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01.謝罪

 暖かい日差しが流れ込む廊下を抜け、対面式を無事に済ませた俺はリアの城にある応接間へと再び案内される。


 そこには、王女の仮面を脱ぎ棄てた彼女がすでにいて。

 といっても、もとから態度のでかかった彼女だ。

 特に先程と何も違いはないのだが。


 それでも気を許しているのか、椅子にゆっくりと腰を下ろしているリアの表情に少し隙が見られた。

 そんな彼女の態度に俺の心も安らぐ。


「リア……。」


 俺は思わず彼女の名を呟いていた。

 そして足取り軽く彼女の元に駆け寄る。


 俺の顔は緩みきっているであろう。

 だがそんなのは気にしていられない。

 リアがこの場に、俺のすぐ傍にいるのだから。


 だが彼女まで後一歩と言う所で、そんな浮き足立つ俺を沈める声がその部屋に響く。


「ねえ、私もいるからね?」

「……。」


 突如放たれたリアとは違う別の女性の声に、俺の足はピタリと止まった。

 その声のした方を俺はそっと窺う。


「二人の世界に入りこまれたら困るから先に声を掛けさせて貰ったけど。」


 そんな俺の視界に入りこんで来たのは、面倒くさそうに喋りかけてくるリアの母上で。

 彼女はリアの向かいの席に腰を下ろしていた。


「王妃様!? なぜ此方に!?」


 と俺は思わず体をのけぞらせる。


「それは貴方には前科があるから。なのに、私があなた達を二人っきりにさせる訳ないでしょう?」


 王妃は表情こそ柔和だが腹の内は煮えたぎっているのでろう、俺にはどす黒いオーラが彼女の後ろに見えた。


 ……おお。

 ここにも魔王が居た。


 俺は“ははは……”と乾いた笑いをこぼす。


「ルイ、すまない。」


 そんな中リアのくぐもった声が聞こえる。

 振り返れば、リアが目を伏せながら俺に謝罪を入れていた。


「リア!? いや、君は全くもって悪くないだろ。」

「いや。冷静になってきちんと考え直したんだ。私は女である前に王女。たとえ家を出ていたとはいえ、この血が私の体内に流れている事には変わりがない。それなのに軽率な行動をとってしまい、ルイにまで迷惑を掛けてしまった。本当に申し訳ない。」


 そう言って彼女は深く頭を下げる。


「俺は迷惑だとは思っていない。」


 深い想いが彼女に伝わるようにと、俺は腹の底から声を出してゆっくりと喋った。


「ありがとう。」


 だが、頭をあげたリアは少し泣きそうになりながらそう答えるだけ。

 俺は彼女がどうしてそんな表情をするのか理解できなかった。


「リア?」


 戸惑う俺を置いて、リアは言葉を続ける。


「私は王女である事を隠していた。だから、ルイがあの村で私に言ってくれた事は私の都合の良い夢物語だと覚えなおす。もし子が出来ていればルイの選べる選択肢は少なくなるが、それでも出来る限り望みを叶えようと思う。だがもし出来ていなかった場合は、お前は……自由だ。」


 そう言って彼女はしっかりとした表情で俺に宣言した。


「それは、つまり。」

「ああ、婚約解消も視野に入れてくれて構わない。これは両親の、王と王妃の了承は得ている。」


 リアが深く頷く。


「リアっっっ!!!」


 俺は思わず怒気を含んだ声で彼女の名前を呼んでしまっていた。


「……ルイ?」

「俺はお前と婚約を解消するつもりはない。もちろん、子供が出来ていなかったとしてもだ。そしてこのまま婚姻を結ばさせて貰うからな。」


 目を見開く彼女に、俺は意地を張りながらそう言い渡す。


「というか……むしろ、俺と結婚して下さい。」


 だが、最後の方は懇願になってしまった。

 そのまま頭を深く下げて彼女の言葉を待っていると、俺の手を彼女が優しく包み込む。


 そして、


「ありがとう。宜しくお願いする。」


 とリアが囁いた。 

 その穏やかな彼女の言葉に、思わず顔をあげた俺はそのまま彼女に抱きつく。


「リア――っっっ。」


 ゴンっ


 だが次の瞬間、鈍い音と共に俺の頭には重たい鉄拳が振り落とされた。


「変態が。」

「触るぐらい良いだろっ!」


 いつの間にか隣に立っていた王妃の指摘に、俺は思わず願望をこぼす。


「ほお。」


 したりの顔で、王妃が目を細めて俺を見下ろした。


「し、失礼いたしました。」


 俺はすかさず謝罪を入れる。


 さすが一筋縄ではいかない。


 俺は改めて身の程を知ったのだった。



「母さんっ!」


 リアの仲裁を得て、俺はゆっくりとリアの隣に腰を落ち着ける。

 彼女の母親もまた元の席に着かされたのだった。


「だってリア。」

「だってじゃありません。このあとルイは国に帰ってしまうのですよ! 私の為にこの場を設けてくれたのでしょう!? 母さんは少し黙っていて下さいっっっ!!」


 彼女の言葉に、王妃はしゅんとして縮こまるのだった。


「ルイ、ごめん。それで……。」


 改めて俺に向き直ったリアだが、気まずそうに目を伏せて喋るのをやめてしまう。


「んん? どうかしたのか?」

「いや、あの……一つ気になっていたんだ。こんな事を私が尋ねるのもどうかと思うが。」


 そんな困った表情の彼女も可愛いと、俺はじっとリアの様子を窺っていた。

 それでも言葉を発さない彼女に、俺は優しく言葉を促させる。


「なんだ? 何でも言って大丈夫だぞ。」

「そう、か? ではその、……お前の言っていたオリヴィエという男は見つかったのか?」


 彼女のそんな疑問に、俺の凪いでいた心が徐々に荒んでいくのが分かった。


「なぜ、だ?」


 俺はなんとか笑顔を取り繕い、負の感情が表に出ないように心がける。

 だが心の中までもはどうしようもない。

 リアは悪くないと分かっているのに、どうしても責めることをやめられない。


 なぜ俺が目の前にいるのに、リアはあいつの事を心配するのだ?

 そもそもリアはあいつと知り合いだったのか?

 なぜ隠していた。

 ……やはり、どいつもこいつも……。


 そんな俺の嫉妬が伝わってしまったのか、リアが苦痛の表情を浮かべだした。


「すまない。このような場に持ち出す話題ではないことは分かっている。だが、今日を逃せば次にいつルイと会えるか分からない。だから一度、きちんと聞いておきたかったのだ。」


 リアが懇願するように俺の手を取って訴えてくる。


「……リア……。」


 俺の為に?

 俺の事を想って……。


 俺は自分を叱咤した。

 彼女と二人でこれからやっていきたいと願ったのに、自分からそれを壊すようなことをしたのだ。


「もっもちろん、話したくなければ話さなくていいし、話す必要も……。」

「話す。……いや、話を聞いて欲しい。」


 戸惑う彼女の言葉を遮り、俺は重たい胸の内を告げようとしていた。

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