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僕とフレンズの生活  作者: 西園良
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第一話

 それは唐突にやってきた。

「あんたの家って教師でしょ」

 同じクラスの『山口紗理奈』が僕にそういった。一瞬彼女の言っている意味が理解できなかったのだが、すぐに察することができた。

 クラスメイトの言葉の足りなさに内心で辟易しつつも、僕はおくびにもださないで答える。

「うん、僕の親は高校の教師だよ」

 むろん別の学校のだけど。こんなことは山口さんも分かっていることなので、補足しない。僕の返答を聞いた彼女は顔を少し綻ばせて、話し続ける。

「じゃあさ、あんたの母親に私の家庭教師になるのを頼んでよ」

「いや、先生なのは僕の父さんなんだけど・・・」

 山口さんは無視した。そんなことはどうでもいいと言わんばかりの表情だ。というか、高校の教師はそんなに暇じゃないんだけどな。そういう旨を口頭で伝えてみると、彼女はむっとした。

「まるで私の頼みが、お遊びみたいじゃない!」

「いや、そんなつもりじゃないよ」

 僕は興奮している馬を宥めるように、落ち着かせる。山口さんは僕の懸命さを汲み入れたのか、顔つきや音吐を戻した。

「それで、どうなのよ」

 彼女の催促に応えるように頷いてから、僕は黙って考えることにした。

 まあ、父さんは四六時中仕事をしているわけじゃないし、頼めば休みの日にでもやってくれるかもしれない。うーん、でもなぁ・・・。父さんにこんなことで手間をかけさせたくないんだよね。割と忙しい人だし。

「山口さんの家族の人たちは教えてくれないの?」

 父親のことを思考している最中に思ったことを尋ねる。それを耳にした彼女は悔しそうな口調で言う。

「私だってそうしたいよ。でも、父はあんまり家にいないし、母は学がそんなにない人だもん」

 そうだったんだ。山口さんと親しくはなかったから、家族構成を知らなかったよ。三人家族か。今の核家族の時代なら、普通のことかもね。僕は詳しく知らないけど。ちなみに、僕の家は妹を加えた四人家族だったりする。

「あれ、堅太と山口さん?」

 突然僕と山口さんを呼ぶ声が聞こえてきた。そちらに目を向けてみると、顔以外特筆するところがない美少女が立っていた。その顔は珍しいものを見たような表情になっていた。まあ、僕と山口さんが会話をすることがあまりないので、おかしくない。「二人で何の話をしてるの?」

 彼女は僕たちの方に寄って来ながら、そういう風に尋ねる。

 桃井浅子。僕のクラスメイトであり、小さい時からの幼なじみでもある。たまに昼食をおごってくれたり、勉強で分からないところを教えてくれたりする。僕だけじゃなく、他のクラスメイトとかにも親切にする優しい性格の女の子だ。

「いえ、高本君に用があったの」

「堅太に?」

 浅子の短い確認に、ええ、と頷く山口さん。浅子は少し気まずそうに頬を掻いた。さながら自分は邪魔なのかと言いたげな雰囲気を醸し出していようだった。

「浅子にも聞いて欲しいんだけど」

 そんな浅子に気にするなという意思を含ませたお願いを僕は口にした。そして、話していいかどうかを山口さんに確かめる。彼女は別に構わないと言った。

「浅子」

 邪魔者扱いされなかったことに安堵する浅子に呼びかけてから、僕はこれまでの話をかいつまんで喋った。彼女は口を挟みことなく、黙然と聞いていた。僕が話し終えると、浅子は不思議そうにきりだす。

「山口さんの両親じゃダメなの?」

 僕と同じような質問に、僕は心のうちで慌てた。山口さんにとって、あまり良くないことだからだ。恐る恐る彼女の方に視線を動かしてみたら、案の定山口さんは不愉快な表情になっていた。

 僕はどうしようか考えた。しかし、彼女自身が僕にした同様の説明を浅子にも行った。話している山口さんは莞爾として笑っていた。不快さを隠しているのか、もう気にしていないのかは僕に判断できなかった。なるほど、と納得する浅子に僕は問う。「おばさんなら大丈夫じゃないの?」

 そう、浅子のお母さんはそれなりの大学を出ていたはずだ。だから、聞いてみたのだが、浅子の様子はあんまり芳しくなかった。

「堅太の言う通りかもしれないけど、高校の内容なんて母さんは覚えてないんじゃないかな?」

 浅子は申し訳なさそうに呟いた。確かに彼女の言う通りかも。普通高校生の娘がいる親の年齢なら、覚えていない方が自然だろうし。

 僕と浅子のやりとりを静かに見ていた山口さんが、僕の顔を見て、僕の父親じゃないと駄目そうだわときっぱり告げた。

「あの、あたし役立たずだったかな?」

 僕はそんなことないよと山口さんにあてにされなずに落ち込む浅子に言って、穏やかに慰めた。僕は山口さんの要求にあまり応える気にならない。いや、要求そのものは構わないけど、比較的に多忙な父の手間をかけたくないというのは、変わらないからだ。

 そうだ。おばさんに山口さんの家庭教師ができるかどうか聞いてみよう。能力や都合、そして好き嫌いなどを確かめる意味で。

「山口さん、考える時間をくれないかな?」

 端的だが、お願いするように彼女に打診してみる。僕の提案に山口さんは考えるそぶりをしたけど、少し唇を緩めて承諾した。彼女はなるべく早く伝えるように告げてから、自分の席へ戻って行った。

「浅子、今日おばさんに会ってもいいか?」

 山口さんが戻るのを見届けていた浅子は、僕の提案にこっちを向いて驚いていた。いつも一緒に帰っているのに、そこまで驚くことかと疑問に思う僕だが、彼女はそうは思わないようで、えっ、と聞き返してきた。

「何かおかしなこといったかな、僕?」

 僕の質問に、浅子は珍しいから驚いたとちょっと嬉しそうに言った。たまに会っているような気がしたが、そこはいいか。返答を待つ僕にOKをだした浅子。それにより、おばさんの色々なことを確認できるようになったので、内心でガッツポーズを取った。おばさんと会うこと自体も楽しみだしね。

「じゃあ、今日の放課後に家に寄るということで」

 そのように言って、浅子は話を打ち切った。鼻歌を歌いつつ、席に戻る彼女を我が子を見守る父親のように見る僕であった。


 放課後になり僕と浅子が一緒に帰っていると、校門のところで友人とばったり会った。長髪ですらっとした美人の『水上明美みながみあきみ』さんだ。三年の先輩で生徒会長をしているすごい人。

「高本君に桃井さんじゃない。今帰るところかしら?」

 にっこりと微笑みながら聞く水上さん。相変わらず美しい。落ち着いていて愛想がいい上に頭もいいので、完璧な人だと断言していいのではないかといつも思ってしまう。そんな風に心で絶賛していると、心地が悪くなる視線を感じた。そちらを確認すると、浅子がじとっとした目で僕を見ていた。

 いつもかかるように水上さんを脳内で褒めていたら、浅子は何故かこんな様子を見せるのだ。前に理由を問うてみたのだが、答えるそぶりを見せなかった。しかも、決まっていつも不機嫌なのだ。まあ、言いたくなさそうなので、しつこく聞くことはなかったが。

「はい。水上さんはやっぱり会長としてのお仕事ですか?」

 とりあえず浅子のことは置いておいて、僕は水上さんと世間話をすることにした。「ええ、そうよ」

 彼女は嫌な様子がなさそうに肯定する。生徒会の仕事は大変そうなのに、それを顔や空気に出さないのがやっぱりすごい。本当に苦痛を感じてすらいないかもしれないけど、どちらにせよ尊敬できる。

「頑張ってくださいね」

 そんな方のために僕はエールを送る。まあ、僕に応援されなくても彼女なら問題なく仕事をこなせるだろうけど。水上さんは一言お礼を言った。そして、僕と浅子に別れの挨拶をして、優雅に去って行った。

「行こっか」

 浅子が僕を促す。機嫌が戻っている彼女に心の中で安心しつつ、僕は頷いた。僕たちは目的の場所に向かって歩き出すのであった。



 浅子の家の前に到着。正確にはおばさんの家なのだが、どうでもいいことだ。家の外装は何の変哲もない一個建ての家だ。もちろん内装も同様に普通である。ここ最近でいきなり内装が大幅に変化するなんてことは、常識的に考えてないからね。

 浅子が自宅の鍵を取り出すと、そのままドアについている鍵穴に差し込んだ。そして鍵を捻ると解錠する音が聞こえた。彼女は鍵を仕舞い、玄関の扉を開けた。浅子が僕に入るよう勧めてくれたので、お言葉に甘えることにする。

「お邪魔します」

 定番の挨拶をして、浅子の家に入ると共に、奥から妙齢の女性がやってきた。浅子のお母さんである妙子さんだ。僕の顔を見た彼女はにこりと笑った。

「堅太君じゃない。いらっしゃい。」

 おばさんがそういってから、隣にいる浅子に遊んでいなさいと言った。浅子が了解すると、おばさんが僕にゆっくりしていってと告げて、奥へ戻った。うーん、おばさんに用件を述べたかったんだけど、どうしよう。

 僕の考えていることを読み取ったのか、浅子が晩御飯を食べて帰るかどうかを尋ねてきた。夕食時の食卓で聞けということなのか。まあ、純粋な厚意かもしれないけど。とりあえず、ここでご相伴に預かりたいのだが、家族に連絡をしなきゃいけない。僕の母さんの料理が無駄になってしまうからね。



 浅子の部屋に上がった僕はさっそく妹に夕食の件でメールを送る。すると、すぐに電話がなり始めた。メールで返せばいいことなのにな・・・。浅子に一言断ってから携帯に出る。

『お兄ちゃん、またなの!』

 耳にあてたと同時に大音声で妹の怒声が流れてきた。こいつ浅子の家で夕食を取ることになると、いつもこうなんだよな。もう高校生なんだから、いい加減兄離れをしてほしいよ。ちなみに、妹とは同じ高校に通っていたりする。まあ、頻繁に会うわけじゃないけど。

「友子、大声をだすな。頭に響く」

『そんなことどうでもいいから! また浅子さん家で晩ごはん食べるの!?』

「ああ、そうだよ。いいじゃない、たまには」

『良くないよ! あたしが寂しいもん!』 やっぱりか。自分勝手だけど、こいつの交友関係が心配になるね。友達と外で食べるという経験をしたことがない妹だから。これに関してもどうにかしないといけないのだが、今は置いておこう。

 しばらく不毛なやり取りをして、半ば強制的に妹に承諾させ、両親に伝えるように命じてから電話をきった。黙って見ていた浅子が、OKだったのかを聞いてくる。妹に悪意があって、父さんや母さんに言わない可能性もなきにしもあらずだが、妹が今まで一度もそういうのをしたことがなかったので、ほぼ大丈夫だろう。なんだかんだで僕はあいつを信用しているしね。

 したがって、許可をもらったと話すと、浅子はホッとするのと同時に、僕が晩ごはんを食べることを喜んだ。ちなみに、浅子と僕の妹の仲は良かったりする。学校でも話す機会があるし、浅子が僕の家へ遊びにくることがあるからだ。ただ、今回のような時には、お互い犬猿の仲になったりするけど。

 それから、夕食が出来るまで僕と浅子は話したりした。


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