男女の違いを描く方法
さて、取材の機会をうっかり棒に振って小説執筆が先送りになってしまったので、例によってエッセイで間を繋ぎます(苦笑)。
過日、とある小説執筆者向けのノウハウコラムを見ておりましたら、「男性読者には女性の気持ちが分かり難いので女性主人公は避けた方が良い」という旨のアドバイスが有りました。その逆もまた然りでしょう。
確かに、女性主人公の少年向け作品で成功した作品は、あまり多くありませんし、男性主人公の少女向け作品というのも(BLを別とすれば)また、多いとはいえません(※1 ※2)。
そこで、なぜ互いの気持ちが理解できないのか? という点について考察していきましょう。
まずは、なろうは男性読者が多いようですので、女性の気持ち・視点を読み解いていきます。
女性の基本スタンスは『協調』です。「あー、わかるわかるー」なんて女性同士がよく言ってますよね。あれです。「カワイイ~」というのも、「分かる」の亜種です。
他にも、女性は「○○って××だと思わない?」ってよく訊いてきますよね? これ、実は相手の意見はまったく求めていません。『自分の考えに同調してほしい』という意志表示なのです。ここで「いいや、××とは思わない」とか馬鹿正直に否定してしまうと、嫌われますので注意! 調子を合わせるというのは人付き合いでは必須のスキルですが、女性に対してはより重要度が上がるわけです。
女性の基本は『協調』だと書きましたが、言い換えると、『協調しないことを許さない』ということでもあります。すなわち、非常に同調圧力が強く、男性社会以上に出る杭は打たれます。
次に、女性というのは基本的に恋愛が好きです。これは、女性向け作品のかなり多くが、恋愛がテーマなことからもわかります。
「時代は変わった」「女性の自立」などといっても、残念ながら、女性の就職採用率は男性より低く、なんだかんだで男に寄り掛からざるを得ないことが多いです。そんな次第で、高スペックの男性と結ばれることは、未だに女性の夢であるわけです。
三つ目に、女性は表面的な争いは好みませんが、水面下の陰湿な争いはします。人と争う際には、相手を正面切って叩き伏せるより、無視したり悪い噂を流して孤立させる……というような手法を使います。
これに恋愛が絡むと、かなり醜い男の奪い合いが展開されます。協調を重んじるとはいいつつも、優先順位は男>協調です。
まとめます。女性キャラクターを描く際は、「戦いより協調を好む恋愛主義者(でも恋敵に恋愛は譲らない)」を心がけると不自然にならないでしょう。
他にも、女性をらしく描くコツとしては、「あからさまな女言葉を使わせない」というのがあります。「~だわ」「~かしら」とか言うのは、中高年の女性ぐらいです。まあ、小説は口調でキャラクターを書き分けるのもテクニックの一つなので、あえて使うのも一つの手段では有りますが。
続きまして、女性読者向けに男性の気持ち・視点についてです。
男というか、オスの基本思考は『征服』と『性欲』です。
まずは前者。「少年向けマンガといえば、バトル物」というぐらい、男の子というのは『勝つ』(=征服する)ことが大好きです。これは大人になってもあまり変わりません。
男性の会話によく耳を傾けてみると分かるのですが、『いかに相手の優位に立つか』という考えが、言葉の端々に表れています。
男性主人公よりヒロインが活躍してしまうと人気が下がるとよく言われますが、これは、主人公(=感情移入している自分)がヒロインより下位の存在になってしまうためです。
次に後者の性欲ですが、これは女性が考えるより、もっっっっっのすごく強いです。軽く見積もっても、男性の性欲と女性の性欲は百倍は違うと思います。これは、品行方正で爽やかなイケメンも、例外ではありません。
あまり詳しく追求していくと下品な話に突入するので止めておきますが、あまりに性に潔癖な男性キャラは、非常に不自然な存在だと思ったほうがいいです。
女性作者が男性向けラブコメを書くのでしたら、「微エロ要素は必須」と思っていただければ間違いありません。
まとめます。男性キャラを描く際は、「勝敗にこだわり、根はスケベ」にすると、リアリティが生まれます。
実は昔、いわゆるネナベと会話したことがあるのですが、あまりにも男言葉がわざとらしすぎたので、すぐに正体を看破して、白状させたことが有ります。男言葉にも、自然さというものが有ります。
例えば、基本的に社会人男性は、公の場では一人称は『私』です。普段の一人称が『僕』や『俺』の人も使い分けます。
また、成人だけではなく少年でも「いっけね」とか「~だぜ」とかまず言いません。ここをしくじると、悪い意味でテンプレ的な少年キャラになります。前述のネナベはこれでバレたようなものです。
他にもよく言われることですが、老人も『ワシ』という一人称と「~じゃ」という語尾を使う人は皆無です。
前述のように口調の使い分けは小説の基本テクニックですので、不自然さが鼻につかないように使えば、強い武器になるとも言えます。
さらにもうひとつアドバイスを述べますと、「男の喧嘩は、さっぱりしている」と言うのは迷信です! 創作にありがちな「喧嘩しても直ぐ仲直り」は、文字通り創作です!
以上、男女の違いについて述べてきましたが、人の数だけ個性があるので、ここで述べたことが万人に当てはまるわけではありません。ここで挙げたのは、あくまでも傾向に過ぎません。その点ご注意の上、ご参考にしていただければ幸いです。
※1 2017.5.26追記 『動物のお医者さん』という名作が有りましたね。すっかり失念していました。
※2 2017.5.27追記 花とゆめ作品に、男性主人公がわりと居ること。また特に、『夏目友人帳』の存在を指摘していただき、私自身も『俺物語』の存在などを思い出したことから、表現を「まず見たことがない」から変更しました。