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五話:博隆は家に帰って夢を見る

少しだけ書き溜めはあるので、あるうちはハイペースで更新しようと思います。

 美術室で真冬と別れた後、博隆はいつもと変わらない道を歩いていた。ふと博隆の頭の中に浮かんだ疑問がある。今まで考えたことなんてなかったけど、自分は果たして何回くらいこの道を通ったのだろうか。百回くらいだろうか?いや、そこまではいってないな。でも、そう思えるくらい毎日この道を歩いている。


 そう…この見慣れた景色の中に二人はいない。その事に、博隆は強烈な違和感を感じていた。

 旅行先でも家で使っている枕じゃないと眠れない人がいるのと同じで、博隆は雅人と恵美がいないことに物寂しさを感じていると気が付いた。おまけに大回りだというのに博隆は古池公園の前まで 足を運んでいた。日頃から続けているルーチンはなかなか拭えないらしい。ここまで来てしまったので、博隆は仕方がなく公園のベンチで休憩することにし、公園に足を踏み入れた。


 その際、博隆は自分がここまでほとんど下を見つめながら歩いていたことに気付いた。もちろん、公道を歩いていたわけなので、通行人や自動車、信号機などは必要最小限見ていたが、意識的に何かを見るということはなかった。そして、これらのことから自分という人間に在り様が見えてきた。二人がいないと、全くといって差し支えないほど、日常が退屈に感じるということ。今思い返して見ると、彼らと出会い、一緒にいるのが多くなってからは一緒に帰らない日はなかった。だから彼らと一緒に帰らないことに物寂しさを感じるとは思わなかったことに。


 博隆はそんなことを考えていると、ふと二つの視線を感じた。一つはブランコの手前側、もう一つは滑り台の滑るとこの一番下からだ。


「っへ、おっせーよ博隆!」


「お帰り、博隆君」


 なんだか分からないけど、落ち着く聞き慣れた声、心地よさを感じる声が二つ聞こえてきて、博隆はその方へ歩き出した。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 博隆はほぼいつも通り二十時ごろに帰宅した。今日も雅人と恵美と話し込んでしまった。彼らと話しているとついつい時間を忘れてしまう。


 まださして遅い時間というわけでもないが、博隆はベッドに倒れる様にして、眠りについた。連日、日を跨ぐほど勉強していたので、テストが終わった今、これまでの疲れが脳に早急な睡眠を要求していたのだ。博隆は拒む理由も力もなかったので、欲望にその身を委ねた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その日博隆は()を見た。



 ある日の朝、ふと一人になりたいと思い立った僕は美術室の前に立っていた。

 美術室。そこは授業があるとき以外は誰も訪れることはない場所。

 筋骨隆々の男性を象った、白くて重そうな銅像。ただの子供が描いたような絵のレプリカ。部屋に染みついたのか、鼻を突く特有の匂い。

 僕が通っていた中学校の美術室と特に違いはない。

 

僕は少し錆びたドアハンドルに手を掛け、横にスライドさせた。

 

ブワッ。


 外と中の気圧の違うからだろうか。僕の全身に勢いよく風が吹き付ける。

 しかし、揺れているカーテンに僕の考えは否定された。

 単純に開けられた窓から、風が入り込んでいるだけだった。

 っとそんな話はどうでもいい。本当に言いたいことはそんなことではない。

 夏の季節は過ぎさったのだが、未だ日中の気温の高さは留まることを知らない。小一時間ほど日に当たれば、シャツは朝でビショビショになるし、肌はヒリヒリして赤くなる。

 しかし、ここはどうだ。西側にあるので、直射日光とは無縁だし、窓からは一足早い秋の気配を感じることができる。無論、言葉の一つも交わされない心地よい場所だった。


 そんなふうに一瞬考えてた僕は、教室の中央に視線が奪われる。

 大きなキャンバスの前に置かれた丸椅子に座る少女が一人。彼女の長い黒髪は風に吹かれて大きくなびいている。それが綺麗に流れる川のように思えた。


 僕は無意識的に彼女の傍に歩み寄り、彼女の顔を覗き込んだ。

 そんな僕に彼女も気が付いたようで、まっすぐ僕の目を見る。

 彼女の妖艶で深い夜空のような瞳に吸い込まれそうになった。

 彼女の存在すべてが絵のように美しかった。


 そして、そこから僕たちの物語は始まった。



ご精読ありがとうございました。どんなものでも構いませんので、是非感想を頂けるとありがたいです。お書きくださったご感想には必ず返信させていただきますので、よろしくお願いします。

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