3 毒の正体
「僕の職業、農業用薬剤師のせいかもね」
「そんなこと、信じられるわけないでしょ?私より、蚕登が強くなったなんて!そもそも普通の薬剤師の系統なんて、器用さが高くなる以外は全然普通の職なのよ?なんで、そんなに強くなるのよ!!」
まぁ、気持ちはわかる。
一緒に旅をしてきた、ここ3日に限っても、僕は体力は無いし、力も弱くて、シーフ職のモンスリーに守ってもらってたからね。
伊達に赤ちゃんより弱っちいと言われていないという弱さだった。
「そうだね。とりあえず、オーク達を倒した毒を無害化して散らすのに、まだまだ時間がかかるからね。その間に試してみよう」
「え?毒を散らす?」
このままだと、討伐証明部位も取れないからね。
そのまま集落の中に入ったら、僕も死んじゃいます。
「こういう使い方は、目的外使用になっちゃうけど、ここは日本じゃないから勘弁して貰おう。普通物の殺菌剤を最大速度、最低限の濃度で送り込んで、オークを殺した毒を無害化して散らすよ」
「待ちなさいよ!そんな毒が周りに撒き散らされたら、他の動物も死んじゃうじゃない!」
あぁ…
説明不足だったね。
「それなら大丈夫。無害化するって言ったでしょ?オークを殺した二酸化炭素は、普通に空気中にあるものだから、空気を大量に送り込んで濃度を薄めてやれば毒性が無くなるし、周りにある木々に吸収されて、昼の間にほぼ無くなるよ」
「は?普通にあるって……私たちも死んじゃうの?」
そっちに来たか…
濃度が低くても毒性が高い物質なら死んじゃうこともあるけど、今回に限ってはそんなことない。
「それも大丈夫。オーク達が死んだのは、僕が特別に二酸化炭素を高濃度にして、空気中の酸素が無い状態にしたからなんだよ。普通の濃度の二酸化炭素で死ぬことはないよ。安心して大丈夫」
「とりあえずは、だれも死なないわけね。良かった。でも、蚕登の言うことって難しくて解りにくいね!」
学校で化学的な授業を受けてないと解りにくいか。
化学式とかで説明してもわかるわけないしなぁ…
「うーん。…例えば、唐辛子って知ってるよね?」
「ん?あの辛い赤い奴ね」
この世界は、香辛料も高いんだよね。
「そうそう。唐辛子ってさ。ちょっとだけなら美味しいけど…沢山食べると辛すぎて、ツラいよね?」
「…少しでもツラいけどね。それがどうしたの?」
あぁ…
あの時は、無理して食べてたわけね。
「唐辛子は、一気に食べると死んじゃう事もあるんだよ」
「は?辛くてショック死?」
そういう場合もあるけど…
ちゃんとLD50の値があるからね。
「いや、大量に食べると、唐辛子に含まれるカプサイシンの毒性によって死ぬんだ」
「つまり…二酸化炭素ってのも、だいたい同じってこと?」
わかってくれて嬉しいよ。
「そう。ホンの少しなら影響がないんだけど、一杯あると死んじゃうって意味では同じだね」
「そっかー。でも、その毒は、どうなっちゃうの?いつまでも、呪いみたいに残らない?」
あぁ…
元の世界でも、そういうことを考えてればね。
オゾン層の問題も起きなかったかもね。
まぁ、あれも想定外の出来事だったらしいから仕方ないか。
「さっきも言ったけど、二酸化炭素は木や草の肥料になるんだ。だから、このオークの集落の周りの木々に吸われて、酸素になるから、大丈夫だよ」
「そういうことね。なら安心だわ」
さて、安心したところで、予定通りにやりますか!
噴霧によって気流を生み出そう。
「召喚!最低濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を、最高出力で20分間噴霧開始!」
☆オークを殺した薬剤→二酸化炭素 農業用薬剤としては、柿などの脱渋を促す為に使用される。渋柿を甘くするための製法のこと。渋味成分のタンニンを不溶化させる事が目的なので、家庭など小規模の場合は入手が容易なアルコールを使う。渋を抜くために柿を焼酎につける人もいる。空気より重いので、発生した気体は下に溜まる。
楽しんで貰えると嬉しいです。
引き続き一時間後に、続きを投稿しますね。