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第二話 ボンド


 横井さん騒動から一週間が過ぎた。

 その日の朝、私はいつも通り教室に入る。そこには……


「……」


 ボンドでベタベタになった私の机と椅子があった。


「……」


 どうやら、一週間前の報復を今更やってきたようだ。こんなことはやられてからすぐやらないと意味がないのに。

 私は件のグループの方を見る。こちらを見て、嘲るように笑っている。


「……」


 別に腹は立たなかったが、とりあえず私は無言で女子グループに近づいて行った。


「なあに、黛さん?」

「ちょっと、あの机なら私たちが来たときにはもうああなっていたからね。変な疑い向けるの止めてよ」


 ……ここまでテンプレートないじめっ子の台詞をよくもまあ吐けるものだ。恥ずかしくないのだろうか。

 しかし、そんなことは関係ない。とりあえず行動を起こそう。


「……え?」


 私は授業で使うはずだった墨汁のボトルを鞄から取り出して蓋を開け……


「……きゃあああああ!」


 女子グループの全体にまんべんなく墨汁を振りかけた。


「ちょっと、何するのよ! 私たちじゃないって言っているでしょ!」

「そうよ! こんなのひどすぎるわ! 私たちがやったって証拠あるの!?」


 あくまでしらを切るつもりだ。


「証拠なんてないよ」


 まあ、そんなことは私には関係ないが。


「私はあんたたちが気に入らない。だからやった。私の机をああした犯人かどうかなんて、どうでもいい」

「何よそれ!? あんたおかしいんじゃないの!?」

「そうよ! こんなことして先生が黙ってると思っているの!?」


 自分たちは他人の机をボンドまみれにしたのを忘れているのだろうか。いや、本当に忘れているのだろう。彼女たちにとって重要なのは、『自分が被害者である』という事実。それだけ。

 そもそも、いじめとはそういうものなのだ。いじめっ子は自分を被害者に仕立て上げて相手に罪悪感を抱かせ、いじめられっ子に反撃されないようにする。今回の場合も、『自分たちは証拠も無いのに疑われている被害者』の地位を築こうとしたのだろう。

 だが、そんなことは関係ない。私は彼女たちがやってようとやってなかろうと彼女たちを攻撃する。まあ、十中八九彼女たちが犯人だろうが、そうじゃなくても攻撃する。


 何事にも興味が無く、何者にも興味が無い私にはそれが出来る。今の私に守るものなど無いのだから。


 その時、騒ぎを聞きつけた男性教師が教室に入ってくる。


「どうした!?」

「聞いてください! 私たちは何もしていないのに、黛さんがいきなり墨汁をかけてきたんです!」

「なに!? そうなのか黛!?」

「……」


 彼女たちは『被害者』の地位を手に入れることには徹底している。『自分たちは何も悪くない』という事実を真っ先に他人に伝える。そうなると、こちらの潔白を証明するのは難しい。

 ならば、私は逆の行動をとることにした。


「そうですよ」


 あっさりと犯行を認めた私に、教師も、女子グループも目を丸くした。どうやら予想していなかった言動のようだ。


「な、なんでそんなことをしたんだ!?」

「私はこの人たちが気に入らないからです」

「そんな理由でこんなことをしていいと思っているのか!?」

「いいえ。ですが、私の机を見てください」


 男性教師はボンドまみれの私の机を見て、合点がいったようだ。


「あれをやったのが、この子たちだっていうのか? 証拠はあるのか?」

「ありません」

「だったら、これはやりすぎだろう!」

「そうかもしれません。ですがこの場で宣言します。もしこの先、また私の持ち物や私自身に異変が起こるようであれば、その度にこの人たちを攻撃します。この人たちが犯人かどうかなんて関係なく攻撃します。もし先生がそれを阻止したいのであれば、死に物狂いで私を守ってください。そうすれば私も何もしません」


 唖然とする教師たちを尻目に、私は代わりの机と椅子を取りに教室を出た。



 さらに一週間後。

 

 私へのいたずらはあれ以来一度も無かった。件の女子グループも、私とは距離を取っている。まあ距離を取っているのはあの女子だけでなくクラスメイトの大多数がそうだが。

 無理もない。あそこまで派手な行動を起こせば、誰も関わりたくなくなるだろう。でも私にはどうでもよかった。そんなクラスメイトたちと仲良くなろうとする気も起きなかった。

 しかし、異変はあった。何やら噂を聞きつけた妙な男子が、私に近づいてきたのだ。


「ま、黛さん。あの、僕と一緒にご飯食べない?」


 脂ぎった髪に、ニキビだらけの顔。鼻毛が出て、小太り。異様なまでに細い目。


 確か名前は……沼田充ぬまた みつると言ったか。




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