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オオドリが増えたよ

 今日もナント・カナールは、八百屋のおかみさんにマタビーの実を沢山届けました。しかし、おかみさんはウリを一つくれただけでした。

 ナント・カナールが首を傾げていると、おかみさんは言いました。

「ここんとこ、野菜の出来が悪くてね。これぐらいしか無いんだよ。あんたがマタビーを持って来てくれるから、皆助かってるよ」

 それを聞いて、ナント・カナールは嬉しくなりました。大きな瞳をきらきら輝かせ、しっぽをゆらゆら揺らしながら、ウリをもらって港へ行きました。

 空は青くていい天気。さわやかな風が海の匂いを運んで来ます。ナント・カナールの足元には、一匹、また一匹と、猫達が集まって来ました。


 港では、漁を終えた漁師さん達が集まって、お話をしています。皆なんだか難しい顔です。中には怒ったような人も、心配そうな人もいます。

 ナント・カナールは漁師さん達に近付いて、その内の一人の服をちょいちょい、と引っ張りました。

「おぅ、ボウズか。ちょいと待ってな」

 ナント・カナールに気付いた彼は、自分の船から小魚の入った箱を持って来てくれました。しかし、箱の中には売り物にならない、小さな小さな魚が数匹入っているだけでした。

 「悪いな、ボウズ。こんだけしかねぇんだ」

 漁師さんはそう言うと、困ったように顔をしかめました。

 ううん、とナント・カナールは首を振りました。たまには魚が捕れない日もあるのでしょう。お礼を言って小さな木箱を受け取ります。代わりに、八百屋に持って行った分とは別に、袋に入れておいたマタビーの実を漁師さん達にあげました。

「海賊の野郎。段々、手口が荒くなりやがる」

 一人の漁師さんが言いました。その言葉には聞き覚えがあります。

「海賊さん?」

 ナント・カナールは漁師さんに聞き返しました。

「おぅ。あいつら定置網ごと魚をごっそり持って行きやがったのさ」

「奴らも必死なんだろ」

「空港が出来たら、貨物船が襲えなくなるからな」

 漁師さん達は口々にそう言って、ニガヨモギを食べた時みたいな顔をするのでした。

「飛行機のお家が出来るの」

 ナント・カナールが嬉しそうにしっぽを振ります。

「飛行機のお家かぁ」

 漁師さん達は苦笑いを浮かべました。

「しかし俺達も空港建設にゃ反対だったんだ」

 小魚をくれた漁師さんが言いました。

「どうして?」

「沖合いを埋め立てられちゃあ、大事な漁場が荒れる。潮の流れも変わるしな」

「しかし、こう海賊が多くちゃ、そうも言ってらんねぇ」

 そう言って横からぬっと顔を出した髭面の漁師さんがナント・カナールに、にっと歯を見せて笑いました。マタビーの実を片手で三つも掴んで食べ始めます。他の漁師さんも、ナント・カナールの持って来たマタビーの実にかじりつきましたので、海賊の話はそれきりになりました。



 ナント・カナールはウリと小魚を持って、食堂へ行きました。

「なんだい、これっぽっちかい?」

 食堂のおばちゃんは少ししかない小魚を見て、とてもがっかりしたように大きなため息を吐くのでした。ナント・カナールが海賊の事を話すと、おばちゃんは鍋を焦がした時みたいに、おお嫌だ、と顔をしかめてみせました。

「全く物騒な世の中になったもんだよ!」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、おばちゃんは魚を油で揚げてくれました。魚の唐揚げとおにぎりを一つもらって、ナント・カナールは嬉しくなりました。

「今日はパンは無いからね」

 おばちゃんはぶっきらぼうに言います。

「その海賊どものおかげで、小麦粉が入らないんだとさ。パン屋も商売あがったりさね。ウチだってトーストやサンドイッチどころかフライに使うパン粉だって、いつ底を尽くか気が気じゃない始末さ」

 ナント・カナールがご飯を食べている間中、おばちゃんは喋り続けました。最近めっきりお客が減った事、野菜も高くなった事、コーヒー豆がない事、空港が出来たらお店を出したい事、海賊は海の上に船を繋げた町を作って暮らしている事などを、止めどなく話すのです。

 ナント・カナールはもぐもぐと食べながら、ふんふんと頷いて聞いていました。

 ナント・カナールは籠からウリを出して、おばちゃんに言いました。

「空き瓶と交換して」

 おばちゃんは急に機嫌良くなって、喜んでジャムの空き瓶二つと交換してくれたのでした。



イチゴとオレンジの絵の付いた瓶をもらって、ナント・カナールは嬉しくなってお家に帰りました。



 お家に帰ったナント・カナールはびっくりしました。オオドリが三羽に増えていたのです。

 新しいオオドリはナント・カナールを見て首を傾げましたが、怖がる様子もなく、マタビーの葉っぱを食べています。

 前からいた二羽がナント・カナールを見つけると、スイカをもらおうと寄って来ます。顔を覚えているのです。

 「ごめんね。今日は無いの」

 ナント・カナールは、耳をぺちゃんこにしてオオドリを見上げました。二羽のオオドリは首を傾げてナント・カナールを見ていましたが、やがてなんでもない様子で、また葉っぱを食べ始めるのでした。


 ナント・カナールは、オオドリに名前を付ける事にしました。最初にお庭に来たオオドリをイチバンメ、次に来たオオドリをニバンメ、新しく来たオオドリをサンバンメと名付けました。

 名前を付けてみると、それぞれの違いがわかるようになりました。

 頭の一番上の羽が大きくくるんと丸まっていて、毎朝お庭のマタビーの芽を引っこ抜いては、せっせと巣を作っているのがイチバンメ。

 翼の羽の端っこが玉虫色に光っていて、ナント・カナールの作ったエレベーターにマタビーの実を入れて、するすると下がって行くのを楽しんでいるのがニバンメ。

 お尻の羽が白く、二羽から少し離れたお庭の隅でマタビーの葉っぱを食べているのが、サンバンメです。

 イチバンメとニバンメは仲良しでした。イチバンメとサンバンメも、すぐに仲良しになりました。しかし、ニバンメとサンバンメは仲良しになれませんでした。

 どうしてでしょう。

 不思議です。



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