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追憶とフロージア

 

 旅館のバルコニーにレイカの姿があった。


 いつもの元気なレイカとは想像も出来ないほど、思い詰めた表情で。


 おもむろに浴衣の袖からを取り出したお守り袋位の匂袋を、胸元で大事そうに握りしめた。


 (絶対に、諦めないから――)


 ☆


 「レン! 早くッ! 今日が【その日】だったのよッ! 」


 「ちょ、ちょっと待ってよ! ルア」

 どこまでも広がる緑の草原を金髪の少女に手を引かれる少年は、転ばないように必死に走っていた。


 そこはいつも少年と少女が遊んでいた、秘密の場所。


 その場所は、エドラスの大樹が天高くそびえ立ち、今まさにその長き寿命を終えようと残りの命を昇華していた。それは、周囲に神々しい空間を形成し、神秘的な香りが漂う世界を作り出していた。


 「「……す すごい」」


 それは奇跡と呼べる光景だった。


 目の前には満開の『フロージア』が咲き誇り、黄色い花びらのカーペットが地平の彼方まで続いている。



 『フロージア』は幻の花と言われている。それは『フロージア』が咲く条件にあった。古文書によると、エドラスの大樹がその長き寿命を終える時、『フロージア』の黄色い花が辺り一面に咲き誇り、その香りは遠く異国の地にも届いた。と記されている。


 エドラスの大樹の寿命は10億年とも20億年とも言われているが、古文書にも正確な寿命は書かれていない。


 また、古文書には『フロージア』が咲いていられる時間は、1時間程度だったとも記されている。その寿命の短さから本物を実際に見た人物はこの古文書を書いた人物だけの為、『フロージア』が伝説の花、架空上の花などとも言われてい由縁がそこにあった。


 そして、もう1つ『フロージア』にまつわる言い伝えが古文書の最後に記されていた。



 「ねぇレン、この『フロージア』の言い伝えを大きな声で言ってよ」


 ルアは一輪の『フロージア』に顔を近付ける。



 「『エドラス』、終の生命で【願い花】を咲かせる。その花の蜜を飲めば、どんな願いも叶える事が出来た」


 ルアは満面の笑みと、期待と希望を込めた声で叫ぶ。


 「さぁッ! レン君、期待してるわよ」


 「え――――ッッッ!無茶だってッ! 」


 それは砂浜から1粒の石を探すようなもんだ。


 (古文書には、その花の特徴とか書いてなかったし、それに、この中から一輪を探すなんて不可能だよ)


 地を這いつくばりながら懸命に探し続けて、55分が経とうとしていた。


 ルアもさぞかし一生懸命さがしているのだろうと、視線を向けてみると、一輪一輪に楽しげに話し掛けているのが見えた。


 (探す気あるのかなぁ……)


 なんだか急にやる気が無くなった。


 (ボクには叶えたい願いなんてないし、なんでこんなに一生懸命探してるんだろう……)


 探すスピードが落ちた。


 すると、それに気付いたルアが探すのを止めて、ボクの手を力強く握り締めた。


 「……いつも言ってるけど、最後まで諦めちゃダメ、最後の1秒まで諦めないで、レンになら絶対に見付けられる! 」


 (諦めないで……)

 

 その言葉に聞き覚えがあった、あれは確か……


 フラッシュバックする記憶。



 ボクには、ルアと出会う前の記憶がなかった。



 ☆


 目覚めるとそこは、厚い雲が雨を降らしていた薄暗い世界。濡れた地面が横たわった体から急速に体温を吸い取っていく。雨に濡れた汚いフードの隙間からは、道を行き交う人々の靴だけが見えた。


 (今度は――失敗しない)


 突然、感情が記憶を飛び越えて溢れた。


 理解できない感情にとまどったが、考えを巡らすにはあまりにも体力も気力も枯渇していた。


 そして限界を超えた。


 ゆっくりと閉じていくまぶたの脳裏に、ぼんやりと浮かぶ人物が何か叫んでいた。


 








 「   でッ!」


 (声が聞こえる?)


 「諦めないでッ! 」


 (……だれ?)


 ゆっくりと地面から体を抱え起こされる。


 清潔な服の匂いと人の温もり……それにとても良い香り。


 (止めて、汚しちゃう……)


 そこで、意識が無くなった。


 その後、目を覚ましたボクの視界に広がる世界は薄暗いモノではなかった。まだ体を動かす事は出来なかったが、横を見るとベットの脇で綺麗な金髪の少女が小さな寝息を立てて眠っていた。


 部屋を見渡すと、初めて見る物ばかりだったが、1つだけ記憶にあるものがあった。


 (この香りは知ってる……)


 

 ☆


 思い出した。

 

 そうか、あの時の香りは『フロージア』だったんだ!


 「『フロージア』を見た人は古文書を書いた人だけなのに、なんでルアから『フロージア』の香りが……」


 「鈍感やっと思い出したのね、特別に教えてあげる。あの古文書を書いたのは私のお母様よ。当然、私は【願い花】がどんなのかも聞いているわ」


 「なら、ルアが見付けてくれたら良かったのに」


 「言ったでしょ、私はレンに見付けて欲しの」


 「……どうして」


 「超鈍感ッ! あなたからプレゼントしてもらいたいからに決まってるじゃない、ここまで私に言わせておいて、まだ諦めるつもり!?」


 怒ったルアは、あっちに行ってしまった。


 残り時間1分弱ッ! この数だ、闇雲に探しても絶対に見付からない、考えるんだ……。


 ルアのお母さんはどうやって探し当てたんだろう…。特別な能力?それとも道具? だけど、ルアやボクは探索能力も、まして道具も持っていない。


 もう少し【願い花】の情報があればなぁ……


 【願い花】に関して情報があるのは――


 古文書だけだ。となると、そこから何かヒントを読み取るしかない。


 


 


 そう言えば、なんでルアはボクに古文書の最後の1文を声に出して言わせた?ルアだって知ってる筈なのに……


 今になって、その事が妙に引っ掛かった。


 もう一度、古文書の最後の1文を口ずさんでみる。


 「『エドラス』、終の生命で【願い花】を咲かせる。その花の蜜を飲めば、どんな願いも叶える事が出来た」


 別に普通だ…………ルアと一緒に、期待と希望を膨らませて何回も読んだ文章。


 だけど―――――何か引っ掛かる。


 何度も何度も、最後の1文を頭の中で読み返してみた。


 読み返しているうちに、ある箇所で「あッ」と閃いた。


 (…………そうかッ! ボクはものすごい勘違いをしていたんだ)  


 もう時間がない、『フロージア』は、姿を光の粒子に変えようとしていた。


 ルアはこちらに背を向けて、命を出しつくし透明なクリスタルに変わっていくエドラスを眺めていた。


 ボクはおもむろにルアの足元に咲いていた『フロージア』を手に取り、ルアに差し出した。


 「ごめん、遅くなって」












 「……バカ 気付くの遅い」


 ルアは満面の笑みを向けて飛び付いてきた。



 本当にバカだった。ルアは最初にヒントをくれていた……答えは直ぐそこにあったんだ。


 (エドラスは終の生命を使い【願い花】を咲かせた。)


 【咲いた花『全て』が願い花】だったんだ。



 そう、ボクは期待と希望が膨らみ過ぎて、願いを叶えてくれる花は、特別な一輪だけだと勝手に思い込んでいたんだ。1つだけなんて書かれてないのにね……先入観って怖い


 



 後に、どうして全部が【願い花】だって事を最初に教えてくれなかったのか、ルアに聞くと―――


 「一生懸命探してくれた物を、プレゼントしてもらった方が嬉しいじゃない?」と小悪魔な笑顔を向けた。



 

 ☆


 トラ吉は旅館の園庭にある松木の枝でゆったりと夜風に当たりながら、流れるような長い毛の毛繕いをしていた。


 「ニャ?」


 すると心地よい風に乗って、今まで嗅いだことのないとても良い匂いを嗅ぎ取った。


 (食べ物の匂いじゃ……ないニャ、これは植物、花の匂いかニャ?)


 あまりにも良い匂いで、大切な食後の毛繕いすら忘れて、匂いの出所を大きな瞳を使いキョロキョロと探していると――――

 その大きな瞳がギュッと細まる。


 トラ吉は気配を消すと、獲物に気付かれないようにゆっくりとバルコニーを見渡せる枝まで移動した。



 

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