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04.朝食

 チュンチュン


 外から雀の可愛い鳴き声が聞こえてくる。

 これが朝チュンと言うやつか。

 ……ねぼけ眼で戯言をほざく私を許してほしい。


 アレク達が去ってから、この家で寝るというルイに私は一部屋を貸した。

 ルイの役割は私の監視だし、同じ部屋で寝るとか言われたらどうしようかと焦ったが、そんな事を言われる事もなく彼はあっさりと部屋に籠ってしまった。


 なるほど、そうきたか。

 でも風呂には入れよ、汚いなあ。


 お腹の空いた私は、布団から飛び出し、キッチンスペースのある一階に下りる。

 少し肌寒くなった朝には、この分厚いローブは最適。

 彼に鉢合わせするといけないので、フルフェイスのマスクも装着済だ。

 あと今日は肱までの黒い手袋もしておく。


 と、備えが功を制した。

 予想していた通り、キッチンには既にルイがいたのだ。

 彼は椅子に座った状態で私を振り返った。


 肩にはタオルを掛けている。

 髪も半乾き……と言うことは?


「風呂を借りた。」


 だろうね――。

 乙女のお風呂を勝手に使うとか、信じられな――い。


 悪びれもなく事後報告をしてくる彼に、私は耳を疑った。

 しかも、勝手に何か飲んでるし。


「……それは良かった。」


 彼の事は気に掛けないことにし、私は朝食の支度をはじめる事にした。


 ……これはルイの分も作るべきか?


 フライパンを片手に私は静止する。


 いや、彼の分も作ろう。私の為に!!

 見られながら一人で食事って、美味しい物も美味しく感じられない。


 手短に調理を済ませ、主食、副菜、汁物を私は彼の前に並べた。


「俺の分もあるのか!?」


 と、心底驚く様子を見せた彼に私の心は少し踊る。

 うん。良いことをするって気持ちが良いね。


「ああ、お前の分だ。食べてくれ。」


 すまないと言って食べ始める彼は、犬のようにがつがつがっついていた。


 ……これが餌付けというやつだろうか。


 私は彼の食べっぷりに感心しながら、自分も箸を進める。



「……ところで、お前のことは何と呼べば良いのだ?」


 既に食べ終わったらしく、暇をもて余すルイは私に話し掛けてきた。


「ここでは老婆で通っている。」


 私は咀嚼しながら答える。


「おい、飲み込んでから喋れよ。それに、王の前では老婆では通じぬ。名は何と言うのだ?」

「それは……ゴホンゴホンゴホン。」


 やばい、気管に入った。

 口の中からイロイロ出そうだ。


「おっおい……。」


 慌てて立ち上がろうとするルイを手で制し、私は水で口の中のものを流し込む。


「すまない、大丈夫だ。だが私に名はない。」


 そうでまかせを言いながら、私は口元の水滴を拭った。


「ほらなあ、だから食べながら喋るなと。」

「それはお前が私が食べているときに喋り掛けるせいだ。」

「ああ、はいはい。で、孤児だったな。じゃあ今までずっと老婆で通していたのか?」

「……それは場合によりけりで……。」

「……へえ。じゃあ、この際に籍を作るか? 何が良い?」


 気軽にそんなことを言ってのけるルイに、私はこいつの身分が高いことを知る。


 権力者か……。

 面倒なことにならなければいいが。


「籍を持つことは王の前に出ることに必要か?」


 そんな質問を私はしてみる。


「……必要ではないが、褒美が受け取れないぞ? それに、この先もこの国で商売をするなら必要だろう?」

「褒美……。そういえば私のことを賓客として扱うと言っていたが、私の薬はそんなに凄いのか?」


 私は匙を置いて彼の言葉を待った。


「お前が凄いのか、この土地が凄いのかは分からないが、何かしらの褒美は出るだろう。」


 ……凄いことしたんだって私。

 でもあまり大事になると父に気づかれるしなあ。

 それに、いつかは家に帰るかもしれないし……。


「……籍はいらない。罪に問われないのならば、国王に謁見した後、この地を離れて他の土地で売り歩く。」


 私は決心してルイの顔を見上げる。


 またゼロからのスタートになっちゃうけどね。


 だが、顔をあげる私とは裏腹、ルイは何か考え込むようにして俯いた。


「他の土地……行かせて貰えるだろうか。まあ、籍はさておき、呼び名がないと勝手が悪い。何が良い?」

「は? 名は……好きなように呼べ。」


 私はついぶっきらぼうにそう答えてしまう。


 国外に出れないとはどう言うことだ!?

 それなら軟禁となんら変わりないだろうが!!

 まあ何かに擬態すれば良いだけの話……こいつさえ騙せれば……。


 曲者感を匂わせるルイを、私は警戒することにした。


 こいつの目を逃れれば逃げれるだろう。

 今は無理だろうが、城に行けば離れて行動することもあるさ。


「そうか。ではオリヴィエなんてどうだ?」


 ビクッ


 そんな中、彼の提案に私は肩を震わせた。

 その名は男性のものだが私のそれと似ていたのだ。


 え? ……偶然!?

 それとも、気付いてる……?


 だが私の動揺を他所に、ルイは言葉を続ける。


「これは最近読んだ本に出てくる少年の名前なんだ。……どうだ?」

「あ……ああ。良いんじゃないか?」


 なんだかルイの視線が痛いような気がするのだが。


 そう思いつつも、にこやかな笑顔を作って彼に答える。


「そう? ……気に入ってもらえたようで良かった。では早速、薬草の採取にいこう。あと七日しかないのだからな。」

「七? ……十日の筈では?」

「昨日が残り十日。それに、城までの距離を考えたら二日前にはここを出なくてはならん。」

「はあ!?」


 開いた口が塞がらないとはこう言うことか。

 傲慢すぎるルイに、私はなかなか顎を顔の元の位置に収めることができなかった。

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