第2話 ただいま
他愛もない会話をしながら、家に帰る。俺の家と、彼女の家は隣。所謂【ご近所さん】ってやつだ。
俺の家のドアに手をかけた時、向こう側から姉ちゃんがドアを開けた。そのドアに押されて俺は一歩下がる。そんな俺を見て、火乃香は笑い、姉ちゃんは驚いていた。
「あっ、歩高お帰り、早かったね」
「姉ちゃんただいま。こんな時間にどこ行くんだよ?」
「ちょっとお隣さんにお裾分けを、ね。」
なら大丈夫だろう。ここら辺は、結構治安が悪い。俺の2個上の、大学1年の姉ちゃんを1人で出歩かせるのは危ない。そんな事を言うと、姉ちゃんは「大袈裟」と笑うんだけど。
不意に、姉ちゃんが空を見上げた。それにつられて、俺も。
「もう直ぐ、だね。お祭り。」
「あぁ、そだな。…早く行けよ」
先ほどは入りそびれた家に、今度はちゃんと入る。下駄箱の上に飾られた、ホオズキの色が、さっき見上げた空の色に似ていて、目についた。
「あら、歩高。お帰りなさい。お姉ちゃんとすれ違わなかった?」
「ただいま。すれ違ったよ。それより、この花…」
「……もう、そんな時期なのよ。1年なんて、あっという間ね。さ、ご飯にしましょ」
「ん。……いつもありがと」
最後の言葉は、ホオズキの橙に吸い込まれていった。