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第1話 手、繋いで
「手、繋いで」
「それは無理」
そっ…、と差し出された右手を拒絶すると、彼女は悲しそうに目を伏せた。
『今週末、何の日か覚えてる?』
『…君の誕生日だろ?』
『ぴんぽーん!さっすが私の自慢の彼氏!』
『で?急にどうし、』
『ってわけで、ちょっと早めのプレゼントが欲しくって、ね』
『簡単なものなら。』
数分前の彼女、火乃香のいつも通りみたいな我儘を思い出す。
その時の、少しだけ緊張した表情も。
悪い事を、可哀想な事をしたと、思った。
「ちゃんと、当日も側にいるから。」
隣で俯く彼女に声をかけ、こちらを見上げる嬉しそうな顔に微笑みかけて、もう一度歩き出した。
「……………ごめん、」
その声は、街を染め上げていくオレンジに溶けて消えた。