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03.仲間

 バンっ


 勢いよく店の扉が開かれる。


「おい、ルイ。もういいだろう?」


 ルイの仲間らしき人物が待ちくたびれた様子で、断りもなく店の中にずかずかと入って来た。

 苛立ちを隠しきれないのか、足音がぞんざいになっている。


「アレク、待ちたまえ。」


 そのアレクと呼ばれた男に連れ、もう一人の男も店の中へと入って来る。


 二人の男は私の伸びをしている姿を見てピタリト動きを止めた。


「おまえ……。」


 あ――あ、この男達にもばれた。

 まぁいずればれるんだろうけどさ。

 ノックしてから部屋には入れよな。


 私は舌打ちをする。


 そんな私の態度に苛立ちを隠せないのか、アレクが詰め寄って私の胸ぐらをつかむ。


「アレク、その老婆から手を離せ。」


 冷静な低い声がアレクを制する。


「だがジョン、こいつは目的の老婆ではなさそうだぞ。こいつの口を割って老婆の居場所を突き止めなければならん。クソっ。無駄な仕事を増やしやがって。」


 アレクが唾でも吐きそうな勢いで悪態を吐く。


 お――い、やめてくれよ。唾ならトイレで吐いてくれ。

 汚いなあ。

 どうやらこのアレクという男が若干暴走気味な態度をとり、ジョンがいつも尻拭いをするという関係性なのかな?

 そしてそれを傍観するルイ。おい、ルイ!


 私はジト目でルイを睨む。

 フードに隠されて私の目が見える訳はないのだが、それを汲み取ったかのようにルイがこちらに向かってきた。


「アレク、ジョン。この者が目的の人物で間違いはない。凄い擬態の持ち主の様で、老婆に擬態していたのだ。我らが仲間も見抜けられなかったらしいな。」


 ルイの言葉に他の二人が凍りつくのが分かる。


 ……私はそんなに凄くない。

 だから妙に気を寄こさないでくれ。

 変に騒ぎ立てられたら、父も私の場所に気付いてしまうかもしれないじゃないか!!


 最初に動き出したのはジョン。

 彼が頭を下げ、ルイと同じように最敬礼を私に示した。


「……それは失礼しました。おい、アレク! いつまで固まっている!! さっさと頭を下げないか!」

「あ、ああ……。申し訳ない事をした。」


 そういって、アレクもまた私から手を離して頭を下げる。


 ……え。だから、私、罪人じゃないの!? なにこの手厚い待遇。


「あ、いや、別に何ともない。だから……顔をあげてくれ。」


 私の言葉に、二人の男はそっと頭をあげる。


「申し遅れました。私、ジョゼフ・カジミール・ルネ・コンスタンと申します。こちらは……。」

「アレクサンドル・テオフィル・オーギュスト・リシャールです。城までの案内を担当させていただきます。先程は大変失礼なことを致しまして……。」

「あ、いえ、本当に気にしてませんから大丈夫です。」


 と、私はアレクの言葉を遮る。


 なんか騙しててこちらこそすみません……。


「なんか双方納得したみたいで良かった。では、早速城へと向かおう。王が今か今かと待っているぞ。城に持って行く薬だが、出来ればこの店で利用しているパックとやらに詰めていこう。一パックに一種、全種類持っていけると善いのだが。どうだ?」

「ど……どうだって……。今日の内に薬は全部売ってしまったぞ? それに今から出発って……村の人にお別れも言ってないが?」


 ルイの軽い言葉に、私は大きく反論した。


 ……さっき村人と約束を交わしていただろう!?


 私は彼に心底呆れる。


「売った? 全部か!?」


 さっきの謙虚さはどうしたのか、アレクがまたして私に詰め寄って来た。


「え。売り切るの待ってたんだろ?」

「待ってない!! 全く残っていないのか!?」 

「あ……ああ。」

「一粒もか!?」

「……うん。」


 アレクの世の終わりの様な悲惨な叫びに、私はたじろいでしまう。


「おい! ルイっ! 何をしていたっっ!」


 アレクの怒りの矛先がルイに移動したようだ。

 ご愁傷さま。


「……客のふりをして薬を買った。」


 そんなルイの言葉に肩を撫で下ろしたのか、アレクが安堵のため息をつきながら彼の肩を叩く。


「なんだ、あるじゃないか、薬。別に全種類とは言われてないんだろ? それを持って行けばいい。」

「それは無理だ。」


 だが、ルイはアレクの言葉を即断する。


「……なぜ……?」

「使った。」


 やっぱりか――!! と叫ぶアレクの背中はなんだか物悲しかった。



「で、どうするんだ。」


 店の隅で男達がなにやらひそひそと話し合っていた。

 この隙にと私は手近の机から、顔全体のマスクを取り出し、口元を覆うだけのそれと代えておく。


 これでフードがあげれる。良かった。

 うん。視界も良好、さすがだねっっっ!


 だけど、このマスクも特殊メイク宜しく顔の筋肉と連動して動いてくれるのだが、何分重いし肌呼吸が出来ない。

 乙女の敵なのだ。

 と、愚痴る私は改めて男らの様子を窺う。


 遠くから見るとイケメン集団で目の保養になるんだけどね――。


「おい!」


 話が纏まったらしく、ルイが私に呼びかける。

 そして、顔の表情を見る見る険しくするルイ。

 他の二人も私の顔を見て眉間に皺を寄せていた。


 見てる見てる。

 私のフルフェイスマスク。


「凄いじゃろ。これなら誰にもばれん。」


 老婆の姿に再び擬態する私。

 もちろん、このマスクにも変声機が付いてるから声も老婆そのもの。


 ははは。驚いたか諸君!! と、自慢げに笑う私にルイが一言。


「その恰好だったら、そのまま王の前に出ていけたな。」

「……。」




 結局、この地で私が再び薬を精製してから、薬と共に城に向かう事になった。

 この土地の成分が薬草自体に影響をあたえているのかもしれない、とのこと。


 だから、本来の薬ってどんな形をしてるんだ?


 彼らに教えを請うが“私の精製に影響を与えるかもしれないから”と教えてくれなかった。


 ……いいけど。


 そして、私が薬を作っている間、アレクとジョンの二人は一旦城に帰って現状を報告をしてくるらしい。

 きっと、彼らはルイに私の監視をなすりつけて逃げたのだ。

 せめて十種ぐらいは作れと言われたので、植物の採取を含め十日ほど頂くと進言したら、嫌な顔をされた。

 いいじゃないか。何もない土地。

 自然と戯れてろバカヤロー。



「なあ、ルイ。私が賓客なら、彼らは私の護衛に来たのではなかったのか?」


 店の外の暗闇の中、アレクとジョンの二人が馬に乗って走り去る姿を見つめながら、私はポツリと呟く。


「ここまで擬態が得意なお前に、護衛はいらんだろ。」


 そんな投げやりの言葉がルイの口からこぼれ出る。

 もう顔すら見て喋ってくれない。

 扱いがぞんざい過ぎる。


「……。」


 私、本当はお嬢様なのに。

 家出して自活してるから今さら何も言えないけど、私、深窓の令嬢だったのに。


“護衛はいらん”……。


 彼の言葉をしみじみと噛みしめながら、私は彼らの去った方角を見つめるのだった。

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