プロローグ
仕事の帰り道、須和幸助はサイレンの音を聞いた。その音は、ここからそう遠く無い場所で止まり、程なくして須和の携帯が鳴った。
「今、向かっています」
そう答えると、須和は足早に目的地へと向かった。
目的地の公園には、数名の警官がすでに到着していた。公園は、須和が歩いていた通りから少し外れた所にあり、照明となるものは、たまに通る車のライトが、まばらに生えた木からすり抜けてくるだけだった。警官が照らす先にはベンチがあり、その近くに40代前後と思われる男性が横たわっていた。男性からは、首元の縄後と服装の乱れが見て取れた。男性の手には、赤いマフラーが握られ、そのすぐ近くに黒縁の眼鏡が落ちていた。
「須和さん、あなたはこの状況をどう考えますか?」
そう話しかけてきたのは、上司の桜井茜だった。相変わらず落ち着いた口調で喋り、大きな瞳を須和に向けた。
「そうですね。首の縄跡から絞殺だと考えます。被害者の体格から犯人は恐らく男性。服の乱れから、何か金目の物を狙った犯行ではないでしょうか?」
須和が答えると、すぐに頷いて、
「はい。確信はもてませんが、私もそう考えていました」
茜は長く伸びた髪を耳にかけ、視線を男性に落としながら答えた。茜に須和は、
「また、忙しくなりますね」
そう呟くと一つため息をついた。吐き出された白い息を見ながら須和は、
秋の朝は冷えるな。そう考えていた。
しばらくして、須和の耳に茜の声が響いた。
「何をしているんですか。行きますよ」
茜は、髪を後ろで結びながらよく通る声で須和に告げた。その言葉に我に返った須和は、
「すみません。少し、考え事をしていました」
須和は急いで乗りこむと、ドアは音を立てて閉じた。
「さっきの……」
茜の問いに須和は、横を向き目を合わした。
「なんのことですか?」
少し、驚いた口調で答えた。
「また、ではなく更にですよ」
「あぁ、なるほど。確かにそうですね」
須和がそう答えると、茜は向き直しエンジンをかけた。