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12.会話

「王がな、早く子を成せと煩いんだ。」


 私をホールドしながら、冷静な声のルイが耳元で囁く。

 天井を向く私は緊張でガチガチなのにと心底彼を恨んだ。


「……お、王?……。」

「ああ。俺は有能だからな。早く俺の補償が欲しいのだろう。」

「そうなのか?」


 自分で有能とか言ってるよ。

 でも一日であの森を攻略したのだから、そうなのだろうな。

 私だって三カ月は掛ったのに……。


「ああ。まあ、以前から俺の嫁にと自分の娘を薦めてくる人間は多かったのだ。だが、それも社交の場での挨拶やダンスがひっきりなしという程度で問題はなかった。」

「……。」


 自慢?

 そりゃあ、色男だし、一緒に居て楽しいし、強いし、守ってくれそうだし、こんな良い男他にはいないだろうけどさ。

 ……ずい分と私もルイを褒め立てるな。

 自分で自分にうんざりするよ。


 私は自嘲した。


「あれ? 妬いた?」


 私の無言を受け、ルイの楽しそうな声が聞こえる。

 暗くて彼の顔は見えないが、きっとあのニタニタ顔を浮かべているのだろう。


 腹が立つなあ。


「妬いてないっ!」


 私はルイのいる方向に少し顔を傾け、刺々しく言い放った。


「そう? 残念。」


 全く残念そうじゃない彼の物言いに、私は口を尖らせた。


「全然残念がってないよね?」

「はは。本当に残念ではあると思ってるよ。だって、リアは俺の肩書を抜きで久しぶりに仲良くなった友人だから。」


 そう言いながら彼も天井を向いたのか、シーツの擦れる音と共に彼の声も遠ざかる。


 ……友人。


 そんな彼の言葉に傷付いたらしい。

 私は自分の息が浅くなるのを感じた。


「だが王がそう通告してから、それに拍車が掛ってな。本来なら王の暴走を止めてくれる友人がいるのだが、今は遠方に視察中で。」

「……そう。」


 平静を装う私のそんな感情に、ルイは気付かないのだろう。


 ……良かった。


 彼は何事もなく話を進める。


「王直々の通告があったものだから、少しの無礼行為は許されるだろうと最近では俺の家にまで押しかけて来てな。まだ休日の昼間や夕食時に押しかけて来るのは良かった。だがその行為が王から暗黙の了解を得たと知ると、次第にエスカレートして来てな、俺の就寝中に乗り込んで来る奴もいたんだ。」

「ベッドに。」

「そう。まあ、前からさほど女には興味がなかったのだが、それで一気に駄目になってしまった。」

「……家の者は?」

「眠らされてた。俺の結婚は国家単位のプロジェクトだったのだろう。」

「……。」


 ……ルイって何者だ!?

 王族ではないのだよな。貴族になったばかりって言ってたしな。

 ……なんか危ない人物と関わりを持ってしまった気がする……。


 私はじっと彼の言葉の続きを窺った。


「……そしてこの間、ついにその中に俺の命を狙う刺客が混じっていた。」

「えっ!?」

「王が俺に目を掛けてるのが気にくわない奴らも居るからな。早かれ遅かれそうなるとは思ってはいたんだがな、でも実際に出てみない事には進言は出来ない。」

「……。」

「でも良かったよ。それでやっと暇が貰えてここまで逃げて来れたからな。もう女はうんざりだ。ま、折角の休みも、蓋を開けてみればリアの調査とお迎え付きだったんだがな。」


 私を抱き締めるルイの腕に力がこもる。


「ルイ……。でも、私も女だが?」

「リアはリアだ。女でも男でも変わらない。」

「……そうか。」


 嬉しいのか悲しいのかよく分からないと、私は小さく落ち込んだ。

 だがそれを違った方向に解釈したのか、ルイが慌てて弁解を始める。


「あ、勘違いするな? 令嬢と結婚したくないからリアと結婚する訳じゃないのだからな?」


 そう言ってルイがまたしても私の方を向いた。

 彼の息が耳にあたる。


「わ、分かったよ!! だからあっちを向け。耳がこそばゆいっ!」

「……。」


 フっ


 私が慌てるのが面白かったのか、ルイが耳に息を吹き掛けて来た。


「っ!! ルイ!? わざとだろうっ。」


 手を動かせない私は体中をばたつかせる。

 それでも逃れられないと、頭を彼に向けて出来るだけ耳を離そうとした。


「あっはっはっは――! 逃がさないぞ。」


 だがそんな私の態度を、ルイが鼻で笑う。

 ルイがさらに身体をくっつけ、私はがっちりと抱きこまれたのだ。


「逃げないっ。逃げないから離れろっっっ。」


 力では勝てない私は、何とか言葉で彼をねじ伏せようとするも叶わない。


「や――だ――な――。」


 ルイが私の申し入れを拒んだ。


 なんだ、この暴君。どこぞのお代官様ではないか!!


「ううっっっ。」

「お――。思う存分嫌がれ。……っと。」


 急に私を拘束していた彼の腕から力が抜ける。


「ん? ルイ、どうかしたのか??」


 彼の突然の変化に私は戸惑った。

 ルイの方を見る勇気が出ない私は、彼に頭を向けながら尋ねる。


「あ――……さっきの話な。」

「さっき? ああ、刺客の話?」

「それと令嬢達の話。」

「うん。」

「俺が食指が動かなくなった理由って言うのは分かったか?」

「……ああ。」


 ……それがどうした?

 何がルイは言いたいんだ??


 私は固まったまま、じっと彼の言葉を待つ。


「あの話は、お前を安心させようとしたのだ。だから俺が添い寝をしても大丈夫だ、襲わないと。」

「……ああ、そうなんだ。ありがとう。そっか、じゃあ心おきなくこのまま寝れるのか。なんだか少しドキドキするが、これが本当の添い寝というものなのだな。」


 私がそう言うと、ルイが横で“リアもドキドキしてるんだ”と呟く。


 ……なんだろう。

 なんだか……雲息が怪しいような……。


「リア、それがおちおち寝ていられそうにないんだ。」

「……なんで。」

「俺の食指が動いた。」

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