最終話 神様と人間
実は昨日、最近俺が天地創造で遊びまくっていた事が先輩にバレた。念の為と過去にやった触手世界とかも掘り起こされてバレた。そして昨日一日、仕事中なのに仕事時間が一切無い程に説教をくらい続けた。
よくもまぁ、あんだけ喋ることが出てくるもんだ。半ば聞き流していたが、返事が疎かになると二、三日はこの説教が続くと思える勢いだったので、相づちと返事はハッキリ返しておいた。
そんで俺は今回、久々の先輩監視の元で天地創造を行っているのだ。本当、懐かしいな。金儲けの貿易文化まで見習いで一緒にやってたはず。
まぁ、大分実力も付いてきたから古代文明をやらされる事は無かったが、本当に特色の無い、程々の科学寄り人類文明をやらされている。
あー。つまんねぇー。とか、しばらく愚痴をこぼす日々になるかと思っていたのだが、意外な事が起きた。
総勢二百人近い学生達はピアノの前に整列し、発声練習を終えて一息つく。続けて教師らしき人物が生徒達に喝を入れる声が飛んだ。
「本番は明日よ!練習はこの二時間で最後!皆、頑張ってやりましょう!!」
伴奏の学生がピアノを奏で出す。それに合わせて美しい賛美歌の歌声が練習会場中に響き渡った。
《女性が喜ぶプレゼントってなんだと思う?》
22:16
〈お祝いなら、定番に花束とか。てか相手誰だ〉
22:39
《明日チャカの日じゃん。ありきたりだけど彼女にプロポーズしようかなって》
22:42
〈リア充爆破しろ〉
22:42
《ドカーン!
で、花って何選べは良いんだろう?》
22:47
〈うわっ。こいつ。
店にお任せコースでいいじゃないか?〉
22:50
《それだ。今度飯おごるから許せ》
22:56
「ねぇ、お母さん。チャカの日ってなんでお祝いするの?」
少年はキッチンで料理を作る母親に訊ねた。今日のキッチンは明日に備え、いつも以上に鍋も皿も多く出ている。
「それは、神様がこの世界に来てくれた日だからよ。神様が降りた地域の言葉で"灼熱の太陽"っていう意味らしいわ」
母親は包丁を小気味好く鳴らす。
「へー!お母さん神様見たことあるの?」
少年は好奇心一杯になり母親の近くに駆け寄った。
「包丁持ってる時は危ないから、少し下がってるの。うーん……神様は絵や彫刻でなら、沢山見た事あるわ。ほら、うちにも。お婆ちゃんのお部屋に絵が飾られているでしょう?」
テーブルの椅子に座り直した少年は、納得した顔で喋り出した。
「あの、赤い髪で、白い服着てる男の人が神様?周りに火が燃えてるのは、太陽の神様だからなんだね!!」
「ふふふ、そうよ。しかも神様は、太陽だけじゃなくて、私達も動物も、お花も、夜空の星も、ぜーぶ創った方なのよ」
「すごーーい!!!!神様って、どっかの国にやって来たんでしょ?うちにも来ないかなぁ〜!!」
「なら、毎朝お婆ちゃんが朝日にお祈りしてるの一緒にやってみなさい。あなたも一生懸命お祈りすればきっと会えるわよ」
「分かった!明日からやるね!!」
少年は近くに畳まれていた白い洗濯物を体に巻きつけ、神様ごっこを始めた。
俺 教 大 成 功 !!!!!
俺は言葉に出来ないこの気持ちに、
「よっしゃああああああああああああああっっっ!!!!!」
って叫んで高らかに拳を挙げた。
隣部屋の壁から、ドンッって強い音がした。
あーあれぇ?なんでこんなに簡単に出来たんだろうか?なんか、今回すんげースムーズ!
いや、でもいいぞ!野望であった唯一絶対神となり、この星に住む人類全てが俺を信仰しているのだ!!!
いやまさか、適当に降り立った熱帯地域で爆発的な信仰がされると思わなかった。よく考えてみれば日差しの強い地域なんで、俺のシンボルである炎とか太陽的なイメージはとても馴染みがあったのかもしれない。
そこから世界への拡散は素早く、今では全世界で俺が降臨した日を讃え、祈る祝日まで出来ているのだ。
明日はその「チャカの日」だ。数十年に一度、その日に俺はどこかの国に降臨してやって、神の偉大さを見せつけてやっている。
今年はどこに出てやろうかなぁ。やはり、たまには原点に立ち返って最初の熱帯地域にに降りてやるか。
観客は多い方が良い。ちょっと宣伝してやろう。
俺は明日降り立つ国の首都上空に、一分程の炎のパフォーマンスをしてやった。
それらは瞬く間にネットで拡散し、全世界からコメントが来る。その場にいた者みんなが手に持ったカメラや携帯端末を使って、写真や映像を一斉に撮って広めたのだ。拡散後、その国行きの船や飛行機は飛び入りの申し込みでパンクした。
翌日の正午辺り、太陽が真上に来る時間帯に俺は降臨をしたのだ。
国中の人間は勿論、他国の信者達も街いっぱいに溢れかえっている。俺は天の導きとして言葉を与えたり、自然現象を操りつつ、降臨を終えた。目の前に居る人間達は、皆地面に這いつくばるように頭を下げ、俺の言葉を聞いている。
話しながらディスプレイでチェックしてみると、TVの生中継やネット配信なんかもされており、全世界がその映像を見ながら祈りを捧げたり、涙を流したりしているのだ。
ふはははははははははっ!!!!!
素晴らしい世界ではないかぁぁぁ!!!!!
俺はもうご満悦である。
あー。神様やってて良かった〜。
あ、そうそう。初めてここまで出来たのだ。記念に記録を残しておこう。信者達の俺を崇める言葉とか見てみるか。今後の天啓や奇跡の参考にもなりそうだし。
そう思った俺は、俺にまつわる人間達の言葉をピックアップするサーチプログラムをささっと組んだ。
よしよし。Enter、Enter。
神様にお祈りを捧げれば、必ず天国にいけるわ。神様は我々を救うお方だ。神様は世界を創られた素晴らしい存在だ。私達の人生は神様が居てこそあるのよ。今日の糧を得られる事を神様に感謝します。偉大なる神に乾杯!!
お〜、信仰心の厚い信者達で素晴らしいじゃないか。
俺はもう少し、俺を褒め称える言葉が聞きたくなった。思い付きをプログラムに一つ追加してみる。
神様神様、私、億万長者と結婚したいわ。あいつ、すげームカつくから神に殺されろ。なんで私ばっかこんなに不幸なの!?もっと天罰を与える人なんて沢山居るのに!!神様なんて最低!チッ、今日は最低な日だったぜ。神なんで糞に塗れて死ねばいい。あーあー、神が来て人生幸せにしてくれれば良いのに。神様お願いがあります。全世界の人間を皆殺しにして下さい。出来れば僕は殺さないで下さい。死にたくない、わしはまだ死にたくないんだ。なぜ神はこんなにも無情なのだ!?神様彼女を僕のものにして。天地創造の神とか言って、馬鹿もマヌケも創るんだな(爆笑)神様、私世界一美しくなりたいの。神様から祝福が欲しい。そしたらあいつら全員見返せるんだ。神様、毎日本当に死ぬ程退屈。私をもっと幸福にして。え?神?むしろ俺がなるわ(笑)やはり能力あり秀でた者は神から力を与えられているのだ。祝福無き者は皆死ねばいい。神様は毎日お祈りをしている私のお願いなら、全て聞いてくださるわ。神様、僕の欲しいものは俺は私はあれが僕が君をそれで自分に神様が神様は神様って神様に神様、神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様………………
「う……うわああああああっ!?!?!?」
プログラムを作動させた瞬間に、俺の目の前にあるディスプレイが全て人間の欲望に塗れた言葉で埋まった。それは止まることなく延々と更新され、六面出ていたディスプレイのスクロールバーが凄い勢いで下がり続けている。
こ……こえええええええええええっ!!!!
出来心で、人間が頭の中で考えている神への言葉をリサーチ対象に入れてしまったら、このざまだった。
半ば暴走気味のこのプログラムを強制終了させるのは、結構骨が折れた。
さて、俺はこの一件があってからというもの、なんだかいつものテンションで神様をやれなくなってしまった。
教会でも家でも、どこでもかしこでも。俺に祈りを捧げて頭を下げる人間達を見ると、この一件を思い出して奴らの下心を見てしまう。
俺は少し奴らと距離を置いてみようとするが、一度縋ってしまうと中々離れられないのが人間だ。苦しければ苦しい程、辛ければ辛い程、人間は奇跡を起こし自分達を救い出す神に盲目に依存していった。一度他人から与えられた幸せに、自ら動く事を奴らは拒否した。そんな感じなんだろう。
「本当、人間とか文明とか飽き飽きしたし……なんか結局本質は変わらない。みたいなさー」
俺の方はと言うと、そんな全人類からの依存関係にグッタリだった。
一度嫌だ。と思うとイヤな奴の顔を見るのも嫌になる様に、この世界を眺めているのがどんどん苦痛になっていった。
「あー。もう嫌だ……日増しに酷くなるし……」
俺はかなり疲労していた。これを終わらせた後の新たな天地創造にも、やる気が全く湧かない。確認した世界が何も変わってないと分かってディスプレイを閉じる。
「もう、むしろ神様辞めちゃうかぁ………別に研究業とか他にもあるし……」
そんな事を一人で呟きながら、資料整理を始めた。辞めるんだったら、引き継ぎ作業とかあるんだろうし。早めに手を付け始めた方が良いと思う。
とりあえず依存世界の経過報告をまとめ、一区切りをつけておいた。新しい天地創造は……完全にやる気がしない。
それにしてもまぁ、新人のこの期間で随分創ったものだ。記憶に新しい最近のデータから俺はまとめ始める。結構時間を使ったが、引き継ぎ出来るように、かなりの世界資料の見直しと整理が出来てきた。
すると、一人の少女のデータが出てきたのだ。ジャンヌ・ダルクのように生きた彼女の資料。
「…………………」
まだ、約束を叶えてやれていない。
人間の魂というものが転生するのは、実はとても確率の低い、まず間違いなく起こらないケースなのだ。
魂も存在子によって構成される。そして、死ぬと身体が朽ちるのと同じように、魂である存在子の集合体は四散する。
存在子は性質や動きは共通しているがそれぞれは違うもので、分かりやすく言ってしまえば一つ一つに個性がある。
たまたま誕生する時に誰かが使っていた魂と同じ存在子が集まり、同じ構成が取られると、前回の魂の再現でもするかのように前世の記憶、などが発生する事は理論上可能ではある。
しかし、その存在子が集まる確率は限りなくゼロに近い。手動で行うとすれば、広大な砂漠地帯に数百グラムの砂をランダムにばら撒き、ばら撒いた物と全く同じ砂粒を全て集め、一粒一粒、前回の魂と全く同じ配置で積み重ね、砂の城を作り上げる。なんて例えれば分かりやすいだろうか。
ハッキリ言えば、散り散りになり他と区別が付きにくい特定の存在子の回収と再構成とは、それくらい途方もなく無謀な事なのだ。
彼女が死んだ時、骨を拾う代わりに魂を構成する存在子を四散する前に抽出し、崩れない様に保管はしてある。
時間はかかるが、新しい体を用意して適合させる事は出来る。
ただ、記憶を持って生まれ変わらせて本当に彼女は幸せなのか。魔女と呼ばれて死刑にされた記憶だって残っている。
生まれる世界によっては、前の世界に帰りたくなるかもしれない。どんな世界なら、彼女は幸せなのだろうか。そんな事を考えると腰を上げられなかった。いくら経っても忘れられるはずも無かった。
そして彼女にはまた死が、必ずやって来る事になる。それも考えたく無い事の一つだった。例え永遠の命を持たせたとして、それは彼女の幸せなのだろうか。単なる俺の自己満足でしかない。と思う。
本音を言えば彼女が死ぬ様を、もう二度と見たくないと思うし。同時に二十歳にもならずに死んでしまった彼女には、もっと楽しく幸せな思いを沢山して、満足しながら目を閉じて貰いたい。という綺麗事じみた理想も抱く。
彼女に限ってだけは、俺はいつもの様な割り切った観察者としての態度をとれないでいる。
彼女の幸せの一つに俺が入っている事、そしてその逆もある。という事は見ない振りをしつつ、気が付いてはいた。
所詮、俺は彼女の世界で一生を過ごす事は出来ない。現実は理解出来ているのに、その気持ちを捨て切る程、親心の様に達観出来る程、俺は高尚な生き物ではない。そういう日が、いつか来るのかも分からない。
更に沈黙が続き、俺はディスプレイを一つ出し辞職手続きに用意していたデータを消去した。
「あ〜。神様やってやるか」
大きく体を伸ばしてそう言った。
まだまだ、俺の素晴らしさが必要な生まれみぬ世界はごまんとある。そのうち、彼女を幸せに出来る解答も見つかるだろう。それまで、約束を待っていて欲しい。
「さーて。じゃあ始めますかぁ」
天地創造の新ネタを考えつつ、俺は今日も欲望のまま創造主を行うのだ。
本編 は これにて終了となります。
本編で語りきれなかった部分なんかを、番外として4話設けてあります。
「7日目神は休んだ」はまだまだ続きます。
今までは主人公の本気。これからは、彼岸の本気。
詳しい世界観など、かなりの重要回なので、読んで頂けると本編の見方が少し変わるかもしれません。
先に読ませた、なろう好きには
「番外含めて、全部読み終わった後の2週目も面白い」
って言われ、2週目を読んでいるそうなので、きっと面白いと思います。
もう少し、お付き合い頂けると幸いです。
次回 番外1は
5月13日(水)深夜0頃更新
姉貴様と主人公の過去話




