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第三話 ニキビ


「なにか用?」

「え、その、う、ぐふふ……」


 自分の席に座っている私に近づいてきた男子、沼田はなぜか黄色い前歯を覗かせて膨らんだ鼻から鼻毛を見せつけながら笑っている。

 それも、大声で笑うと言うより、口の中で含もうとしたが漏れ出てしまったような笑いだ。

 

 ……気持ち悪い。


 人は外見ではないなどという綺麗ごとを言うつもりはないが、この男の場合、醜い性根が外見にまで漏れ出ているような印象を抱かせた。

 正直、関わりたくなかったので、無視を貫こうとしたが、


「ま、黛さん……ぼ、ぼ、僕と一緒にご飯食べようよ……えへへ……」


 ……は?

 話が突飛すぎてよくわからない。そもそも私はこの男とクラスも違うし、何より初めて会話する。

 それなのに、なんでこの男と一緒にご飯を食べなければならないのか。

 もしそんなことになったら、どんな極上の料理だったとしても沼田への嫌悪感に上書きされて、その味を味わうことなく喉を通過してしまう。

 うん、だめだ。心の底から願い下げだ。

 しかしどうしよう。こういう輩にはきっぱり言った方がいいとは思うけど、逆恨みされないだろうか。


「ね、ねえ、いいでしょ、いいでしょ?」


 沼田はどんどんこちらに顔を近づけていく。

 うん、逆恨みされたらその時に考えよう。


「アンタ気持ち悪いから、お断り」


 きっぱり断ったら、なぜか沼田は信じられないと言わんばかりに鼻を膨らます。


「え? え? 何言ってるの?」


 さらに、フガフガ言いながらこちらに聞き返してくる。一度言っただけではわからないらしい。


「だから、アンタって気持ち悪いの。少なくとも私にとっては。だからアンタと一緒にご飯食べるのなんて願い下げ。わかった?」


 もう少し具体的に言ってやったら、今度は鼻水を垂らし始めた。


「そ、そんな……」


『ズッ、ズビビッ!』

 そんな音を立てながら、沼田は鼻水を啜り、素手でぬぐう。この男の中には、身だしなみという言葉が存在しないのだろうか。


「ちょっと黛さん、いくらなんでも可哀そうじゃない?」


 その時、私に声をかけてきたのはクラスメイトの女子だった。確か名前は……竹林たけばやしと言ったか。分厚いメガネをかけた、見るからに優等生といった風貌で、何かと口うるさい。

 だが一番気に入らないのは、綺麗ごとばかり言ってそれを周囲に押し付ける所だ。綺麗な自分に酔っている所だ。だから言ってやった。


「そんなに言うなら、竹林さんが沼田くんと一緒に食べればいいじゃない」

「私は友達と一緒に食べるもん。黛さんはどうせ一人なんだから、一緒に食べてあげなさいよ」


 すると、先日私の机にボンドをかけた女子グループが、そうだそうだと囃し立てる。竹林の言葉に乗っかり、私を苦しめようという魂胆だろう。

 もう一度沼田を見てみる。ニキビだらけの顔は、所々黒く変色し、よく見たら黄色い脂が漏れ出ていた。

 無理、絶対無理。しかしこのままでは多勢に無勢だ。どうしたものか。


「ねえ沼田くん、ちょっと話があるんだけど」


 そこに現れたのは、意外な人物だった。


「……横井さん?」

「は、あ、え? 僕? う、うん、わかった!」


 女子からの申し出に鼻を膨らませながら応じた沼田は、横井と一緒に教室を出て行った。


 ……助かった、のかな? まあ、この場は逃れたのだからいいとしよう。


 しかし、異変はすぐに起きた。




「ね、ねえ黛さん、一緒に帰ろう?」

「ま、黛さん、家はこっち?」

「黛さん、黛さん」


 沼田が私の行く先々で現れ始めたのだ。

 どういうことだろう、私はきっぱりと断ったのに、こいつはそれを理解していないのだろうか。

 どうしよう、教師に相談しようか? でも、教師たちは今までの行いのせいで私を敬遠している。下手をしたら沼田の肩を持つかもしれない。

 かと言って、このまま手をこまねいていたら沼田のせいでノイローゼになりそうだ。

 そもそもどういうことだろう、何で沼田は私を追い掛け回すのだろうか。

 考えられるのは……


 …………


 そうか、そういうことか。

 全く、どうしてこうも、面倒なトラブルに巻き込まれるのだろう。私はそういう体質なのだろうか。



 ともかく、私は明日ある人物と接触を試みることにした。



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