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最終話 お祭りでは手を繋いでくれる?

「おはよ〜」

「はよ。昨日はちゃんと帰れたか?」

「もちのろん太だよ!」

「もちのろん太?勿論、か?」

「そそ!もちのろん太、可愛いでしょ」

「全く。」

けらけら、と彼女が笑う度に、彼女の背負う鞄についたぬいぐるみが揺れる。

「火乃香、そのぬいぐるみ好きだよな」

「可愛いでしょ?うさまろ」

「名前以外は、な」


「お祭り、今日、だね。」

「そうだな。今年も行くだろ?」

「ろん太!」


とんとん、と数歩前に出、制服のスカートを翻してこっちを振り返って笑う彼女は可愛くて、愛おしかった。


追いつこうとして、一歩。踏み出そうとした時に、彼女が目線を上げた。つられる。


「お祭…では、…を……でく…る?」

「…?なんだった、よく聞こえなかった」

「なーんでも!さ、いこ。遅刻しちゃう」

「あ、ああ。」


いつものように、下駄箱で別れる。


今日はみんな浮き足立っていたからだろうか、いつもより時間が経つのが早かった。気がついたら帰りの会が終わっていた、って言っても過言じゃないぐらいに。


門の所で火乃香と合流し、祭り会場に向かう。


「今日はあっという間だったねぇ」

「あっという間だったな」


同じ事を思っている、それだけで嬉しかった。


会場に着くと、予想どおり中々の人混みで。それでも、毎年来てるといった慣れと、元々の身軽さですいすいと遊びながら目的地に向かうことができる。


林檎飴を2人分買って、ラムネを買って、射的でうさまろシリーズのぬいぐるみを取って、かき氷を一個買って、灯籠流しに使う灯篭を1つ貰った。


そうこうしながらも、目的地に着く。途中で友達とその彼女を見かけたが、気づかないふりをした。向こうもこちらに気づいた後、気まずそうに目を逸らしたし、丁度良かった。


人気のない川辺で2人で座り、会話をした。いつも通りの、他愛ない事を、話した。


「今日はありがと。買って貰った物、全部宝物にするね!」

「こんなんで良いのか?」

「うん!あっ、もちろん今日までの思い出も、大切な宝物だよ」

「俺にとっても、だよ」


恐る恐る差し出された右手に、手を伸ばす。でも、俺の手は、彼女の右手をすり抜けた。


「……やっぱりだめかぁ」

「悪い、」

「んーん、ほだくんは悪くないよ。…ごめんね」

「ちが、」


ぽた、ぽた。と橙の灯が浮かび始める。灯籠流しが始まった。


「ね、ほだくん」

「……ど、した」

「あと少し、になっちゃった、ね」


くしゃ、と泣きそうに笑う彼女を見て、俺は、


8月17日。花袋川付近で、一台のバイクと歩行者の接触事故が発生。バイクの持ち主は接触後走り去り、歩行者は死亡が確認された。被害者は囃火乃香さん。彼女は3日後に誕生日を控え……。


そんな記事が、頭の中を巡った。

ぽたり、何処かでまた1つ灯りがともる。

ポツリ、足元にまた1つ、水滴が落ちた。

その水滴は、止まる事なく俺の目から溢れてくる。


「…ほだくん、ごめんね。……大好き」

「俺も、俺もずっと……!」


「大好き」その言葉は、呪いの言葉のように俺を縛り付ける。


絶対に届かない、と分かっていても、それでも、薄くなっていく彼女を必死で抱き寄せようとする俺の手は、何度も何度も空を切った。


「もし、ほだくんが待っててくれるなら、また来年。幸せな3日間を約束して……なんて、だめかな」

「約束するよ。来年も、再来年も、ずっと。」


「ありがと………。また、来年、だね。…ばいばい!!」


ぽたり。


うさぎと、林檎飴と、ラムネを乗せた、小さく暖かな灯籠が、目の前を流れていく。


「また、来年。待ってるから。」


その声は、その小さな橙の火に、反射して、煌めいた。


帰りに、もう1つぬいぐるみを取って、この前目を逸らした道に供え、手を合わせる。


「俺は、火乃香が見ることのできない362日を見て、ちゃんと伝えるから。安心して、ゆっくりおやすみ」


家に帰ると、ドアから溢れる暖かな、慣れ親しんだオレンジの光が俺をそっと包み込んだ。

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