第一話 これからの事と託した腕輪
「今が百年後というわけだ。だからこちらに来たのか。」
アシュタロスはツカサに問いかける。
「そう。吸収装置の元を断つためにここに来た。君の事は気になってたけど手がかりがないので、後回しになっていた。それは済まないと思う。」
ツカサはすまない気持ちを表す。
「いやそっちは気にしてない。それよりも本当に人の国までの転移を使えるのか?」
「もちろん。帰ろうと思えばいつでも帰れる。そうでないとここまでみんなを連れてこれない。」
アネッテとスレイナはリンデリウムの森の管理人でもある。長期の不在はあまりよくない。クリスティーナにしてもそうだ。『白銀の舞姫』のリーダーとして長期の不在は良くない。
「兄さん一度戻って。お母さんに会って。心配してるよ。」
マーガレットが切実に訴える。
「エイベル、一度戻ってもいいか?」
アシュタロスがエイベルを見る。
「もちろんです。師匠の記憶がもどって親がいるなら一度は戻るべきです。時間もかからないみたいですし。」
「そうか、それなら一度戻る。作戦を立て直してグレスホルムを倒す。味方も増えたしな。」
アシュタロスはツカサを見る。
「もちろん力を貸す。こちらでも力を貸してる人もできた。」
ナイアロータスもいるのでボルボロスにも力を借りる事もできるはずだ。
それから二日後にエリンシアに戻ることにした。エイベルとリンクルもどうせならという事でついてくることになった。ナイアロータスも『向こうに戻る』と言うとついてきたいと言ってきた。
ボルボロスの諜報部門の長を勝手に連れて行っていいものかと思ったが、フローリアに聞くとまあいいんじゃないという事で連れてくることにした。
アインスと会わせてエレンシアとの関係を深めてもらってもいいかもしれない。
距離と人数の関係上一度にはさすがに無理だったが、二度に分けて転移をした。
「まさか俺が人の国に来るとは思わなかった。」
エイベルが周りを見渡しながら話す。魔族の国とは植相も違えば風景も違う。
「師匠、私もです。」
リンクルもキョロキョロと周りを見ている。
「リンクル。一緒に服買いに行こ!!」
仲良くなったエレーナとサンドラがリンクルの手を握って誘っている。リンクルもうれしそうだ。
「私はアインス様に報告に行きます。長い間ニフルハイムを離れていましたし少しの間戻ってきます。兄さんも私が戻るまでは戻らないでくださいね。」
マーガレットはアシュタロスに念を押す。せっかく会ったのにすぐに帰られてはたまらないといったところだ。
「私たちもついていきます。この国の宰相に挨拶もしておきたいですし。」
ナイアロータスたちもマーガレットについていくようだ。
「私たちも一度森に帰ります。」
スレイナさんが話す。
「アシュタロス。『リンデリウムの森』に帰るけど、また戻ってくるからそれまで向こうに言ったらだめだぞ。」
アネッテもアシュタロスにくぎを刺す。
二人はそういって『リンデリウムの森』に転移した。
「アネッテさんという人は師匠とどういう関係なので?」
エイベルはアネッテのアシュタロスに対する言動に疑問を覚えた。えらくフランクで親しげなのだ。師匠にそういった態度をとるのはどういった関係だろうかと不思議に思った。昔の仲間なのかなと思う。
「俺の師匠。小さい頃から冒険者になるまで教えてくれた人。」
ぶっきらぼうに答える。気恥ずかしいらしい。
エイベルとリンクルは顔を見合わせる。
「あの方は精霊族か何かで?」
白銀の髪、水色の瞳、そしてどこか浮世離れした雰囲気を感じていた。
「多分そうだ。……そういえば彼女がメンデイルを倒したっていったか。」
「そうです。メンデイルから自分の戦い方を感じたと言ってました。」
「メンデイルは俺とお前の弟子だからな……」
アシュタロスは亡くなったメンデイルに思いをはせる。
『白銀の舞姫』の本部、フィロメナが住んでいる所に着く。アシュタロスが緊張しているのがわかる。ここを出て以来初めて帰るのだから仕方がない。
ツカサが屋敷に入るとフィロメナさんが笑顔で迎えてくれる。ツカサもつられて笑みをこぼす。
「おかえりなさい。」
フィロメナさんはツカサの癒しだ。魔族の国の殺伐とした出来事でささくれだった心を癒してくれる。
「目的は果たせなかったけど、アシュタロスを連れて帰って来たよ。むこうに行ったのは運命かもしれない。」
アシュタロスが前に出る。
「母さん久しぶりです。一時期記憶喪失になり手紙も遅れませんでした。だけど。ツカサさん達のおかげで記憶も戻りました。……父さんというのは少し言いづらいです。ツカサさん達と同じ目標、グレスホルムを倒さないといけないので、こちらに長くは滞在できません。」
「それでもいいわ。仕方ないものね。」
フィロメナがアシュタロスを引き寄せて抱きしめる。
「無事でよかった……本当に心配してた。」
ツカサはうっすらと目に涙を浮かべていた。フィロメナも同じく目に涙を浮かべていた。
三人が落ち着いた後、今後の事について話し合う事にする。
ツカサがここにきて約四ヶ月はたった。後残りは八ヶ月だ。また次の百年後に飛ぶことになる。そう考えると果たしてグレスホルムの討伐が間に合うのか?それよりも別の事をした方がいいのかもと悩ましい。
どちらにしてもアインスに聞かないといけないと思う。
本来ならニフルハイムに行ってアインスに会いに行くべきだけれど、アシュタロスが帰ってきていることをマーガレットが教えているはずで、何日か後にはアシュタロスに会いにこちらにくるはずだ。
エレーナとサンドラが早速リンクルを誘って外に行こうとしてる。ナタリーさんに話をして小遣いをもらっている。とても仲がいい。
にこやかに外に買い物に出かけていった。
アシュタロスが戻ってきて、この時代で会いたいという目標は達成した。魔族と人族のハーフは純粋な魔族よりも寿命が短い。百年後生きているかどうかわからないので会えてよかった。
「アシュタロスが戻ったことみんなに知らせる事ができます?」
ツカサがナタリーさんに聞く。
「エルフのエリアス、マリーナは各地にあるエルフの里をまわってるから難しいね。人魚族のティーナは遠くに行ってないから知らせる事はできる。」
「一応エリアスさんとマリーナさんにも知らせておいて。みんながいる方がいいと思うから。」
「ツカサさんは腕輪を持っているメンバーに一度に会いたいの?」
ナタリーさんが問いかける。腕輪はツカサが100年前に仲間に渡しておいたものだ。
「うん。せっかく作ったし誰が持っているのか気になって。その腕輪は仲間の証明でもあるから。ナタリーさんの腕輪はレプリーさんから受け継いだものだよね?」
「そうだよ。今は私が受け継いでる。もう少ししたらエレーナあたりに受け継がせる予定だね。」
腕輪は『白銀の舞姫』のメンバーに百年前に渡した。その時渡したのはレプリー、フィロメナ、メリッサ、アリリオ、クリスティーナ、ジェイラス、ティーナ、レベッカ、エリアス、マリーナだ。後でせびられてアネッテ、スレイナにも渡している。
レプリーさんの腕輪はナタリーにアリリオ君の腕輪はマルツィオにレベッカさんの腕輪はマーガレットに受け継いでいるそうだ。
ベルベネリウスさんやアシュタロスにも渡さないといけないなとツカサは思う。他にもナタリーさんに任せて腕輪を渡して信頼できるメンバーに渡してもらってもいいかもしれない。
それから二、三日後、ティーナとメリッサが帰って来た。アシュタロスが戻ってきていると知らせるとすぐに戻ってきたみたいだ。
早速アシュタロスとの昔話に花を咲かせている。二人はアシュタロスに魔法を教えている。魔法はアシュタロスはあまり得意ではなかったので、そのことをいじられているみたいだ。年月が経とうが教え子と先生の関係は変わらないみたいだ。
お読みいただきありがとうございます。
よければブックマークと評価の方をよろしくお願いします。




