第十三話 戦闘の前の情報収集
グランセダールとボルボロスの国境に一番近い町フォレストリンク。この町にツカサは猫人族の三人兄弟エレーナ、アルノー、サンドラと来ていた。
フォレストリンクは一番国境に近い町とはいえグランセダールには三日ぐらいかけないとたどり着けない。
グランセダールとボルボロスは通商関係も普通にあり、本来なら国境近くに町があってもおかしくない。だが、その前にある森……通称『黒い森』が行く手を阻んでいた。
『黒い森』を切り開こうとすると、どういったわけか切り開いた所に対し魔物が襲ってくる。まるで自分の縄張りを守っているかのようだ。なので、わざわざ切り開こうとするもの好きはいない。
グランセダールに行くには『黒い森』とその横にある山々の間にある道を通るしかない。『黒い森』から魔物が出てきて、グランセダールとボルボロスを行き来する商人を襲う事はあったが、そこまで強い魔物が出る事はない。普段はお金で冒険者でも雇えばひどい目の合う事は少なかった。
ところが最近は様子が変わってきた。盗賊団『デモンズゲート』が出てきたからだ。もとより盗賊はいた。だけれどもせいぜい護衛をつけずに通ろうとした商人。国境を行き来している単独の冒険者や旅人など弱いところを襲うぐらいだった。
フォレストリンクの町の冒険者ギルドにツカサたちは来ていた。目的は情報収集。
「護衛の依頼が多いな。」
ツカサは冒険者ギルドの掲示板を見ている。かなりの数の商人からの依頼だ。しかもその多くはランクがCより上に限る。人数も多くなるといった具合に条件が冒険者に厳しくなっていた。無論その分依頼料は多くなっていた。
周りの冒険者にも声をかけて見る。食べ物や酒などを奢ってればすぐに教えてくれる。
猫人族の三人も要領よく話を聞いている。
ある程度聞いたところで冒険者ギルドをでてベルベネリウスさんの別荘に行く。
ツカサと三人の話を総合すると『デモンズゲート』のせいでグランセダールとの交易が滞っているという事実が浮かびあがってきた。なので、どうしてもグランセダールに行きたい場合は多くの護衛を集める必要があり
、商人は多くのお金がかかるという事だ。
それともう一つ新たな情報が手に入った。『デモンズゲート』のメンバーがある程度わかった。昔はこの辺を縄張りにしていた盗賊団で、ギルドの方でもある程度の情報を把握していたそうだ。
それと、最近グランセダールに行こうとした商人とその冒険者が『デモンズゲート』に襲われた。その際
全滅せずに一部の冒険者と商人は逃げかえることができたそうだ。
今までの情報と今回持ち帰った情報、併せてメンバーの絞りだしはできたみたいだ。
リーダーの『デモン』
まだ、名前はわからないし、戦い方もわかっていない。外見は人族とかわらない。
切り裂き魔 アンダールーセント
氷竜魔人の女 血を見ることが好きなある種の狂人
ここまではツカサたちも情報として手に入れていた。今回に新たに確認できた魔人が五人いた。襲ってきた強さから推定されていた。
グラデル、アポフィルス、イムサデリウス、エルメルスグレイ、アンティーセス、この五人がいたみたいだ。
傭兵くずれ グラデル
一時期グランセダールで傭兵として仕えて居た。しかし、途中で仲間を殺し金品を奪い逃走。
四つの腕を持つ剣士。
闇の魔導士 アポフィルス
一時期グレスホルムの助手で禁忌とされる実験を繰り返したとして追放された。インプの一族
一つ目 イムサデリウス
一つ目のサイクロプス。緑の皮膚をしている。中途半端な攻撃では攻撃が通らない。大剣をもって力づよく叩くことを中心とした攻撃をする。まともに受けた場合剣ごと体を叩き潰される可能性あり。
風の盗賊 エルメルスグレイ
魔人になる前は空き巣、窃盗などをしていた。逃げ足が速くなかなかつかめられないでいた。魔人になりそのスピードがかなりパワーアップした模様。先祖に風の精霊がいると言われている。
闇の強弓 アンティーセス
女性のダークエルフ。闇に溶け込む漆黒の肌、黒いつやを持つ髪、真黒な瞳で照準を当て標的を打ち抜く。
魔人になる前も遠くから弓による攻撃が得意だったが、魔人になりその特性がより強くなった模様。
商人を襲う際にまず彼女の矢が撃ち込まれる。
(最低でも七人も魔人がいる。うまくやらないとこちらが危ない。うまく立ち回らないと個別撃破していくと、逃げられる可能性も考えないといけない。魔人レベルに逃げることに専念されたら、自分たちの手にでつぶすことは難しいし時間もかかる。一年間しか滞在できない自分には厳しすぎる。)
「あと一つ気になる情報を聞いたよ。」
エレーナが話し出しサンドラが横でうなづいている。
「私たちが女性という事もあって、結構油断して話してくれたよ。」
当たり前だけど女性の方が情報は得やすいのだろう。まして、エレーナもサンドラも可愛らしい猫人族だからな。
「敵の情報はこの間襲われた商人たちから得られたってことは、ツカサさんも知ってるよね?」
ツカサはうなづく。
「商人たちが出かけるタイミングや使うルート、護衛の人数、戦力が漏れてる可能性があるって言ってた。待ち伏せで矢が飛んできたり、護衛しにくいところで襲われたりと怪しいところが多いんだって。」
「なるほど。てことは冒険者ギルドか商人ギルド、そこら辺に盗賊のスパイがいる可能性があるという事になるのか。情報収集のやり方を考える必要がある。……『デモンズゲート』を倒そうとしてることは隠そう。どこにスパイがいるかわからない。」
「わかった。私たちも危険なことはしない。新人の冒険者で興味があっていろいろ情報を集めていることにする。」
「スパイがいるかどうかを含めてそこらへんは僕が探してみる。商人ギルドの方から探ってみる。」
猫人族三人が冒険者ギルド、ツカサが商人ギルドを探る事となった。
二日後ツカサたちが屋敷に帰るとベルベネリウスさんがこちらに来ていた。
「そちらの方の魔人はもう倒されたのですか?」
ツカサが聞く。
「ああ、倒して魔人ボログランスは捕まえた。私自身は戦わなかった。手助けと言ったところだ。そのおかげで、ある程度情報を得る事が出来た。……こちらの女性を紹介する。」
ベルベネリウスの隣に黒と紫を基調とした服を着た女性がいた。ツカサを見て探るような眼をしている。通常の目だけでなく額の所にある四つの目も見開いている。目の色の紫を見てツカサはきれいな目をしていると思った。
「蜘蛛の魔族のナイアロータスです。ここには任務できました。ツカサさん達が動くときは私にもお知らせください。」
ツカサは思わずベルベネリウスを見る。
「ナイアロータスは私の友人だ。国の諜報部門を担当している。今回の事は国としても見過ごすことはできないという事だ。だから、非公式でナイアロータスが派遣されている。私たちの協力をしてくれるそうだ。」
「ベルの言う通りです。ツカサさん達の手伝いに来ました。この国にいる間は協力しますのでよろしくお願いします。……まず協力の一つとして今回得られた情報をお知らせします。吸収装置ですが倒した敵からエネルギーを吸い取る役目。自分の能力を大幅に高める能力があります。……ここら辺はツカサさんも知ってますね?」
「ええ、そこらへんはある程度は想像できました。」
「ここからは捕まえた奴から得られた情報です。あの装置は自分の能力を大幅に高める代わりに、自分の生命力、気力そういったものを消費します。長い間使い続ければ自分の寿命を縮めます。」
「自分の力を無理やり引き出す装置でもあるってことですか?」
「そうです。今回ツカサさん達が戦う盗賊団も自分の寿命を縮めてます。……彼らはホログランスの実験体みたいなものです。」
「わかりました。盗賊団を倒すところからホログランスにいきつきたいという事ですね。それは僕も同じです。……わかりました協力します。」
「呑み込みが早いね。頭のいい人は私は好きだな。気にいったよ。ベルが協力するのはよくわかる。」
ナイアロータスが軽く微笑む。ツカサもつられてほほ笑む。
「ナイアが気に入るのは珍しいな。まあ、私も気に入っているから人の事は言えないがね。」
ツカサは顔を下に向けて照れる。
ツカサはナイアロータスさんは、ミステリアスな部分がある美人だと思っているから当然だ。
「そうだ、クリスティーナ達はどうなってるの?」
ツカサは照れをごまかすように話を変える。
「クリスティーナ達も順調に魔人を倒した。もちろん皆無事だ。明後日ぐらいにはもどってくるから、迎えにいっていいと思う。」
「さすがクリスティーナ達だね。明後日にも迎えに行くよ。それと、アネッテさんも呼ぼうと思う。早く呼ばないと彼女もすねそうだし。」
「それがいいね、今度の敵はかなり強いし数も多い。作戦を考えるためにも早く来てもらった方がいい。」
「ツカサさんは強い知り合いが多いのですね。戦力が少なければ私やその他の強い知り合いが戦ってもよかったのですが、その必要はないみたいです。私は情報収集に徹します。」
次の日アネッテとスレイナさんを連れてくる。
屋敷に連れてきたときにナイアロータスがいた。
彼女はアネッテさんに興味津々だ。その証拠に六つの紫色の瞳が彼女を見つめている。アネッテもその視線に気づいたが、すぐにツカサの方に話しかける。
「ツカサ、待ちわびたよ。森での落ち着いた日々もいいけど、刺激が足りないね。」
「アネッテさんありがとうございます。今度の敵はだいぶ強いみたいです。よろしくお願いします。」
「うん、私に任せて。私の強さをみせてあげるよ、ツカサの反応が楽しみだ。」
「はい、期待してます。」
「それで、敵はどこにいるんだい?」
「敵はこの町から少し離れたところの『黒い森』にいる盗賊団です。」
「そうか、それなら私の友人のドラゴン君を連れてこようか?彼が森を焼き払えば盗賊も出てくるだろう。そこを私がたたくよ。」
「いつの間にドラゴンと友人になってるんですか?森を焼いたりしたらだめですよ。この国に迷惑がかかります。」
ツカサがあきれるように言う。
「そっか。手っ取り早いと思うけどな……わかった、ツカサに任せる。わたしの戦いの場を作ってくれよ。」
「初めましてナイアロータスと申します。この国で情報収集を担当しています。どんな方が助っ人に来るか楽しみにしてたのですが、いい意味で自分の想像を超える人ですね。」
今まで黙ってツカサとアネッテの会話を聞いていたが、我慢できず話しかける。
「おお、魔族のアラクネーの一族の方かな?きれいな紫の六つの目をしてる。……うん。君がいれば情報取集に間違いはなさそうだ。」
アネッテはナイアロータスの目を覗き込むように見つめる。
「はい、その点はお任せください。今、私の部下も少しずつ森の探索を進めております。奴らのねぐらがわかればすぐにでも戦えると思います。」
(ナイアロータスさんはとても優秀な人だと思う。だけど、もっと早く盗賊団を探せるいいアイデアが浮かんだ。明日、僕はクリスティーナ達をこちらに連れてくる。その時フローリアにその考えを話してみよう。)
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