魂の移植
ザクッ!
滴る血が床に花を咲かせていく。
「ルナ、まだ死なれたら困るの」
ルナが胸に突き刺そうとしたハサミの刃先は、白衣を着たかつての上司アキナの手を突き刺していた。暴れるルナの口と鼻を、背後にいた男が布で塞ぐと、気を失ったルナは床に崩れ落ちた。
「いいわ、運んで」
運ばれるルナを見ながら、アキナは血が流れる傷口を、ハチミツを舐めるように舌で拭き取ると、ペッ!と吐き出した。
「・・・自分の血は、不味いのね」
メガネの奥にある瞳が赤く光った。
―――――――
咲良はガラスを壊そうと必死に攻撃をするが、予め、対咲良用に準備された、超耐熱性ガラスは咲良の攻撃を全て吸収して、亀裂さえ出来ずにいた。
ドンッ!ドンッ!ドンッ! 「ティア!ティア!」
ガラスを叩き、大きな声でティアを呼ぶが、防音性もあるガラスのため、咲良の声は倒れたティアには届いていなかった。
叩くのを止めた咲良は、ガラスから少し離れ黒炎を纏い、巨大な光の玉を作り出した。
すると部屋のスピーカーから年老いた老人ぽい声が話し出した。
《止めなさい、宝生 咲良君、そのガラスは原爆の爆風温度にも耐えられる品物だが、それ以上のエネルギーで攻撃を加えると、女の下に設置してある爆弾が反応して爆発する。君は助かっても、そこにいる二人は確実に死ぬだろう》
咲良は唇を噛み締めると、光の玉を消した。
「どうしてこんな酷いことするのッ!?」咲良は広い部屋に響きわたるくらい、大きな声で叫んだ。
《酷い?No30001号は神の器として選ばれたのだ、光栄な事なのだよ》
「ティアちゃんはそんな事、望んでないッ!」
《あれは元々、我らが生み出した物、物に意志などない》
「そんなことないッ!心もあるッ!命もあるのッ!人間なのッ!!」
《あったとしても、もうすぐそんなものは無くなってしまう》
ティアの体がゆっくりと地面から上昇していく。
「何をするきッ!」
《我らティターン族の悲願、クロノス様の復活だ、その為の器になってもらう》
原初神クロノスは、全知全能の神ゼウスの親で、巨人族ティターンを従え、地球を支配した王である。そして、アギスとの戦いによって肉体は滅ぼされたが、魂は仲間によって地中深くに隠されたので、アギスから守られた。
ティアは抗うこともなく、まるで胸から伸びた糸で吊るされた、糸人形のように手足は力無く垂れて、長く垂れた白銀の髪は、空中に引き上げられる反動に合わせて、規則正しく揺れていた。
《よし!始めよう》
天井から降りてきたのは、クロノスの魂が入ったアダマスの大鎌だった。
この鎌はこの世で最も硬い金属とされているアダマス製で、その切れ味は万物を切り裂くと言われる。そして、この鎌に、クロノスの魂が眠っているのだ。
鎌がティアのいる位置まで降りると、鎌から無数の稲妻が発生し、ティアの体に突き刺さっった。稲妻は脈打つ血管のように、鎌に眠っているクロノスの魂を器へ送り始めた。
「・・・どうしたら・・いいの・・」
罠に嵌まってしまった咲良は何も出来ずに、愕然とその光景を、ガラス越しに見ているしか出来なかった。
―――――― ティアの精神世界
「・・・・・ここは?」
真っ白な空間にティアは浮いていた。
音も匂いもない、目の前に広がるのは真っ白な世界だけだった。
「ここは貴女の心の中よ」
空間中に響きわたる、綺麗なメロディを奏でるような、女の子の声が聞こえた。
真っ白な空間に、辺りから無数の光の線が出現し、一点に収束し始めると、大きな玉となった。その玉は、ガラスが割れるように弾けると、光に包まれた人が産まれた。包まれた光が徐々に晴れて、姿を現したのは、ティアにそっくりな子供だった。
「初めまして、クロノスと申します」





