第四話 ハーピー一族との話し合い
「あそこにある山の麓がハーピーの一族の縄張りだよ。」
メイフュリアが空から眺めた確認する。
クレスメイ半島は人間には未踏の地だが、獣人族の中には暮らしている者もいるし、大きくはないが集落もある。
「ハーピーの一族との争いが将来起こるんだよね?」
ティーナがツカサに尋ねる。
「それを事前に防ぎに行く。」
ツカサはクレスメイ半島に行く前に、アインスに過去に何が原因で失敗したかを聞いた。失敗の要因としてあった権力争いによる開発の遅れは、グレイヤードが選ばれたことでほぼないと思う。内的要因で開発が遅れる事はまずないはずだ。
過去、開発することでハーピーの縄張りを犯してしまい争いになった。事前に話をしておいて線を引いておく必要がある。
まずは話をしないと、そのためにメイフュリアに来てもらった。
徒歩で集落まで尋ねる。メイフュリアが飛んでいけばすぐにつくが、知らないところに飛んでいくことは無礼に当たるハーピーの集落もあるので歩いていく。
しばらくすると木の上の方に見張りとでもいうのだろうか、こちらの方をずっと見つめているハーピーがいた。ツカサが手を上げると羽をばたつかせながら降りてきた。
「君たちは何をしにこちらに?」
いく分不審げに尋ねてくる。
「クレスメイ半島を開発しに来たので挨拶を。それとこちらは贈り物を持ってきました。」
ツカサは宝石、指輪などを渡す。
「おおっ。」
「中に案内してくれませんか?」
贈り物の効果はてきめんだ。事前にメイフュリアにハーピーはキラキラ光るものが、好きという事を聞いていたのがいきた。
「よし、こっちに来い。」
羽をはばたかせ低空飛行でツカサ達を案内する。前方に集落が見える。木造の家々があった。
ツカサ達を集落の入口にに待たせると一番大きい家に入っていった。
しばらくして見張りが戻ってくるとツカサ達にその家に入るように促す。
中に入ると背が高いハーピーの女性が立っていた。羽が大きく見張りに出ていたハーピーよりも一回り大きく見えた。
「私が族長のメイベルメールだ。よろしくな。」
ツカサを見下ろすように握手をしながら挨拶をする。」
「私はツカサと申します。クレスメイ半島に来ましたので挨拶に来ました。」
「人間たちがクレスメイ半島に来ているのは知っている。こちらからまだ距離が離れているから手を出していないが、こちらにも来るのか?」
アインスから言われていた通り縄張り意識が強い。ハーピーの数は人間より少ないからと争いを始め、予想以上の損害をもたらし開発が遅れたことがあった。
「いえ、そのつもりはありません。あらかじめ境界について話し合おうと思いまして。」
「よし、いい心がけだ。」
「どこら辺までは私達が進出してもよろしいのでしょうか?」
なるべく下手に出る。まずは相手の希望を聞かないといけない。
「お前たちが来た時大きい川を渡っただろう。そこら辺までは私たちのテリトリーだ。」
川を渡ってから結構距離があった。そう考えるとかなりの広範囲がハーピーのテリトリーになる。しかしクレスメイ半島は広い。そう簡単にそこまで開発がすすむとは思えない。問題はないだろう。
「ここの集落の東の方にある岩山について聞きたい。あの山はハーピーにとって神聖な山だったりするのかい?」
「ううん、あの山は木があまり生えないからハーピーはあまり近づかない。」
それなら良かった。実はあの山には様々な有用な鉱物資源が埋まっている。
あの山に無断で立ち入り調査した事でハーピーと対立した事もあったそうだ。その時に鉱物資源があることがわかったそうだ。何週もしているとそういった情報は手に入る。
「あの岩山には鉱物が眠っているはず。今すぐの話ではないけど、採掘の許可がほしい。」
「あの山には好物が眠っているのか。ひょっとして宝石もあるのか?」
「量はわからないけど間違いなくあると思います。」
「宝石を払うなら許可してやる。」
メイベルメールは即答する。宝石には目のない種族というのが改めて確認できる。
「採掘の時に手を貸してくれると助かる。採掘はこちらでするけど、その他宿泊所、食料の手配などをお願いしたい。もちろんお金は払います。」
ツカサとメイベルメールの話し合いは順調に終わる。あらかじめ情報を得ているから当然と言えば当然かもしれない。
「後で、クレスメイ半島の開発責任者を連れてきます。そこで詳しいことは話し合いましょう。」
後でグレイヤードを連れてこよう。彼は優秀だ。お膳立てをすればうまくやってくれるはず。
「ところで、そこの女性はどの集落の出身?」
メイベルメールがメイフュリアを見て聞く。
「私はハーピーと人間とのハーフで小さい頃から人間の里で育ったから、ハーピーの里はないよ。お母さんはニフルハイムにある集落出身だと思うけど。」
「そうか……やはりか。」
メイベルメールは残念そうな様子だ。
ツカサ達が不思議そうな顔をしていたので、メイベルメールは話をしだす。
「私たちは縄張り意識が強い。だから、生まれ育った土地を離れる奴は少ない。それはそれでいいのだが、あまり血が濃すぎると体の弱い子供しか生まれない。ニフルハイムにあった里は、今はもうないと聞いた事がある。それがわかったのが残念だ。」
「どこか別のとこにあるハーピーの里と交流したいということ?」
「できるならな。今のままだと未来は明るくない。人と交わるのは悪いわけではないが、ハーピーの特殊能力が失われる。」
「えっと、メイフュリアはその能力は持ってる?」
「私は持ってるけど精度は悪いよ。お母さんにはかなわなかった。」
「その能力は何?」
「私が説明しよう。」
メイベルメールが割って入る。
「今、この家の外は二人の見張りがいる。今、目の前を子供が通った。見張りに挨拶をしてる。ツカサの持ている袋には金貨が入ってる。剣を佩いているがその剣はほとんど飾り。……こういった能力だ。周りの様子を目で見なくてもすべて把握できる。」
「それはすごいね。ひょっとして見張りは僕たちが気付く前から、僕たちの事をわかっていた?」
「もちろん。見張りはその能力が優れたものがやる。ちなみにお前たちがこの集落に近づいたことに私は気づいていたぞ。全身を調べて安全だと気付いたからここに通した。」
「ハーピーがそんな能力を持っているとは知らなかった。ハーピーの一族がいたらあなたに知らせる。」
ツカサがそう言うとメイベルメールは喜んでいた。
人間も近親婚が進むと体が弱くなる。それはこの世界でもかわらないという事だろう。また、人間と交わると能力が弱くなる、血が薄れるという事かもしれない。
どちらにしてもじわじわとハーピーの一族が弱くなってしまう。
となるとハーピーの一族を紹介するのが、メイベルメールに一番感謝されるはずだ。
ツカサはハーピーの集落を出て、開発しているグレイヤードの所に戻る。相変わらず忙しそうにしていて、ツカサが面会したのは日が暮れてからの事だった。
「ツカサさん久しぶりですね。何かいい発見ありました?」
グレイヤードが明るく話しかけてくる。忙しいのだろうけど充実している。
「ハーピーの集落を発見した。ここからはかなり離れているけど、いい取引相手になる。」
ツカサはグレイヤードとある約束をしていた。アネッテとスレイナをを戦いに参加した見返りに、交易の関する権限を譲ってもらっていた。
もちろん、グレイヤードとの話し合いが前提だ。
「集落から少し離れた所に鉱山がある。そこの開発許可を得てきた。宝石等を渡せばそこを掘れる。」
「ツカサさんの動きは早いです。私としても開発の資金は欲しいですし、動きたいところですが、いかんせんまだ人出も資材も足りないですね。少なくとも三ヶ月後ぐらいしかスタートはできないです。」
「すぐには始めなくてもいい。ただ、向こうの長と会ってほしい。」
「それは問題ないですが、向こうまでの距離を考えるとすぐには無理です。」
「ティーナさんが転移を使えるから、それで送るから問題ない。だから、半日だけ時間が欲しい。」
グレイヤードは感心したようにため息をつく。
「そういえば『白銀の舞姫』がツカサさんに付き従ってましたね。」
これで、ツカサからの要件は終わる。それからはグレイヤードの開発の話を聞く。なぜツカサに話すのかわからなかったが、愚痴を言いたいようだった。部下にはそういった事は言えない。部外者であるツカサにだから漏らしたようだ。
「デクレアはどんな感じですか?」
グレイヤードがツカサに注文をしないので、商人としてのデクレアに満足していると思うのだけど念のために聞く。
「デクレアさんはいいですね。こちらが注文したいものを先回りして提案してくる。開発の現場をよく知ってます。それと、今は仮店舗ですが、きちんとした店舗を作るみたいです。私に開発計画の詳細を聞きに来ました。」
デクレアはうまくやっている。心配する事はないだろう。
「ただ、これは私の口から言うのもなんですが、彼女は身を守る必要があるのではないでしょうか?今は開発は関係者ばかりで襲いかかる馬鹿はいませんが、発展するにつれ良からぬ輩も出てきます。」
グレイヤードの心配ももっともだ。デクレアは見た目は普通の女の子だからだ。
「それは大丈夫です。彼女はああ見えても戦えるぐらい強いです。半端な強盗などかないません。」
デクレアはマーガレットの血と、薄くはなっているが力強い魔族の血がいい方に出ている。
「見かけによらない……ここに来る『白銀の舞姫』の商人なら強くて当然ですか。」
「もう一つツカサさんにお知らせしときましょう。ブラムス商会の商人がこちらに来るそうです。」
さすがに動きが早い。ニフルハイムでも有数の商会の事だけはある。デクレアにもいい試練になるはずだ。
最後にツカサは大切なことを聞かなければいけないと思い出す。
「このクレスメイ半島の町の名前は何に決めたんだ?」
町の名前をつける権利は開発者するグレイヤードにある。
「町の名前はブルーティアラに決めています。私の遠い先祖が昔王様にブルーティアラを貰ったことがあったのです。そこから名前をとりました。」
ブルーティアラ(青い王冠)。おしゃれでいい名前とツカサは思った。
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