番外3 神の忘年会 前編
この話は真面目詐欺です。
前半真面目くさっているように見えて、中盤以降はいつもの酷い感じです。存分に主人公を笑ってください。
俺の勤めている存在子確率研究施設という研究所は、この世界を構成する『存在子』というエネルギー体の有意義な扱い方を研究し、俺達の世界の外にある存在子を使い、様々な他の世界を作り、文明や進化の可能性を模索する研究所である。
他の世界やその元になる存在子の溜まり場は、俺達の世界の外には無限にあるが、俺達の世界と全く同じ世界は無い。俺達が創り出した物でも、それは限りなく近くはあるが、完全に同じものは出来ないのだ。
全く同じ世界に行くには、時間旅行でもして俺達の世界の時間軸に行くしかない。
しかしこれは歴史を塗り替える行為であって、やってしまうとどっかの国や民族が滅亡したり、もしかしたら俺もこの世に生まれないまま。という危険を孕んでいて、そう簡単に行える代物ではない。時間の逆行は時間の加速以上に、俺達の世界の存在子を大量に使う事にもなり、現時点では世界でも特級クラスの重犯罪行為に当る。
歴史のifを探り、将来的に効果的な時間干渉が行えるよう研究する事も、存在子の確率研究の一つなのだ。
存在子は一つの塊として一定量しか集まらない為、実は時間軸でのパラレルワールドは存在しない。時間軸での分岐点毎に、繋がった世界が枝分かれしている可能性も論議された時期はあった。だけど、塊っている存在子の量が常に一定量である事で、そんな無限なものを作るには、一つの世界に集まる存在子の量が足りない。と分かった為だ。
だから時間旅行での歴史改変は上書き保存となり、将来的に行うようになるかは今だに議論が絶えない。その辺の判断材料としても、この基礎研究は必要不可欠なのである。
他の世界ってのは、実は元々宇宙なんかの形として存在してはいない。
存在子の溜まり場みたいな、エネルギーの強いところが俺達の世界の外には無限の数あって、その存在子を使って空間を創り上げるところから天地創造は開始する。
一度空間を創ったら、そこの存在子があらかた物質等に変換されるまで、何時ものように星を創ったり環境や動植物を創って観察研究に励むわけだ。物になった存在子を元のエネルギー体にも戻せるが、その世界の今後の様子を見るために、あまり元には戻さない。
創り方も、こちらの存在子を他世界に送りつけて、その世界の存在子へ干渉を行う。他世界に行ってしまった存在子は、一定量の法則に従って、量の増えた世界から、押し出される様に少しづつ戻ってくる。
この増加量があまりにも多く急激過ぎると、増加された世界の存在子が反動で吹き飛ぶ様に炸裂し、世界が崩壊する。崩壊した世界の存在子は一旦は散り散りになるが、時間が経つと元の様に一定量集まる性質があるため、初期のエネルギー体の溜まり場に戻る。
他世界への攻撃は主にこの増加による炸裂を狙っている。干渉の為使用した存在子の分だけ、こちらにもかなりの被害があるけどな。酷く使うと自分達の空間が無くなったりするし。増えたり崩壊した世界から徐々に戻ってはくるが、危ないので基本やらない。
本当なら天地創造した世界の物とか欲しいところだが、この一定量の法則と他世界物質の取り扱い規約の為、原則的に禁止されている。オタク文化のゲームとかエロ本とか、マジで欲しかった。少女を連れて帰りたいと思ったのは数え切れない。
って事で、創造の為の加工作業や俺が降臨する際のバーチャルダイブ等で、こちらの存在子を他世界に使うため、使用経費が必要になってくる訳だ。
天地創造が好き放題出来るようになるには、創造した世界で有用な新生物やその発生に至る経緯、新文明や文化、歴史改変の為の重要事項の発見なんかをして、世界の評価を上げ、経費を増やして貰わないといけない。
俺のように神様業として研究作業を行っている者、それを管理する上司、諸々雑務をやってくれる事務の方々。合わせてこの研究所には三十人程度の人間が働いている。
そして、本日はその三十人が一同に会しているのである。いわゆる忘年会である。
俺の目の前には先輩が座り、隣にいる事務の女性と楽しげに話している。俺は年上に興味が無いので、普通の仕事仲間の世間話とか程度に会話を交わしていた。この研究所では俺が一番の新入りで年下の為、俺の好みは残念ながら居ない。
先輩は中々ご機嫌な表情をしている。この人は酒に弱い方で、中ジョッキのビールを二杯も呑めば完全に出来上がってしまう。しかも、いつもの糞真面目な性格から一変して、ノリの良い大胆な感じになる。後先考えずに大きな声で歌いながら帰ったりして、翌日一緒に居た人間に様子を聞かされては落ち込む。しかし、記憶が無いのでつい繰り返す。
そんな先輩を見ながら、これを連れて帰るのはやっぱり俺なのだろうか?誰か先輩の近くに住んでる人居たっけ?
なんて考えている。すると俺達の上司、研究所所長であるあの腹の出たおっさんが袋を片手に一人づつ声をかけているのが見えた。一番端っこの席に座る俺達は必然的に最後の順番だった。
上司はいつものニコニコ顔で手を出して来る。そこには二本の長細い紙が握られていた。
「はい、これ引いてね」
「……なんすか?これ」
言われるがままに、俺はそのうちの一本を引き抜いた。先端には赤い印。
「?」
「じゃぁ、最後だね。ラストは何がくるかな?」
上司は先輩にも紙切れを引かせた。先輩は「ふぁい?」なんて呂律が回らない、間抜けな声を出しながら最後を引き抜いた。それは、真っ白い紙切れだった。
「お〜、二人とも当たりだね。じゃぁ、これからやる余興よろしくね。これ、台本だから」
なぜか、アナログな手法で印刷された紙っぺらを一枚づつ渡された俺達は、とりあえずそれに目を通した。
ーーーーーーーーーー
忘年会余興 即興寸劇
くじ引きにて配役を決定する。
配役に決まった者は以下の即興劇を余興時間に行うこと。
赤印:A 女性 以下女A
白印:B 男性 以下男B
設定
女Aと男Bは学生である。幼馴染の間柄であり、共に両想いである。
ストーリー
女Aが長年の想いを男Bに告白する。
↓
男Bはそれを熱烈にOKする。
↓
なんやかんやあって、デートの約束をとりつける。
↓
楽しくデートを過ごす。
↓
夜景の綺麗な場所でロマチックにキスを交わす。
END
ーーーーーーーーーー
俺はその紙を見ながら固まった。
「はい、これ着けてね」
そう言って渡された袋には、赤いカツラが入ってる。取り出してみると、ウェーブのかかったツインテールであった。
「君、赤色好きでしょ?あとそういう子供っぽい感じ?も好きって聞いて探したんだよねぇ。いやぁ、見つからなくて苦労したよ」
ふっざっけんなあああああああああああっっっ!!!!!
おい!これくじ引きとか言いながら、ぜってぇわざとだろ!!!!
周りを見ると、他の奴らは青いくじを持っていた。そして、俺のくじの赤印の少し上には僅かな切り込みがあった。先輩のくじは、なんかちぎれた跡が見て取れた。神は賽を投げない。畜生。
「じゃぁ、十分くらい打ち合わせしたら頼むよ」
「わはりまひた!」
先輩は完全に酔っていて、自分がこれから何をするか分かってない様だった。死ね。
「よひっ!ますろうするかぁ!!」
先輩は俺に、いつもの熱っ苦しい感じで言ってくるのだ。
「いやいや、マジでやるんすか……?」
俺がドン引きしていると、先輩は力強くカツラが入っていた袋を目の前に出して来た。嫌々受け取ると、袋の底に白っぽい布が入っているのに気が付く。つまみ上げてみると、レースたっぷりのフリルの付いたミニスカートだった。
………もう一回言う。死ね!!!!!!
「勿論、下脱いで履いてね」
そう、上司が笑顔で先手を打ってきた。
このクソデブ、俺の上司じゃなかったら、その脂肪にコンボ食らわしてやる。
俺が周りを睨みつけていると、上司を初めとして全員で俺の名前を手拍子付きでコールし始めた。今、神の能力が使えるなら、この酔っ払い達を全員葬っている。
「分かりましたよ!!やりゃーいいんでしょ!やりゃあ!!!」
完全にヤケクソだったのだ。
俺は宴会場の隅でこそこそとカツラとスカートを身に付けた。
俺だって男である。毛むくじゃらではないが、すね毛くらい普通に生えている。少し骨ばった、脂肪より筋肉の方がわずかに目立つ、毛の生えた足が白いフリフリのスカートから伸びている。下を向く視界の端には、赤色ツインテールが揺れている。
この準備を先輩は鼻歌なんぞ歌いながら待っていた。こいつは、明日には何も覚えていないのだ。忌々しくて、先輩に話しかけられる度に大きく舌打ちをしてやった。どうせ覚えていないなら、今のうちに散々悪態をついてやる。
「なんら、さっひから笑顔がないぞ〜」
へらへら笑いながら、俺の方をバシバシ叩いている。励ましているつもりか?この野郎。
「俺は先輩ほど馬鹿じゃないんですよ死ね」
睨みつけるが効果は全く無い。
「なにー。おまへに馬鹿と言われはくはないなー」
「えぇ、馬鹿と天才は紙一重と言いますからね、俺は天才であり馬鹿なんですよ死ね」
「なんらそのひね。ってのは、おまへのオタク文化にも変あ語尾があっらが、それは、かあいくないぞ」
「本当、先輩の今の喋り方ほどウザくないっすよ死ね」
「ウザいとあなんら」
「今の先輩ほど脳みそないキャラは、オタク漫画にもいませんからね死ね」
そんな感じに、俺達の打合せ時間十分は過ぎた。不毛だ。
先輩と俺は宴会場の真ん中に立たされた。わざわざテーブルを動かして、動けるスペースまで空けられる。女装姿で出てみれば何もする前から笑い声が会場から溢れてる始末だ。この先が思いやられる。
「じゃぁ、クランクインで!5.4.3.」
2.1.きゅー!
って感じに、ラストは手振りで指示を出す上司を見ながら、俺の苦行は開始されたのだった。
背の高い青いクジ沢山と短い赤いクジを2本用意します。他の職員には長いクジを引けとだけ伝言があります。
主人公達は端っこの席に周りから誘導されて、1番最後に引きます。彼らの目の前に来た時は、青いクジはみんな引き抜かれているので、赤クジと青クジの身長差には気付きにくいでしょう。主人公達の隣の席に座る方に引かせる時は、それとなく背中を向けたり、人や荷物、手でクジを見えづらく出来れば完璧でしょう。
最初にシラフ率が高い主人公に普通に引かせます。するりと赤いクジが抜けます。確実に酔っている先輩には、クジの末端を指で押さえ付けた状態で引かせます。赤印の上には薄い切込みがあるので、そこからちぎれます。柔らかくて、切れた時に抵抗感の少ない紙ならなお良しです。最初に先輩にちぎらせると、主人公が引いた時にちぎれた破片が一緒に出てくる恐れがあります。気をつけましょう。
これが、神様の賽の投げ方です。




