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06 魔法文明の開花と神の降臨

 いやー長かった。本当長かった。やっと俺も見習いの字が取れて、晴れて神様となれた。これであの先輩の監督下からも外れ、小言とげんこつを食らう回数が激減するだろう。

 そして何より、好き勝手に世界を扱える権限がきた。まだガンガン使える訳では無いが、俺の創造主としての才能が他の神々に分かれば、段々と色々出来るようになる。


 まぁ、なんにせよ、本格的に楽しんで天地創造が出来るようになってきた訳だ。




「まずは何にしよっかなぁ〜」

 鼻歌交じりに様々な世界や伝承、物語、テクノロジーについて思いを馳せた。指をぐるぐる回して、今回の世界の舞台となる星を作りながら、鼻歌を続ける。

 なんの歌だったか忘れたが、小さい時から楽しい時によく口ずさんでいた歌だ。歌詞もろくに覚えなかったから、今に至るまでずっと鼻歌である。


「うーっし、基礎的な古代文明ばっかで飽きてきたから、魔法いくか」

 星は中の環境を充実させるために小ぶりにしてみる。大陸を幾つか作り、豊かな自然や荒れ果てた地域と変化の多めな環境にした。動植物は基本的な物を揃え、最後に人間は魔法が使えるように能力をいじる。



 科学では、原子だとか素粒子だとか呼ばれる世界を構成するものを観測したり、導いた科学式から合成したりするが、魔法文明はこういったもの達を人間個人の力で動かしたりする事が出来る。

 空中や地中など至る所にあるそれらの力に、人間の意思を伝える。それによって元々意思を持たず、性質だけのそれらは目的を与えられ、背中を押される事で物質や現象へと姿を変えていく。

 方法としては呪文だとか、手足を使ってそれらに触れて意思を伝えるとか。伝えやすくする媒介に道具を使ったり使わなかったり……まぁ、色々だ!どんな風なものを使うかはそこの人間次第って事で!



 今回は自然のエネルギーを主力としよう。無闇に神として呼び出されるのは面倒だし。魔物だとかの召喚系は無しで。

「さーて、しばらくは遊び倒すかな〜」

 俺は鼻歌を止めず天地創造の仕上げに入った。





 目の前の村は夕方近くで、家々からは夕食の香りが漂っていた。暗くなるのと同じく、一軒また一軒と家に灯りが灯っていく。

 この世界では魔法というものは日常動作のひとつである。全く水に浮けないカナヅチが居るように、時々全く魔法の才能が無い人間も居るが、十歳を過ぎた頃になれば、大抵の人間は簡単なもが一つ二つ出来るだろう。



 今、真下に見える家では子供達が練習がてら、行灯のような物に火を灯すよう頑張っている。

「炎よ、炎よ、我に僅かな温かみを授けたまえ」

 手をかざしながら、油に浸かった灯心に集中する、が、なにも起こらない。

「どいてどいて、次は僕!」

 兄弟が割り込んで来きた。押し出された子供は尻もちをついて、頬を膨らませながらそれを眺める。でも、やっぱり明かりは点かないようだ。


 奥では母親が料理をしている。石造りの釜からは、温かいスープの湯気が立ち上り、香ばしい肉の焼ける匂いが辺りを漂っていた。

「炎よ炎」

 そう呟くだけでランタンに火が着いた。暗くなってきたキッチンに、そのランタンを壁にかけて明かりをとる。

「ほら、早く灯りを着けないと真っ暗になっちまうよ〜」

 母親に急かされ、子ども達は全員で手をかざして言葉を紡ぐ。途端、ボッと小さな音がして火が灯った。

「僕が出来た!」「私だよ!」「違うよ!みんなずるーい!」

 がやがやと騒がしい声が部屋に溢れた。「火の近くで危ないでしょ!」と母親に怒られながら、笑い声と美味しそうな夕食が出来上がる音が小さな火を揺らした。


 


「そうそう、今回はこーゆーの見たかったんだよなぁ。始めて魔法能力を授けたが、俺ってば、やっぱ調整能力高いな〜」

 俺はとりあえず出だしを見て、上々と思って頷いていた。


 各地を見ても、それぞれ地域ごとに特色があって面白い。しかしまだ、自然に向かって呼びかけると現象が起こる。くらいの認識でしかない。さーて、どこまで理解するかなぁ?

 俺は今後を楽しみに、時間の速度を上げていった。




 さて、しばらくするとこの日常動作の魔法は重要視されていき、学問の一つとして研究されるようになる。効果的な言葉、言葉の違いによる効果の違い。まだまだ表面的な事ばかりだが、ここらで奴らはある事に気がついてゆく。


 部屋の中の密閉された空間で空中に炎を起こし続けていると、なぜか室内に水滴が発生しており突然呪文が効かなくなった。

 単に室内の水素が全て水になってしまっただけなのだが、その場で奴らには理解出来なかった様だ。

 そして扉を開け、風が入ってくると効かなくなった呪文の効果が現れた。これによって、炎を出すには炎に語りかけるのでは無く、風、空気、といった物に意思を伝える必要もある。

 という事が分かったのだ。


 その辺を封切りに、魔法文明は更に発展していった。




 その後、各国は強力な魔法での軍を次々作り戦乱の世となった。その中でも一番大きな大陸を二分する王国の争いは激化する。

 炎の壁が全線の歩兵の行く手を立ち塞ぎ、何千という雷や氷の矢が雨のように降り注ぐ中駆ける騎馬兵隊、戦地、一面に漂う血と炎の焼ける匂い………生きようともがき、勝利を掴もうとする人間達!!



 これこれこれ!!魔法文明の戦争っつたらこんな感じだよね!!これは、勝った国の前に俺がカッコ良く降臨して、勝利の神としてこの大陸に俺教を起こす絶好の機会じゃね!?


 折角だから、ここは派手に登場しよう………そうだな…………戦いの神っぽく強く勇ましく…………あ!なんか乗り物創るか!あれにしよう!あれ!前に見た他の神話資料にあったやつ!

 いい事を思いついた俺は、早速俺の乗り物を創る事にした。なに、俺にかかればあっという間に本物と同じ、いやそれ以上の素晴らしいものを創れるのだ。




 さて、勝敗がそろそろ決まりそうだ。降臨の準備にとりかかろう。


 まずは、髪は神としての俺のイメージカラーである赤に変えた。

 みるみるうちに、漆黒の髪は燃え盛るような赤色に変わる。前髪を後ろにかき上げて、服を代える。

 赤が映える色と言ったら白だろう!

 黒の影のある雰囲気も捨て難いが、俺は天地創造の創造主である。これは神々しいまでの輝きを魅せる必要がある。凛々しさを感じられるシャープなデザイン。しかし、気品溢れる装飾が、過度ではなく、俺を引き立たせるアクセントになっている。

 分かりやすく強いて言えば、どっかの軍服の様な感じが近いだろう。

 俺はさっき創り出した自信作。あの北欧神話、最高神オーディンの愛馬スレイプニルを再現した愛馬に跨がり、シンボルである炎を纏いながら降臨の一歩を踏み出した。





 眼下ではたった今勝利を成し遂げた国王が、敵国の王の首を掲げ勝利の宣言を行っている。


「王国万歳!!帝国からの解放の時!大陸の平和は約束された!!」

『王国万歳!!国王万歳!!』


 よしよし、いい感じに盛り上がってるじゃねぇか。俺は登場の合図に、天にも届くほどの火柱をあげていく。その神々しい炎が大地を揺さぶる衝撃に、驚きに満ちた顔が何万とこちらを向く。

 その火柱の中から、俺はこの世界へと降臨したのだ。



「先の戦い、見事なものであった。この勝利と天地の創造主である我に、お前達は認めら……


 ズバンッ!!


 堂々と天の声を上げる俺に、巨大な水の柱がかかった。


「ほ……炎の中から巨人が!!!なんだあの馬は!?!?足が八本もあるなんて、なんて禍々しい……魔神だ!!あれは闇からの使いに違いない!!追い払え!!!!」


 国王の言葉が終わる前に、俺に大量の水と氷魔法が浴びせられ………。

 あれ?俺、自己紹介してるよね?


「止めろ!我は天地の創造主であっぶぶふっ!!!」

 顔面に水柱が直撃し……でぶふぁっ!?…………別に大して痛くはないが、この世界の要素で構成した今の俺の姿は、ダイレクトに攻撃を喰らい続けrごぼばっ!!!

 ……っはぁ……はぁ…………いや……えっと………ちょっと喋らせてくれよ……。



「顔だ!!!顔を狙え!!!」

 日々の訓練の成果は発揮され、魔法軍の水柱は的確に俺の顔面を集中砲火していく。


「ごほっ……うぇっ……鼻ぁ……」

 まずい、そろそろ時間切れになる。

「いいか、貴様らよぐっ……げはっ……覚えていろ!!この神への冒涜がはっ」


 まるでヒーロー物の敵役みたいなセリフですら全部話し切らないまま、また口から鼻にかけて放水された。

 水にむせ返ったまま、俺の降臨時間は終了した。






「はぁ、はぁ、はぁ……」

 肩で息をしながら、俺はこちらの世界に戻っている。水には濡れていないが、受けた感覚はそのまま伝わる仕組みだ。

 今の俺の体には水など一滴もついてないのに、鼻の奥がキーンっと痛い気がしてならない。


「くそっ……神をなんだと思って……」

 俺が世界を睨みつけて中の様子を見ると、俺は闇の使いの魔神でこの戦争を付け狙って現れた。という事になっている。俺に水をぶっかけたきた魔法軍は英雄扱いとなり、俺を倒すために共に戦った敵国の惨敗兵達も戦友として認められ、大陸は平和になってしまった。

 くっそおおおおおおおおっ。滅ぼしてぇぇぇぇぇぇぇ!!

 わなわなと怒りが高まった俺は、この世界の終末を……



「こらこら、それはやり過ぎだと思うがね」

 後ろからの温和なおっさんの声に、伸ばしていた手を止めた……この声は……先輩のさらに上、今の俺が日常的に話せる中では一番偉い神の声である。


「あ、あれー?どうしてこんな所に……いらっしゃりますか?」

 とても目撃されたくないものの一つを目撃して欲しくない相手に見られ、変な敬語が口から出る。

 ふくよかっていうか完全に中年太りな体型をしたおっさんは、いつものように笑顔で言葉をかける。

「君はいつも楽しそうでなによりだがね、その一手は、ちと早いな」

 そう言って、俺が終末を行なおうとしている右手を指差した。

「あ……あいやいや……台風が、台風が連続で発生して、まずいかなぁと思いましてね。いつもこんなミスしないんですけどぉー」


 そう言って、俺は大気をわしゃわしゃかき混ぜた。台風なんて勿論ない。


「なら良いんだが、ラッパは簡単には吹いてはいけないよ」

「はははー、大丈夫ですよ。ご心配なくー」

 俺は笑顔で左手を慎ましく振り、奴が去るのを見送った。



 まぁ、簡単に言えば、あのおっさんは俺の上司である。俺の神の称号を簡単に剥奪できる権限のある神である。

 見習いに戻るのは絶対嫌なんで、大人しく。大人し〜〜く……



 俺はさっきの大陸に、台風を五つ創ってやった。

次回7話の更新は、3月3日の深夜0時頃を予定しています。

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