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ナント・カナール、紙をすく


 森のお家へと帰る道を少しだけ遠回りして、ナント・カナールはトロロアオイの生える一帯へ足を運びました。

 手のひらみたいな葉っぱをつけた、ナント・カナールの身長よりも高い草が、森の中のぽっかりと空いた日当たりの良い場所に沢山生えていました。

 ナント・カナールはトロロアオイの根元に絡みついているマタビーの蔓ごと、トゲトゲのついた茎を引っこ抜きます。サンバンメもナント・カナールを手伝って、マタビーの蔓を口でくわえて引っ張りました。

 五本ほどトロロアオイを引っこ抜いたナント・カナールはそれを背負い籠に入れました。そうして、倒れた大きな木を見つけて、幹によじ登って休憩することにしました。その木の幹は、立っているナント・カナールの目の高さくらい太いものだったので、絡みついたマタビーの蔓を綱代わりにして上ります。びっしり生えたマタビーの蔓の隙間という隙間には緑色のふさふさした苔も生えていました。

 ナント・カナールはマタビーの葉っぱを千切ると、それをサンバンメにあげました。それから、マタビーの実を採って、座る場所を作ってから、キヌばあさんが揚げてくれたコガネマユガのサナギとマタビーの実をおやつに食べます。サンバンメがナント・カナールの手から種を取ったマタビーの実を貰って啄みます。

「おいしい?」

 サンバンメはちょっと首を傾げてナント・カナールを見つめます。それからまた、マタビーの葉っぱを食べ始めました。やはりオオドリは葉っぱの方が好きなようです。


 お腹がいっぱいになったナント・カナールとサンバンメは、またお家のあるクロガシを目指して歩きます。

 お家に着いたのは、お日様もずいぶんと傾いて、空が黄色くなった頃でした。

 ナント・カナールは泉を往復して、タライとバケツにいっぱい水を汲んできました。バケツの中にはトロロアオイの根を叩いて潰したものを浸けておきます。タライの方には漂白剤をちょっとだけ水に垂らして、アイゼンさんから貰ったタイマ草の皮を細かく切ったものを浸しておきました。

 そうして猫やオオドリたちが間違えて飲まないように、タライとバケツはお家の中に入れて、いつも使っているつぎはぎだらけのタオルケットを上からかけておきます。

 お家の中はそれでいっぱいになってしまったので、その夜、ナント・カナールは屋根の上で寝ることにしました。お家から閉め出された猫たちも、ナント・カナールのふわふわの尻尾に顔を埋めて、皆で丸くなって眠るのでした。


 朝になって、ナント・カナールはタライの中を覗いてみます。タイマ草の皮は、思ったほど白くなってはいませんでしたが、ナント・カナールは気にしません。

 タライの水をザルにあけてタイマ草の皮だけ取ったら、お鍋に水を汲んでかまどの灰を混ぜます。そうしてタイマ草の皮をぐつぐつ煮るのです。

 ナント・カナールはお鍋の火加減を見ながら、お庭をまわってマタビーの実を集めました。

 クロガシの近くではニバンメが高いところに生えたマタビーの実を採ってはエレベーターに入れて遊んでいます。イチバンメは今日も巣に籠もりっきり。サンバンメがマタビーの葉っぱを啄みながら、お庭を行ったり来たりする度に、猫たちがあっちへ逃げたりこっちへ隠れたりしています。

 ナント・カナールはもぎたてのマタビーの実で朝ごはんにしました。

 ナント・カナールの傍では猫たちが、彼のふわふわの尻尾にじゃれついていました。


 しばらくタイマ草の皮をお鍋で煮てから、また中身をザルにあけて漉します。

 ナント・カナールはそれを持って泉に行きます。サンバンメが白猫を一匹背中に乗せたままついてきました。

 泉の畔まで来ると、白猫はサンバンメから飛び降りて水を飲み始めます。サンバンメも猫を真似て長い首を水面に突っ込むようにして水を飲んでいますが、なんだか飲み難そうです。

 ナント・カナールは彼らから少し離れた下流の、小川に水が流れ込む近く、水の流れのあるところで、ザルに中身を入れたままタイマ草の皮に着いた灰を洗い流します。

 向こうでは白猫が泉の中の小魚を狙って前足を水面に突っ込んでいます。サンバンメがそれを真似て片足を泉に突っ込むと、少し大きめの魚がオオドリの鋭い爪に刺さっていました。

 オオドリたちを横目に見ながら何度かザルを上げ下げして洗っていると、灰が落ちてタイマ草の皮が少し白くなったような気がしました。

 ナント・カナールは満足して、それを持ってお家に帰ります。白猫とサンバンメも一緒について来ました。


 お庭に戻ったナント・カナールは、いつもまな板の代わりに使っている切り株の上に洗ったタイマ草の皮を広げて、細かくなるまで木の棒で叩きました。

 大きな音にびっくりした猫がお庭の隅や、お家の下に隠れます。

 しばらく叩いて猫たちもその音に慣れた頃、ナント・カナールはタライに水を汲んで来て、叩いたタイマ草の皮を水の中に浮かべました。それからバケツに浸しておいたトロロアオイの根っこを取り出します。根からはネバネバした液体が沢山染み出しています。それを根っこごとタオルで包んで絞ると、いっそう粘りけのある液体が採れました。

 トロロアオイのネバネバを、タライの中に混ぜてみると細かくなったタイマ草の皮が浮き上がってタライの中をゆらゆらと揺れています。

 ナント・カナールの尻尾もゆらゆら揺れます。

 以前、森の中で拾った丸い枠に目の細かい金網のついたものを使って、ナント・カナールはタライの中身を掬います。

 薄くて、でも穴があかないくらいに平らになるようにして掬ったものを、お家の窓に張り付けます。お家の外側はマタビーの蔓が絡みついているので、内側の綺麗な面に張っていきます。

 ナント・カナールはお庭に置いてあるタライとお家を行き来しながら、窓という窓に同じものを張り付けてました。

 お家の窓が円くて白いもので埋め尽くされる頃には、もう日も暮れて森の中は真っ暗です。

 ナント・カナールは今日はお家の中で、水玉模様になった窓を眺めながら、猫たちと一緒に眠りにつくのでした。


 おやすみなさい。


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