表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

オオドリとナント・カナール


 朝になって、ナント・カナールはお家の周りの、なんだか騒がしい音で目を醒ましました。

 窓から外を見ると、絡み付いたマタビーの隙間から、黒い大きな羽がちらちらと見えました。

 オオドリです。

 クロガシの枝に刺しておいたスイカを食べているのでした。

 ナント・カナールはわくわくして、耳をぴんと張りました。ゆらゆら揺れるしっぽに、子猫達がじゃれつきます。

 オオドリはナント・カナールの倍以上もある大きさの鳥で、とても走るのが早い、長い大きな足を持っています。その代わり、ふさふさの黒い羽はお空を飛ぶ事が出来ません。だから、オオドリはいつもマタビーの森の中をさ迷い歩いているのでした。

 オオドリはマタビーの葉っぱと、スイカを交互に食べながら、ガラガラ声でギュウギュウ鳴きました。

 するともう一羽現れて、ギュウギュウ鳴きながら、スイカを突つきました。

 ナント・カナールは、オオドリを驚かせないように、そうっと天窓から外に出ました。そのままマタビーの蔓を伝って、クロガシの高い枝に軽々と登ります。

 オオドリはナント・カナールを見つけて、ちょっと首を傾げました。しかし、ナント・カナールが自分より小さいので、あまり気にしないようで、またスイカを突ついて食べました。

 ナント・カナールは素早く枝を渡り、遠くの枝に刺してあったスイカも持って来て、オオドリの近くに刺してあげます。二羽は仲良く寄り添って、スイカを食べました。


 しばらくして、お腹がいっぱいになったのでしょう。オオドリ達は、お庭をお散歩し始めました。

 お庭はナント・カナールが毎日マタビーの芽を引っこ抜いて、お手入れをしています。それでも、朝になるとマタビーの芽がいくつも出て来るのです。オオドリはまだ柔らかいその芽を、大きなくちばしで引っこ抜いてしまいました。長い根っこには、錆びた金網が絡み付いていました。オオドリはくちばしと足を使って、器用に金網を取ると、マタビーの芽をくわえたまま、クロガシの木の裏に持って行きました。

 ナント・カナールのお家がある所とは反対側の根元です。

 オオドリはお庭に生えていた芽を全部抜いて、クロガシの裏に集めました。そうして、周りのマタビーの蔓を踏みならし、真ん中に柔らかい芽を敷き詰めて、オオドリの巣を作ったのでした。


 次の日も、その次の日も、オオドリ達はせっせとマタビーの芽を抜いて、巣の中に敷きました。柔らかい、明るい緑色の若芽は、ふかふかのクッションになります。

 オオドリは、お腹が空くとマタビーの葉っぱを食べたり、ナント・カナールがもらって来たスイカやカボチャを種ごと食べたりしました。ナント・カナールが、わざわざ枝に刺してあげなくても、彼の手から直接食べる事もありました。


 マタビーの芽をオオドリが抜いてくれるので、ナント・カナールはその分、泉に水汲みに行ったり、森でマタビーの実を沢山採ったり出来ました。

 また、マタビーの細い蔓を見つけて引っこ抜くと、割れた硝子や陶器のお皿、或いは錆びた鉄屑なんかが根っこに絡み付いている事がありました。ナント・カナールはその屑ごと、蔓を持って帰りました。

 まだ若芽の緑色が抜けたばかりのマタビーの蔓は、細くても丈夫でした。葉っぱを取って根を切って、かまどで沸かしたお湯の蒸気に当てて柔らかくしてから、それで籠を編みました。八百屋のおかみさんにもらった背負い籠がお手本です。網目の感じはとっても上手に出来ました。しかし、背負い籠よりは随分と小さい籠になりました。

 ナント・カナールは、籠を二つ作りました。


 硝子はかまどの火の中に入れておくと、溶けて丸い塊になりました。冷えるのを待って取り出すと、きらきら光るおはじきになっていました。


 錆びた鉄屑は取って置きます。

 沢山集めたら、屑鉄屋のコーベさんのところへ持って行くのです。屑鉄屋のコーベさんは、集めた鉄屑と交換に、鉄屑を焼き直して作ったいろんなものをくれるのでした。それでナント・カナールは、コーベさんからナイフやノコギリをもらって、手では引っこ抜けない太いマタビーや、立ち枯れた木の枝なんかを切る事が出来ました。


 ナント・カナールは茹でて柔らかくしたマタビーの蔓を、ナイフを器用に使って縦に割きました。

 繊維に沿って裂いたマタビーの蔓は、細い紐のようです。それを更に何本か束ねて、捻って、縒り上げると太い綱が出来ました。長い長い綱を作って綱の先に籠を二つ結び付けました。


 ナント・カナールは集めてあった鉄屑の中から、自転車の車輪を取り出しました。タイヤのない銀色の車輪は所々錆びてはいましたが、輪っかは綺麗な丸い形をしています。真ん中の穴に綱を通して、クロガシの高い枝に吊るします。輪っかの周りには端っこに籠を付けた綱を引っ掛けて、籠の底には引っ張り紐を付けました。

 そうして輪っかがくるくると回る度に、二つの籠が上がったり下がったりするものを作ったのでした。


 好奇心の旺盛な白猫が、籠に入ろうかと前足を掛けて、中を覗いています。ナント・カナールが抱き上げて籠に入れてあげると、猫は籠の中で丸くなりました。

 ナント・カナールは楽しくなって、しっぽをゆらゆら揺らしました。

 いい事を思い付いたのです。

 ナント・カナールは猫の入った籠とは反対側の籠の、引っ張り紐をそろそろと引きました。すると猫を乗せたまま、籠はゆっくり上がったっていったのです。

 驚いたのは猫です。

 どんどん地面から離れて行く籠の中で、降りられなくて、にゃあにゃあと鳴きました。

「えれべーたーだよ!」

 ナント・カナールの説明は、猫には何の事だかさっぱりわかりません。

 遂に一番上まで上がった籠から、白猫は逃げるように太い枝に跳び移って、枝元で丸くなってしまいました。

 猫が不機嫌になってしまったので、ナント・カナールはがっかりして耳をぺちゃんこにしました。しっぽもだらんと力なくたれています。

「ごめんね。降ろしてあげるから乗りなよ」

 ナント・カナールが声を掛けても、猫は動こうとしません。

 もう籠に乗る気はないようです。

 仕方なく、ナント・カナールは枝に登って、白猫を抱えて降りたのでした。

 せっかくエレベーターを作っても、これでは意味がありません。

 ナント・カナールはますますがっかりしてしまいました。


 すると、お庭の隅でマタビーの葉っぱを食べていたオオドリがやって来て、籠の引っ張り紐をくわえて引きました。

「あっ!」

 ナント・カナールが声をあげても、オオドリは気にしていない様子で、自分の目の高さまで下がった籠に、マタビーの実を採って入れました。

 一つ入れると、籠が実の重さでちょっと下がります。もう一つ入れるとまたちょっと下がります。

 オオドリは不思議そうに首を傾げて、籠を見つめました。

 ナント・カナールも、オオドリが何をしているのか不思議で、耳をぴん、と立てたまま、じっと見上げています。

 白猫もナント・カナールの腕の中で、じっと丸くなっていました。

 オオドリはマタビーの実を一つずつくわえては、籠に入れます。その度にちょっとずつ下がる籠は、遂にマタビーの実で籠がいっぱいになった時、するすると地面まで一気に下がってしまいました。

 ナント・カナールは嬉しくなって、しっぽをゆらゆら揺らしました。

 オオドリは、上に上がって来たもう一つの空の籠にも、同じようにマタビーの実を入れました。

 下でナント・カナールが実を籠から取り出すと、またマタビーの実でいっぱいになった籠が、代わりばんこに下がって来ました。

「ありがとう」

 ナント・カナールがお礼を言うと、オオドリはまた不思議そうに首を傾げ、ナント・カナールを見つめました。

 それから何もなかったように、巣へ帰ってしまいました。


 ナント・カナールはオオドリがくれた、たくさんのマタビーの実を、種を取ってクロガシの木の虚の中に大事にしまっておきました。

 マタビーの種は、クリの実くらいの大きさがあります。

 ナント・カナールは種を細かく砕いて、布にくるんで、鍋の中に網を敷いて蒸しました。そうして柔らかくなった種を、ぎゅうぎゅう絞りました。手では絞りきれないので、木の棒で布を挟んで、ぐるぐる回してぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう絞りました。

 すると、小さな瓶に一杯ほどの油が採れました。

 その日は、薄く切ったパンにカボチャを包んで油でカリカリに焼いたものを食べました。


 それから、眠くなるまでお家の中で、おはじきをして遊びました。

 時々、窓の外のエレベーターを眺めては、ナント・カナールは満足そうに、しっぽをゆらゆら揺らしました。


 明日は何をしようかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ