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六話:変わり映えのある登校

実は先日投稿させていただいた「五話:博隆は家に帰って夢を見る」なのですが、急きょ大幅に内容を変更させていただきました。というのも、別に書いていた短編小説を誤って挿入してしまったためです。この作品に触れてくださっている皆様には多大なるご迷惑をお掛け致しましたことを心よりお詫び申し上げます。加えて、投稿ペースを守れなかったことを重ねてお詫び申し上げます。以後、このようなことがないように気を引き締めて、取り組んでいく所存です。

 ジリリリリリ……


 今日は週初め、月曜日。世の中の大半の人が一生来なければいいと願っている日。博隆の部屋の中では、時計の短針が丁度七を指す頃、携帯のアラームが博隆のこれ以上の睡眠を許さないとばかりにけたたましく鳴り響いていた。


 窓から入ってくる太陽の光が眩しく、満足に目も開けられていない状態の博隆は自分の体に鞭を打って、一階のリビングに向かった。


 博隆は母に身だしなみを整えるよう促されたので、言われるがままに従う。用を足し、顔を洗い、歯を磨き、髪を整え、部屋に戻り、制服に着替えた。脱いだ寝巻きを丸めて、洗濯機へシュート。リング(縁)に触れることなく、中に吸い込まれていった。博隆はガッツポーズをする。こんな少しのことでも、今日何かいいことが起こるじゃないかと思う。


 リビングに戻り、母が作ってくれた朝食に手をつける。っとその前に、きちんと自分の前で手を合わせる。


「いたただきます」


 今日のメニューは食パン、コーンスープ、サラダと洋風になっている。

 博隆は側にあったテレビのリモコンを操作して、いつも見ている情報番組をつける。


「おっと、もう占いやってる」


 博隆は毎朝欠かさず、この番組の占いを見る。別に占いの結果でどうこう、ということはないのだが、なんとなく日課となっていた。


「なんか今日、九位くらいな気がするな…」


 二十代後半くらいの大人しそうなアナウンサーが朝からテンションを上げて、順に発表していく。


「今日の天秤座の運勢は〜ごめんなさい九位。余計なことを言ってしまい、仲のいい人に嫌われちゃうかも。今日はおとなしくしておいた方がいいかも。そんな天秤座のあなたのラッキーアイテムは〜ピカピカの十円玉。きらきら輝く十円玉があなたのことを守ってくれるでしょう。十位は………」


「本当に九位か。それにしてもピカピカの十円かー。持っていかなくても、特別何かが起こるというわけじゃないとは思うけど…」


 博隆はそう呟き、財布の中にピカピカの十円玉が入っているかを思い出していた。


 朝食を終えると、もう一度自室へ戻り、昨日時間割を確認してまとめておいた教材達をカバンの中につめてから、玄関に行った。小物入れの中にあった一番きれいな十円玉をポケットの中に突っ込み、靴を履いて出ようとしたところで、母に肩を叩かれた。


「せっかく、弁当作ったんだから、忘れずに持って行きなさいってば」


「あ、ごめん」


 博隆は母から弁当箱を受け取ると、今度こそ玄関のドアを開ける。


「行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい。車に気を付けなさいよ〜」


「うん」


 思わぬ形で母に見送られた博隆は今日もいつも通り学校を目指す。


 今日から十月に入り、自然界は秋への準備を整えつつある。快晴、とまではいかないものの空は晴れわたっており、まばらに浮かんでいる雲は空高くを流れている。西方から吹きつける風も夏にはないどこか悲しげな色を含んでいるように思える。


 博隆は三原高校の側に続いている伏満川の河原を歩いていた。

 博隆は毎日そこで様々な人達とすれ違う。飼い犬の散歩をする女性、近所の中学校に登校する男子生徒、健康のためだろうか、リズムよく腕を大きく振り、大股で歩く高齢の女性。本当に沢山の人がここを通る。

 河原沿いには秋の花の代表格、河原撫子が咲いている。大和撫子とも呼ばれる淡い紅紫色の花が絨毯の様に敷き詰められていた。

 河原撫子の花弁が台風などの強風で散ってしまわないか心配になる。こんなにも美しいくて、朝、自分の心をこんなにも癒しで満たしてくれる花を一日でも長く見ていたいと思ったからだ。


 博隆は前方に博隆と同じ制服を身につけている女子生徒が目に入った。当然、柏森高校の側まで続いているので、ここを通るのは博隆一人ということがあるはずはない。しかし、博隆がその女子生徒の顔を認識できる距離まで近づくと、頭の中をたくさんの疑問符が飛び交った。なぜ恵美がここにいる?どうやら恵美も博隆に気づいたようで、あいも変わらずの良い姿勢でこちらに走ってきた。


「おはよう、博隆くん」


「う、うん。おはよう。でも、恵美がどうしてここに?」


 博隆は帰るとき、雅人と恵美と一緒に帰るために大回りしている。だが、学校に行くのも三人でという訳ではなく、各々一人で登校している。そして、恵美は帰り道と同じ道を通って登校しているはずだが、こうして目の前に彼女は立っている。疑問に思わざるを得ない。


「えっと…気分転換かな…?」


「なにそれ」


 博隆はなんとなくだが恵美が嘘をついていることに気づいていた。と言うのも、まず彼女が理由もなしに非効率的なことをするとは思えないし、なによりも彼女が話している時に目を逸らすなんてことは今まで一度もなかった。だから、恵美は何かしら動揺しているのではないかと感じ取れた。だが、あえてそこには触れないでおく。


「恵美でも気分転換したくなる時なんてあるんだな」


「何それ?どういう意味なのか聞かせてもらってもいいかな?」


恵美は頬を膨らませながら、上目づかいで博隆に言葉の真意を問いただす。

しまった。適当に流そうと思っただけなのに、思わぬところに突っ込まれた。

博隆も一歩後ずさり、視線を泳がせながら、頭をフル回転させ、言い訳を考える。が、こういう時、何も思い浮かんでくれないのは神の悪戯だろうか。


「い、いや。特に深い意味はない…かな…」


博隆の背中を得体の知れない汗が流れている。ここで下手なこと言ったら、朝の占い通りになってしまう。それだけは死んでも避けなければならない。


「だって…恵美ってさ、いつでも明るく振る舞っているからさ…」


博隆の言葉を聞いて、何も答えようとしない恵美。朝の河川敷に突如訪れた静寂。その時博隆は確信した。朝の占い通りになってしまったと。まさか、今のが地雷という物なのか?


「ごめっ………」


「うそうそ、ごめんね。でもね、私は明るく振る舞っているんじゃないよ。博隆君や雅人君のおかげで楽しいから…三人でいる時間が好きだから、明るくいられるんだよ」


 そう話す恵美の顔が一瞬曇ったように見えた。


「そっか。じゃあ、尚更さっきはごめんな…」


「ううん、全然だよ。ところでさ、再来週、景浦町で秋祭りがあるんだけど…よかったら一緒に行かない?」


「それって…?」


「昨日博隆君、何か用事があるってメールで言ってたでしょ?でね、博隆君がいない間に雅人君がね、一緒に行かないか?って言ってくれてね」


「ああ、なるほどね」


「なに?何かおかしなとこでもあった?」


「いや、そんなことないんだけど…」


「で、秋祭りの話に戻るけど、土曜と日曜の二日間あって、私、日曜日に用事があって、土曜日しか行けないんだけど、大丈夫そう?」


「二週間後の土曜日か…今のところ予定はないし、行けると思う」


「そっか、よかった。じゃあ決まりだね」


 雅人のやつ、相当祭り好きなんだな。夏休みの時はひどかったもんだ。徒歩と電車で二時間のところで開かれた祭りに無理矢理連れていかれたこともあったし。


 そうこうしているうちに博隆達は学校の昇降口に辿り着いた。

 博隆は靴を脱ぎ、下駄箱に入れようとした瞬間、視界の右端に人影が映った。


「おはよう、葛西君」


「ああ、おはよう。琴坂さん」


 真冬がカバンと大きな手提げ袋を持って立っていた。チラリと博隆の方を見た後、恵美の方を見る。


「ああ、彼女は琴坂真冬さん」


博隆は真冬の方に手を伸ばし、恵美に紹介する。


「初めまして」


真冬が恵美の方を見て、少し頭を下げる。それに呼応してか、恵美も同じ動作を取る。


「彼女は…えっと、知り合って間もないけど、僕は友達だと思ってる」


面と向かって友達って言葉を使うのは何だか恥ずかしい。博隆は軽く赤面しながら消え入りそうな声で呟く。


「ありがとう。私も同じ認識だから」


真冬も赤面する博隆につられてか、同じような仕草をした。


「で、こちらが橋口恵美」


博隆が恵美に紹介する最中、恵美は落ち着きがないように、博隆のブレザーの裾を掴む。


「恵美とは一年の時から友達()()なんだ。恵美は素直でいいやつだから、琴坂さんもすぐに仲良くなれると思うよ」


 博隆の言葉を聞いた恵美は驚いたように目を開いてから、下を向く。

 数秒の沈黙の後、恵美は顔を上げ、恵美に微笑みかける。


「よろしくね、琴坂さん」


「え、ええ。こちらこそよろしく、橋口さん」


 お互い慣れていないからか、どこかぎこちない仕草だ。でも、ぎこちないからだけだろうか。真冬は恵美のことを観察しているように見えたし、恵美の瞳からは真冬に対する嫌悪感みたいものを感じた。


博隆はこれが自分の思い過ごしであることを願うばかりだった。

 


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