04 生物の適応速度
「今日はどうするかなぁ」
先輩からの反省も認められてきて、今回は好きにやらせてくれるそうだ。
ここは先輩神様達からの俺の評価を上げるためにも、高評価な天地創造を行わなくてはならない。でないと、早いうちに見習いの字が取れないからな。
折角だから、得意分野で攻めた方が効率が良いだろう。
俺の得意な天地創造。それは物の調整である。
なんの調整かって言うと、世界の基盤である星の大きさや軌道なんてデカイものから、中の自然環境、動植物や人間の細かな見た目に能力など、創造した物を調節する事に俺は秀でているのだ。
美的なデザインセンスだって、他の先輩神様と比べても中々なもんなんだぜ?芸術の神としたらかなりのご利益があると自負している。
そんな特技があるなら使わない手は無い。今回の天地創造では様々な環境を生物に与えて、色んな発展や進化を追ってみよう。
なんて事を考えながら、俺は今回の世界に多様な環境を創造した。
険しい山、砂漠、荒野、沼地、穏やかな森、小さな川から大河、亜熱帯、寒冷地……。
四季も折々変化に富ませた。地形の配置を工夫して、気団や気流も複雑にし、台風、竜巻、雷雨、スコール、雪に雹。
火山の活動周期やプレートの動きによる地震の頻度、更に温暖、氷河期等々、ありとあらゆる自然現象が起こるよう世界を創造したのだった。
そうして出来上がった世界に、俺は人間や動物達を生み出した。生き物は今回なるべくシンプルに。環境でどんな風に進化するのか楽しみだしな。
さてさて。どんな風に育っていくかな〜?
しばらく眺め人類の文明が発展してくると、俺はこの前ほんの少しだけ使える様になった力を使い、権力者の夢にて声をかけてみた。そこで、神である俺の存在と俺教について民衆に広め伝えるよう指示を出してみたのだ。勿論、俺の目的だって忘れらんない。
上から眺めれば、雲の流れからもうすぐ嵐が来る。なんてすぐに分かる。俺は天気予報くらいから神の予言を与えて、人間達に俺の凄さを思い知らせてやるのだ。こいつらはまだ、空を見ても明確な判断が出来るほどの文明を持っていないしな。
勿論、自然災害を予言する俺の言葉は絶大な効果を人間に与えた。
初めは信じようとしない権力者も、予言通りに災害が起こると掌を返した様に俺の言葉に従う様になったのだ。
いやぁー!俺ってば神様の素質ありまくりじゃん!!
本当、見習いなんてやってないで早く神様なって、もっと大々的に姿を現したり、天啓とか聖痕とか色々したいものだ。
この調子なら全世界に俺教を普及させるのも、簡単に出来てしまうな!
俺は代々の権力者の夢に声をかけ、俺の支配を続けてみた。
丁度、声をかけた国は勢いがあり、多くの国を飲み込み巨大なものとなっている。その分、俺教の信者はうなぎ登りに増える増える。
信者達は権力者の夢に現れるという俺の声を常に待っており、自分たちを災害などの厄から護ってくれると信じていた。
「ハッハッハッ!愉快愉快!!見習いなんて身分、勿体無いなぁ〜!我ながら!!」
これはしばらく放っておいて、俺教の普及を見ておこう。あまり予言を与えては有り難みが無い。窮地を救ってこそ、奇跡となるのだ。うむうむ。我ながら良い事を言うな!
笑い疲れた俺は、時間の速度を早めて、欠伸をひとつしたのだった。
ふと気が付くと、うたた寝をしていた。
そろそろ、神の予言でも出してやろうなかぁ。とか思いながら世界を覗くと、そこには何も無かった。
え??????
一面真っ白の大地である。
え?何が起きたんだ……?あれ?さっきまで俺を崇拝してた国は??
何事かと世界中を見て回ると、どこもかしこも一面銀世界にしか見えない。
ひょ……氷河期来るの忘れてたああああっ!!!!!
俺教の広がりに、当初の目的を忘れてた……様々な環境下……温暖・氷河期の巡りを激しくしておいたんだよ……。
先ほどまで俺を崇めていた人間達は、どこにも居ない。
そりゃそうだ。暖房器具ですら、まともな物を発明出来ない程度の文明だったからな。急激な温度変化に耐えられなかったんだろ。
寒さに強いはずの……寒冷地の植物でさえ枯れている。俺は予想以上にうたた寝に時間を費やしてしまった様だった。
やっと創り上げた夢の俺教の頓挫。神である自分ですら、衰退に巻き込まれてしまうとか……。
見ているだけで凍えてしまう世界を肩を落として眺めていると、先輩がやって来た。
「お!面白くなってるな!!」
なぜだか先輩はニコニコして俺と一緒に世界を覗き込んだ。
「え?真っ白っすよ……」
「あれだよ、あれ」
先輩が指差す方をよくよく見てみると、小さな虫が地中を掘り進んでいるのを発見できた。
「こんな極寒の地で生き延びるとは……やはり虫系は世代交代が早いから、適応進化も早いんだろう。今後は昆虫世界の発展。ってところだな!」
どうやら、珍しい種族は合格点のようである。
俺の多大なる苦労の成果は、虫ケラ一匹と交換されたのだった。