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2つの白は、黒い星を追躡す。  作者: 水上 稜太
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第1の事件(2)

  須和幸助は公園で起きた事件の3ヶ月前に、皆川警察署に移動して来た。そしてその移動の2ヶ月後、ある事件を担当することとなった。

「須和さん、皆川署には慣れましたか?」

 

  そう話しかけてきたのは巡査の山城だった。

「あぁ。気兼ねなくやらせてもらってるよ。部下達が優秀なおかげかな」

「またまた〜何言ってるんすか」


  須和は、山城と笑顔を交わした。

「あそこに座っているのって、県警本部からの応援でいらっしゃった方らしいですよ」


  山城が、須和に耳打ちで告げ目線を目の前の席に送った。須和は目線を追って、前を向いた。そこには、背筋を伸ばし資料に黙々と目を通している女性の姿があった。


  須和と山城は声を抑えて話し始めた。

「あの人、美人ですよね」

「そうか?美人と言うよりは可愛い顔をしていると思うが……いや、年上に可愛いはおかしな」

「なんで、年上ってわかるんすか?」



  山城は、不思議そうな顔を須和に向けた。

「いや、感だけど……」

「なんすかそれ」


  山城は、須和に笑顔を見せた。

「あの人みたいな女性はどうですか?」

「どうって?」


  須和が、不思議そうに覗き込んだ。

「ですから。須和さん、お付き合いしてる人いらっしゃらないんすよね。須和さんそこそこ男前ですしお似合いだと思うんすけどね〜」


  山城は、にやけながら須和を覗いてきた。

「冗談を言うな。今は、仕事が1番だからな。」

「流石につまんないっすよそれは〜」


  須和の諭す様な言葉を聞き、笑いながら不満を須和に伝えた。

「俺に面白さを求めるな。ところで……」

「どうしたんすか?」


  今度は、山城が不思議そうに覗き込んできた。

「そこそことは、どういうことだ?」

「あっ、気づいてましたか?」

「まったくお前は。今度から仕事を倍にするかな〜」

「すみませんって須和さん。それだけは、勘弁して下さい。この通り」


  山城は、笑いながら両手を合わせて頭を下げた。


  その時、ドアが開いて精悍な顔立ちの男性が入って来た。皆一様に席を立ち、その男性に頭を下げた。さっきまでの和やかな雰囲気とは変わって、部屋が静まりかえった。その男性が、一番奥の椅子に腰掛けるのを見て、他も席に着いた。


  そして、その静寂を破ったのは男性の声だった。

「今回の事件で、この捜査本部の指揮をとることになった黒川です。よろしくお願いします。それから、県警本部から応援で来た桜井警部補と水谷巡査だ」


  黒川が紹介すると、須和の前に座る女性とその隣の男性が頭を下げた。その様子を見て黒川は話を続けた。

「まず、日立市で見つかった遺体の身元だが、所持品の名刺や免許証から、日立市、在住の佐藤孝則38歳で、皆川市内の製薬会社に勤務している男性だと分かった。死因はおそらく縄で首元を圧迫されたことによる窒息死だ。アルコールの匂いが残っていたことから、酔って帰宅しているところを襲われたのだろう。また、服装の乱れと財布の中身が散らばっていたことから、金目のものを狙った犯行の可能性が高い。詳しいことは、司法解剖の結果が待たれるところだ」


  黒川の堂々とした声が部屋に響いた。険しい顔つきで内容を伝えた後さらに続けて、

「まず、水谷巡査と山城巡査だが。現場近くで何か目撃情報がないか探ってくれ。穂積巡査と堀川巡査は遺族を、須和巡査部長と桜井警部補は佐藤が働いていた職場を当たってくれ。以上だ」


  黒川の言葉に、はい。と返答すると立ち上がり、それぞれが部屋を後にした。


  捜査会議の後須和は廊下で、

「初めまして。巡査部長の須和幸助と言います。今回の件で桜井警部補と共に捜査をさせていただくことになりました。よろしくお願いします」


  そう呼びかけると茜に一礼した。それを見て茜は、

「こちらこそ初めまして。黒川警部の紹介に預かりました桜井茜です。よろしくお願いします、須和さん。後、警部補ではなくさん付けで構いません」


  二重の目を細めながら、柔らかな笑顔で茜は返礼した。

  真面目な人だな。須和は心の中で呟いた。


  茜の返答に須和は、首を横に振って答えた。

「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが、桜井警部補と呼ばせていただきます」

 

  須和は茜に、身長は須和より少し低いながら、大人びた印象を受けていた。丁寧な喋り方と姿勢の良い佇まいが須和にその様な印象を与えたからだ。なので須和は、茜のことを役職で呼ぶ方が合っていると考えたのだ。


  2人は駐車場に向かうまでの間、言葉を交わすことはなかった。背筋を伸ばし、悠々と歩く茜の姿に、須和は声をかけることができなかったからだ。


  駐車場に着くと、茜は車のドアを開け乗り込もうとした。それを見て須和は、

「えっ……」


  不意に言葉が出ていた。

「どうかしたのですか?」


  茜は、ドアを開けたまま立ち止まり、驚いた顔を須和に向けた。

「あなたが運転するんですか?」

「はい。そうですが……駄目ですか?」


  今度は、不思議そうな表情で須和を覗いた。

「いえ。駄目というわけではないですが……桜井警部補と巡査部長の僕では、僕が運転するのが自然だと思っていたものですから」


  須和の返答に表情を綻ばせると茜は車に乗り込んだ。

「何をしているのですか?早く乗って下さい」


 須和は、その言葉を聞いて急いで乗り込んだ。

「あの、さっきの話ですけど……」


  須和は、茜の方に顔を向けて話しかけた。そんな須和の台詞を遮って、

「私は、階級とか気にしませんよ。だからさっきだって、さん付けでも構わないと、須和さんに提案したんです。それに私、運転するのは結構好きなんです。それとも……女性が運転するのは不満ですか?」


  茜は、少し首を傾けて須和の目を見た。

「いえ。そんなことはありません」


  予想外の返答に須和は少し戸惑って、茜から目をそらした。シートベルトを装着しながら、

「なら、よろしいですね。さあ、あなたもシートベルトをつけて下さい」


  茜は、須和に笑顔を向けて促した。

「分かりました」


  そう返答した須和が、シートベルトを締めるのを確認し、茜は向き直した。


  茜は、エンジンをかけると車を目的地へと走らせた。

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