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14.朝チュン

 チュンチュン


 外から雀の可愛い鳴き声が聞こえてくる。

 これが朝チュンと言うやつか。


 ……今度こそ嘘ではない。


 それにしても……ルイ、エロかった……。

 いや、エロいことをしてたんだからエロくていいんだけどさっっっ。


 私は昨夜の出来事を回想しながら身悶えしていた。


 でも、手加減してくれてあれだよね。

 “リア初めてだしな、明日も仕事があるしな”ってルイ途中で何度も唸ってた。

 まったく私の全開の色香にもやられている様子もなく、普段の彼の表情で。


 そんな彼の苦悶の表情を思い出し、私はつい吹きだしてしまう。

 その時。

 以前、私に向けて放たれた従兄の言葉が頭の中を駆け巡った。


“君のその顔と身体が悪いんだ。”


 あの人の言葉を思い出し、私はピクリと身体を引き攣らせてた。


 優しい兄だったのに。

 どんな時も私の味方でいてくれたのに。

 それなのに私は……。


 あの頃の想いが再び私の中に蘇る。


 ……起きなくては。

 早くバスルームに行って、マスクとマントを……。

 ああ……それより先に身体に栓か……。

 私としたことが……あれ……。

 ……くそっ! 出来ない。

 身体がだるくて言う事を聞いてくれないっ!


 私は哀しんでる暇はないと、自分を叱咤しながらなんとか重たい身体を奮い立たせる。

 全身に気を集中させて空気で覆う。

 そしてそれを蓋の様にして少しずつ、ゆっくりと体中に張り付けていった。

 私の体の中に色香が溜まり出す。

 その増え方に一定の量を見出し、いつも通りの制御が出来ている事を確認する。


 はあ はあ はあ


 私は肩で息をしながら一息ついた。


 良かった……。


 安心した私は、目をこじ開ける。

 すでに日が昇り始めたようだ。

 カーテンの隙間からわずかな光が漏れ、部屋の中は薄暗くなっている。


「はっ!?」

「おはよう。」


 私の目には優しく笑うルイの顔が映っていた。


 ……“映っていた”!?


 私は勢いよく起き上ると、自分の顔を手で覆い隠す。

 彼の顔がはっきりと見えると言う事は、私の顔もはっきりとルイに見えてると言う事だ。


「……い、いつから……。」


 涙まじり声の私の質問に、ベッドに横になったままの彼はニッコリと笑い返してきた。


「ん――一時間くらい前かな? あ、今も見えてるよ?」

「……え?」

「ここ。」


 そう言ってルイは自分の裸の胸を指差す。


「……ゴクン。」


 彼の身体をまじまじと見た私は、思わず唾を飲み込んだ。


 ……私、あの身体に……じゃなくてっっっ!

 

 私はゆっくりと自分の胸を見下ろす。


 キャ――――


 慌てた私はシーツを手繰り寄せて胸を隠した。


「今度は顔、見えてるよ。」

「……いっいじわるだっっっ。」


 そう言って、泣きそうになるのを堪えながら私は身体ごとシーツの中に潜り込む。


「くくっ。ごめんってば。」


 私の横に寝転がるルイは、布越しに私の頭をなでながら謝ってきた。


「謝られても……謝られても……。」


 見られた事には変わりないのにと、私は沈んだ。

 そんな私をルイはシーツごと抱き締めてくる。


「可愛いよ? リア。どんな君でも凄く可愛い。」


 そう言って、ルイは何をするでもなくぎゅっと私を包みこんだ。


 温かい。

 ……あれ?

 一時間前から私を見ていた!?

 じゃあ私が色香を抑える所も……。


「ルイ……。」


 私はシーツからそっと顔を出して、彼を呼ぶ。


「なんだ?」


 私を解放したルイは、ベッドに腰掛けながら私の言葉を待ってくれた。


「……違い、感じる?」

「ん――少し? でも、どちらのリアも俺の可愛いリアだ。」

「少し?」

「ああ、ほんの少しだ。どうやら俺の精神は壊れないようだね。」


 だが、そう言ったルイが、自分の額に手を置いて辛そうな表情を浮かべた。


「ど、どうしたの?」

「いや、大変だったことを思い出したのだ。」

「え?」

「俺がどれだけ自制したか、君が一番よく知ってるだろう?」


 ルイがいたずらっぽく笑う。


「……うん。」


 そんな彼に、私は照れながらも頷いた。


「でも、ちゃんと約束通り“朝”起きれてるよな?」

「ああ、起きれた。」

「じゃあ……今からまたいいか?」

「うん――? ……“いいか”って何が?」


 信じられない事を軽く会話にねじ込んで来たルイに、私は口元をひきつらせる。


 危ない、思わず頷きそうだった。


「な、いいだろ? こんなにも綺麗だったとは思わなかったんだ。リア、凄く綺麗だ。いや、例えどんな姿をしていても、リアはリアだよ。俺にとって大切な人であることには変わらない。……だが……今の君の姿を見ていたら、また欲しくなってたまらないんだっっっ!!」

「……。」


 なんだそれは――!!


 と私が叫んで、咄嗟にルイを引っ叩いたのは許して欲しい。

 脳筋のルイには、色香よりも外見の方が重要だと言う事が判明したのだ。



「冗談だってば!」


 シーツを全身に被り、ズルズルと引き摺って歩く私の横をルイが並走する。

 彼は手を顔の前で合わせていた。

 謝罪を示そうとしているのだろう。


「……。」


 私はピタリと足を止め、唯一外に出ている目だけをルイに向ける。


「なあ、リア怒るなよ。」

「……怒ってない。さっきのはこちらが悪かった。ごめん。」


 そう言って、私は深々と頭を下げた。

 むしろ求めてもらえて喜んでる自分もいるのだ。

 私は生まれて初めて、この身体に生まれて来た事に感謝していた。


「リア。悪いのは俺だ。リアは二人の将来の事を考えて仕事を最優先しているのに、俺ときたら……。」


 将来!?


 私は息を呑む。


 そっか……。

 ルイは私が身体を許したと言う事は、結婚することも了承したんだと思ったんだ。

 でも私は……。


「……ルイ。今は薬を仕上げることを第一に考えよう?」


 肯定も否定もすることなく、私は彼の言葉を濁したのだった。

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