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番外2 姉貴の決心 後編

 おねえちゃんが、きょう、おこった。

 いつもは、ようちえんおわると、ぎゅってしてくれるのに、きょうはしてくれなかった。

「あんたは今のままじゃ駄目。私がいなくても、平気になるの」

 っていってた。

 おねえちゃんが、いなくなるのはいやだ。ってないた。

「泣いても駄目」

 っていった。おねえちゃんが、すごくこわかった。



 やっぱり、おねえちゃんは、すごくこわいな。っておもった。

 きょうも、こわいことをいっていて、ぼくはすごくそわそわした。

 いやだな。っておもうことも、よくする。ぼくがだまっていると、

「ちゃんと、言いたいことを話すの」

 っていってきた。ぼくが、こわい。いやだ。ってたくさんいうと、おねえちゃんは、ぼくのあたまをなでてくれた。

 おねえちゃんは、こわいのか、やさしいのか、よくわからないや。



 きょうも、おねえちゃんは、こわいことをした。なんで、いやなことするの?ぼくのこときらいなの?ってきいた。

「多分、あんたは私の事、嫌いになった方がいいと思う」

 っていってた。おねえちゃんすきなのが、だめっていわれた。すごくかなしくて、たくさんないた。



 ようちえんのおともだちが、いうとこも、おねえちゃんはいってる。

 ぼくがないていると、

「ちゃんと、怒るの。なんでそんな事を言うのか、聞いてみるの」

 っていった。こわかったけど、がんばってきいたり、おこったりした。

 ぼくがおこったのに、おねえちゃんは、うれしそうにわらって、ぼくのあたまをなでた。

 おねえちゃんは、ぼくのこと、まだきらいじゃないのかな。っておもった。






 今日、小学校で一人でできたことを話したら、お姉ちゃんはたくさんほめてくれた。すごくうれしかったから、ぼくはもっとがんばろうって決めた。



 お姉ちゃんはやっぱり不安なことを言うけど、さい近は少し平気になってきた。

 学校の友だちにも、そういうことを言う友だちもいて、いやだな。って思うけど、そういうことを言ってしまう人もいるんだ。って思うことにしてみた。



 お姉ちゃんはさい近、ぼくにめいれいをする。

 ぼくがだまってそれをやっていると、

「本当にやりたいの?」

 って聞いてくる。

「やりたくない……」

 って答えると、

「じゃぁ、なんでやるの?」

 って聞いてきた。

 ………なんでなんだろう。



 今日、友だちにいじわるをされた。すごく悲しくて、くやしくてたくさん泣いてしまった。

 かえって来たお姉ちゃんが、久しぶりにずっとだきしめてくれた。温かくて、ねむくなって、ぼくはねてしまった。

 目が覚めたらお姉ちゃんがとなりにいた。さっきのことは、なんだか大丈夫な気がした。






 姉ちゃんは相変わらず命令してくる。逆らってみるけど、結局口だと勝てない。

 嫌々やっていると、姉ちゃんはとなりで満足げに笑っている。腹立つ。



 最近、友達と遊んでいる話しを姉ちゃんにすると、姉ちゃんはすごく楽しそうな顔をする。意外と俺は話し上手かもしれない。



 よく分からんが、姉ちゃんは威圧感があって怖い。と思うんだ。クラスの友達から

「お前のお姉さん、キレイで優しそうだよな!いつも笑顔だし!」

 とか言われるが。こいつ、目玉と脳みそ、おかしいんじゃねぇの?って思う。

 理由も無く、人に怖さを感じさせるってある意味才能だよな。






 今日、姉貴と喧嘩した。

 いつもは口で負けるから、力技なら勝てると思った。中学三年になった俺の身長だって大分伸びてきたし。力だったら男の俺の方が強いと思ったからだ。


「いつも命令ばっかして、人をなんだと思ってるんだよ!」

「楽しい人生への後払いよ」

 姉貴は別段悪気もない何時もの調子で応える。飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置いた。

 言葉の意味はよく分からないが、止める気が無いのは分かった。


「いい加減にしろよ!姉貴なんかより俺の方が強いんだからな!!」

「私と喧嘩したいの?」

 姉貴は余裕に微笑みながら、椅子から立ち上がった。


「そ……そうだよ!かかってこいよ!!」

 女を殴るってのはカッコ悪いとは思うが、権力への抵抗だ。年が上だからってこき使うのは許せん。


「愚弟からいらっしゃい。ハンデね」

 姉貴は棒立ちで言った。なめてるとしか思えない。

「ふっざけんっ……!」

 俺は言葉が終わるのを待たずに拳を振り上げる。瞬間、景色が反転していた。


「え……?」

 理解が追いつかないが、俺は床に倒れていた。姉貴は相変わらず立ったままだ。

「まだ、当たってないわよ?もう一回先制する?」

 怒りがふつふつと沸き、それに任せて俺は立ち上がって殴りかかったが、その拳が姉貴に届くことは最後まで無かったのだ。


 五回目の転倒で、やっと俺は冷静に姉貴の行動が分かってきた。

 仕組みは分からないが、俺の行動が読まれているらしい。俺が殴りかかろうと動き出すと同時に、姉貴は俺の体に触るのだ。拳、肩、膝、爪先……。

 殴っている訳ではない。痛みもない。ただ軽く触れるだけで、俺はバランスを崩して自分の勢いで倒れてしまう。


「なんの、マジックだよ……」

 姉貴は体に手を加えるのがあまり好きではない。死んだ母親の為らしい。だから、身体強化をする処置をしてはいないはず。なんだが……なぜか俺は負けている。

「マジックではないわ。見えるだけね」

 警戒してファイティングポーズをとると

「次は右足で蹴るのかしら?」

 と言ってきた。なんで当たるんだ。意味が解らねぇ……。

 そして、左足を持ち上げる前に右足の膝をつかれて、俺は地面に膝を付いた。


「……………………何?姉貴、武術家とか目指してたの?」

 流石に惨敗過ぎて、怒りは消え失せてしまった。

「そうねぇ……花嫁修業の嗜み。かしら?」

 こんな、恐ろしい嫁は絶対要らない。と思った。






 高校から帰ると、家に居た姉貴に呼び止められた。

「……なんだよ」

 今日はなんだ。とため息をつく。

「一緒にお茶にしましょう。愚弟に美味しいデザートを用意しているの」

 姉貴は俺の返事を聞かずに、さっさとリビングに行く…………まぁ、機嫌がいいなら、とりあえず安心だ。


「今日はカラメル堂の限定プリンを買ってきてね〜。これ、店頭販売しか無くて、一時間は毎回並ぶ有名店なのよ」

 今時、仮想空間での商売をせず店頭販売のみ。とは……時代遅れを通り過ぎて酷い執着にも思えてくる。

 てか姉貴、プリンに一時間も並んだの?いつも意味わかんねぇーし。

 散財ではないが、姉貴は食い道楽だよな。俺にはイマイチ良さが分からないが。


「はい、これあんたの分」

 渡されたのは、その限定プリンだった。

「え?俺も?」

 ちょっと意外だった。

「そうよ。お姉ちゃんの優しさを味わうのよ」

 そう言って姉貴はプリンを頬張って、幸せそうな顔をする。

「ほら、あんたも食べなさい」

 促されるままスプーンを入れて、一口食べた。普通に美味い……?と思う。


 俺が黙々と食べているうちに、姉貴の方は完食していた。

「一時間は美味しかった分、やっぱり名残惜しいわね……」

 なんて言っている。そして、まだ食べている俺の方をニコニコとした笑顔で見ているのだ。


「何?俺のプリン欲しいの?」

「取らないわよ。でも、あんたとお茶をするのも良いもんね」

 と、笑ってきた。

 残りの数口は、なんだかやけに美味かった。多分店の名前の通り、底にたっぷりあるキャラメルが美味いんだな。

 これは、また食べてもいいかもしれない。






 大学入学に伴って、俺は一人暮らしをする事にした。なぜか、姉貴も俺が出た後に家を出た。今までずっと家に居たのに。姉貴は気まぐれだから、まぁ、仕方ないか。

 親父は子ども二人が家を出たが、寂しい。よりも、頑張れよ。って言葉の方が多かったな。

 たまには帰ってやらんと姉貴がうるさいんで、姉貴が居ない日を見て帰ってやるか。



 困った。自分のバイト代と仕送りで生活しているのだが、今月は使い過ぎた。せびるのも嫌だし、バイト代が入るまで後一週間………流石に長い。

 実家より近いし、仕方ないが姉貴の家に飯だけ食わせて貰いに行こう。

 多分、食事代と言ってあれこれこき使われるだろうが、背に腹は代えられねぇ。

 姉貴は相変わらずの暴君だが、夕飯にはたっぷりあり付けたので、よしとする。


「ねぇ愚弟。私、結婚しようと思うのよね」

 食後の茶を淹れながら、姉貴は言った。

「姉貴が結婚?…………俺の義理兄はドMか……知ってたけどよ」

「何を言ってるの。そんな人じゃないわよ。尊敬できる人よ」

 姉貴は嬉しそうに微笑みながら、ティーカップに砂糖を入れてかき混ぜる。

「ふーん。良かったな。おめでとう」


 口の中で砕けた姉貴のクッキーは、なぜだか今日は、あまり美味くはなかった。

こんな偏った性格になるには、それなりの理由があると思う。

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