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僕とフレンズの生活  作者: 西園良
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第3話

放課後の学校。僕は廊下を歩いていた。浅子に先に帰るようにお願いしていたので、僕は考え事をしながら、一人で歩くことができる。何故そんなことをしたかというと、山口さんの話が思ったよりも僕にとっては深刻だったので、じっくり思考をしたかったのだ。まあ、山口さんの考えに感動したりもしているのだが。



「家庭教師の条件は分かったわ。でも、難しくてどうしようか悩んでるの」

山口さんはそう言って、一旦話を区切った。僕としては、予想通りなので、早く具体的に言って欲しい。僕の願いが通じたのかどうか知らないけど、彼女は話を続行させる。

「貴方や桃井さんと友達になればいいのだけど、この状態で友人同士になったところで、打算的だと思われるわ。そんなの気分が良くないわ」

山口さんの話が終了したようだ。なるほど、彼女の気持ちは分かる。打算というのは、この場合友達のふりをしていると思われるということか。たとえ、本当に友達同士になったとしても、そう見なされるのは、山口さんもその相手もいい心持ちにならない。それにしても、山口さんは真面目だなあ。僕がそのように思っていると、彼女はじっと僕の顔を見つめていた。何か思いつかないのか、と言わんばかりにだ。

「ごめん、僕も思いつかないよ」

僕は正直に言った。山口さんはがっかりしたように、ため息を吐いた。期待に添えられなくて、申し訳なく感じた。そんな彼女を励ます意味も込めて、何か考えておくことを僕は話した。彼女は勝算の有無を不安そうに問うてきたけど、僕は自信満々に有ると断言した。

「頼りにしていいのかしら?」

山口さんがすがるような目で確認してきた。僕は再び自信ありげに断言した。彼女は僕を信じたようで、花が開くような笑顔で納得してお昼を食べる。その表情に一瞬見とれてしまったが、これからどうするべきかを考えたら、憂鬱になってしまいそうだった。



安請け合いをしたのは失敗だったのではと早くも後悔しそうだ。いや、自業自得といえばそれまでなんだけどね。内心で弁解しつつ、悩んでいると、一人の女生徒とすれ違った。

「あれ? 高本くん? 何かお悩み?」

聞き覚えのある人の声を耳にしたので、そちらを向くと、水上さんが心配している顔で僕を見ていた。

「こ、こんにちは、水上さん」

「うん、こんにちは」

若干緊張した声で挨拶をする僕に、水上さんはにっこりとした表情で返してくれた。相変わらず彼女の動作は一つ一つが美しい。しかも、浅子がいないから、気を遣う必要もないことが、なお嬉しい。別に浅子を邪魔者扱いしているつもりはないけど、あの視線を直に受ける身としては、やっぱり疲れるんだよ。

僕がうだうだ考えながら、見とれていると、水上さんは再度心配している顔をした。そういえば、何か悩みがあるかどうかを尋ねられていたっけ? うーん、どうしようかな・・・。事情を知らない彼女を巻き込んでいいのだろうか。しかも、水上さんは忙しいだろうし。

僕が話すべきか悩んでいるのを察しているのだろう。彼女は目で早く言ってみて、と言っているからね。まあ、話すだけ話してみようか。協力はしてくれなくても、何か今の状況を打開する案を出してくれるかもしれない。少なくとも、悩みを吐露するだけで気は楽になるだろうし。聞くほうには迷惑かもだけど、水上さんはそれを被ってくれるみたいだし、彼女のお言葉に甘えさせてもらおう。

そういうわけで、山口さんの家庭教師の件を要約して話すことにした。

それを静かに聞いていた水上さんは僕が話し終えるのと同時に、深刻そうな表情で黙っていた。恐らく、彼女でも解決しにくい難題なんだろう。けど、僕の予想は違った。水上さんが躊躇しながらもアドバイスをくれたからだ。

「家庭教師云々をとりあえず、考えないようにして、時間をかけて友達になったらどうかしら? 友情がなりたってしばらくしたら、家庭教師の件を思い出すかもしれないよね? それでも、桃井さんのお母様が認めなかったら、また試行錯誤してみればいいんじゃないかしら」

水上さんにしては、運任せな作戦だった。まあ、だから躊躇ったんだろうが。僕が反応しないせいか、彼女は不安そうな目で見つめてくる。くっ! その目も反則だ! 可愛い。

しかし、これ以上水上さんを不安がらせるわけにはいかないので、僕は参考にさせてもらう旨を伝える。彼女はほっとしたようで、すぐに微笑んだ。

「ねえ、仕事手伝って頂けない?」

そして、そのような頼みごとをしてきた。僕は嫌だなあと思った。いくら水上さんの頼みとはいえ、そんな面倒なことを引き受けたくない。というか何でそんなことをお願いしてくるのだろうか。素人の僕に頼むのもおかしいし、他のメンバーもいるのに。どういうことなのかな? 僕は疑義を簡潔にまとめて彼女に尋ねた。すると、水上さんは憂鬱そうに答える。

「普段は副会長とか会計とか書記とかいるんだけどね、今日に限ってどうしてかみんないないのよ」

なるほど、それは分かった。けど、素人に頼んだところで意味はないのでは? 僕の心のうちの疑問に答えるように、専門的なものは頼まず、雑用だけお願いしたいのよ、と彼女は言った。本当なのかな。僕は疑ったが、水上さんがそんな嘘を吐くとは、考えにくかったので、即座に彼女を信じて依頼を受けることにした。

水上さんは感謝の言葉を述べた。そして、今からでも大丈夫かどうかを控えめに問うてきたので、僕は大丈夫であることを告げた。彼女はそれを聞いて、自分についてくるように指示して、先に歩き出す。僕は遅れないように水上さんの隣に並んだ。 そういうわけで、僕たちは生徒会室に向かうことになった。

ちなみに、途中で水上さん自身に家庭教師をして欲しいと頼んでみた。

「色々忙しいからできないわ。ごめんね」 これが、彼女の答えだった。



生徒会室。それはどういったものを想像できるだろうか。ホワイトボード。山のように積み上がった机の上のプリント。パイプ等。僕の偏見かもしれないけど、一般の生徒会といえば、そんなものじゃないかな? そして、この生徒会室も大体同じだった。ただ、違うところと言えば・・・。

「水上さん、足の踏み場もないくらいプリントが散らばってるんですけど」

そう、プリントが机だけじゃなくて、床にまで散乱しているんだ。いくら人がいないからって、こんなに散らばるものなのかな? 彼女は靴を脱いで、靴下をはいた足だけで、部屋を歩き出す。僕も彼女に倣って、靴を脱いで、彼女が入れた靴箱にそれを入れて、入ることにした。

「滑らないように気をつけてね」

水上さんはそのように注意した。さっそく僕はずるっと滑ってしまったけど、幸いこけることはなかった。彼女がパソコンが置かれている机に座ると、隣に座るように勧めてきた。僕はお言葉に甘えることにした。なんとかこけないように進んで、ようやく目的の場所につくことができた。雪山でスキーをやっている気分だ。むろん登る方のやつだが。

「ごめんなさい。いつもは机の上だけなんだけどね」

水上さんが、申し訳なさそうに謝る。僕は本心から、いえいえ、と言っておいた。彼女が率いる生徒会がこんなにだらしないわけないもんね。まあ、普通の生徒会もそうだけど。

とりあえず、これからどうすべきかを聞いてみた。すると、散らばっている書類の整理を頼まれた。区別がつかないと困惑した声色で僕が尋ねると、要所で教えてあげるから、1人で頑張ってみてと言われた。あまりできる自信がなかったけど、一度引き受けた依頼を投げ出したくはなかった。だから、僕は緊張しながらも、プリントを拾い始めた。



「どう?」

途中まで書いた小説を浅子に読んでもらっている。彼女の表情は動かず、目だけで文字を追っている。面白くないのかな? 不安が心の中を支配して、それに押し潰される寸前に、彼女は静かに原稿の束を置いた。浅子がゆっくりと僕の目を見て、口を開く。

「ダメだね」

あっさりと言った。やっぱりそうか。面白くなさそうだったもんね。

「色々駄目だけど、一つ言っとくね。これ山口さん達に許可をもらったの?」

あ。すっかり忘れていた。構成とか文章力といった技術面にダメ出しされると身構えていたけど、法に抵触するか否かのところを批判された。まあ、技術面も駄目なんだろうけど。

僕の表情を見て悟った浅子は一つため息を吐いて言う。

「堅太くん、小説家になりたいんでしょ? なら、基本的なことを忘れちゃいけないよ」

「肝に銘じとくよ」

浅子に答え、僕は続きを書こうと新しい原稿を取りに行く。その前に許可を取りにいくことも忘れないことにするのである。


fin


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