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2つの白は、黒い星を追躡す。  作者: 水上 稜太
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第1の事件(4)

  茜と須和は、社長室に通されていた。社長室は、この会社の最上階にあたる5階の奥に位置していた。白く清潔な廊下とは対照的に内装は、木造で床にはグレーのカーペットが敷かれ、落ち着いた雰囲気が感じられた。

「この度は、お忙しい中お時間を割いていただきありがとうございます」


  ドアの前で茜が挨拶をすると2人は、社長に一礼をし、茜が率先して話しだした。

「私は、皆川警察署から来ました。桜井茜です。こちらが巡査の須和です」


  社長に2人は、手帳を示した。プレジデントチェアから立ち上がった社長は、2人の顔を見渡した。

「これは、ご丁寧に。ありがとうございます。私が社長の、清水透です。こちらにお掛け下さい」


  そう言うと清水は返礼をし、黒色のソファーに手を向けた。2つのソファーが透明な机を挟んで並べられており、清水と向かい合う形で2人は座った。秘書がお茶を差し出したので、ありがとうございます。と言うと2人は頭を下げだ。

  ふかふかでしっかりしている。さすが、社長室の家具だな。うらやましい。須和の心には、そんなどうでも良いことが浮かんでいた。


  そんな須和をよそに茜が、再び口を開いた。

「佐藤孝則さんについて、何かお聞きになられましたか?」

  茜の問いに清水は、目線を少し下げると穏やかな口調で返答した。

「はい。伺っております。非常に残念です」

「そうですか……。では、いくつか質問させていただきますが、よろしいですか?」


  その返答に茜も目線を外したが、すぐ目線を清水に戻した。

「分かっています。そのためにいらっしゃったんですよね?」

「ご理解いただきありがとうございます。では、まず……」


  須和は、茜の言葉を聞くと隣で黒いメモ帳とボールペンを準備した。それを横目で確認した茜は、さらに続けた。

「佐藤さんの勤務態度を教えて頂けますか?」

「はい。分かりました」


  そう言うと清水は、穏やかに喋り始めた。

「佐藤は、製薬企画部の部長をしていました。勤務態度は、いたって真面目で、仕事の手際も良かったです。部下にも優しく、信頼されていました。ですが……」


  そこまで話すと、先程の口調よりも清水の声が低くくなったように2人は感じた。

「1年程前から佐藤の性格は、変わってしまいました。仕事の手際が増す一方で、仕事への執着が強くなり、部下の失敗や仕事が上手く運ばないと怒鳴ったり、時には、部下に手をあげる様になりました」


  黙って聞いていた茜は、口を開いた。

「佐藤さんが変わられた理由に、何か心当たりはありますか?」

「はい。おそらく、離婚が原因だと思います」

「離婚……ですか。詳しくお話願えますか?」


  須和は、清水の言葉を書き留めながら、頭を働かせていた。

  この清水って男は、どうしてここまで感情的になれるんだ?出来の良い部下が殺されたとはいえ、所詮は上司と部下の関係だ。全てとは言えないが、たいていの社長は、残念な反応はすれど、基本は社交辞令だ。でも、清水はそうは見えない。清水には、佐藤に対して何か後ろめたい気持ちでもあるのか?須和の頭の中では、疑問がとびかっていた。


  清水は、茜の言葉に分かりました。と答えると話し始めた。

「1年前、私は佐藤が離婚したと聞いてお酒に付き合いました。酷い言い方ですが、社長として佐藤の仕事に支障が出るのは心配でしたから。佐藤は、浴びる様にお酒を飲み、家族の話をしてくれました」

「そのお酒の席で、佐藤さんは清水さんに何を話されたんですか?」

「子どもや奥さんの話。そして離婚についての話です。理由について佐藤は、自分が仕事をし過ぎて家族を大事にしなかったからだと。だから、もっと上手く仕事をこなせる様になって、余裕を作りたいと言っていました。ですが私はこの時、気づけなかったんです……」


  清水の声が暗くなるのを感じた。茜は、清水の方をまっすぐ見つめ質問した。

「気づけなかったとは?」

「佐藤は、私が想像した以上に焦っていたんです。私は、佐藤の要望からスキル向上のために仕事を佐藤に任せました。ですが、佐藤は仕事をこなすのに必死になり部下にあたる様になってしまったんです」


  茜の視線は変わらず、清水に注がれていた。茜は少し間を空けた後、質問を続けた。

「つまり、想像以上の焦りに気づかなかったため、与えた仕事の量が佐藤さんのキャパを上回ってしまった。と、言うことですか?」

「そう言うことです。私は、逆効果のことをしてしまった。私が、佐藤を変えてしまったんです。そのせいで、嫌われるようになってしまったんです」


  清水は、落ち込んだ声色で返答した。その返答に清水に向けられた、茜の視線が鋭くなり、少しきつい口調で告げた。

「では、佐藤さんは誰かに恨みを買っていたんですか?」

「恨みかは分かりませんが、同じ部署の部下からは苦情の報告を聞きましたから。いや。恨まれていたと考えても間違いではないと思います」


  清水の言葉に2人は目線だけを合わした。そして須和は、思っていた。

  やっと、理解が追いついた。清水が佐藤に感情移入していたのは、自分のせいで佐藤が変わったと考え。そしてその佐藤の変化が部下の恨みを買い、殺された可能性を考えたからだ。もしかしたら桜井警部補の推理は、正しいのかもしれない。


  そう考える須和の目には、いつもより鋭い光が宿っていた。

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