通話ボタンを押す気持ちにはなれなかった。


 親父には半ば喧嘩別れで日本の高校進学を決めてしまった手前、1ヶ月も経たないで連絡したら、何て言われるか分かったもんじゃない。


 画面を消すと、携帯をズボンのポケットに突っ込んだ。


 しかし、反対しながらも学費や何やら払ってくれている事を感謝していない訳じゃなかった。



 やっぱり……寮に帰ったら電話してみるか。


 ☆


 「由加理、錬太郎から連絡はないのか?」


 キッチンで夕飯の支度をしていると、ソファーに座ってニュースを見ている夫の声が聞こえた。


 「気になるなら連絡してみたら?」


 「そんなこと出来るかッ! そもそもアイツが――――」


 オタマに乗せた味噌を溶かしながら、ため息をつく。


 殆ど喧嘩別れのように日本へ行かせてしまったので、自分から連絡できないのだ。恐らく、勝ち負けとか、親の威厳なんかが邪魔してるのね。


 「ハイハイ、折角こっちで良い進学校に受かったのに、幼なじみとの約束を優先させた事でしょ、もう良いじゃない」

 

 横から口を挟んできたのは、ソファーで雑誌を読んでいた中3の娘『雫』。


 「あら、びっくり一番反対してたのは雫ちゃんだったのにどうしたの?」


 お兄ちゃん子だった雫は兄から離れるのが嫌で夫と共に猛反発、しかも日本に行きたい理由が幼なじみとの約束だったことを知るや、兄を部屋に監禁し大騒動だったので、その娘の言葉に驚いた。


 娘がソファーで読んでいた雑誌をテーブルに置き立ち上がると――――


 「私も来年、日本の高校に留学する、だから来週、下見を兼ねて日本に行ってきます」


 鼻息を荒くした娘が、腰に手を当てピースサインをしている姿が目の前にあった。


 突然の告白で、持っていたオタマを落としてしまった。


 (……錬太郎、ごめんなさい、お母さん……この暴走を止められないわ)


 

 

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