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23 田んぼの真ん中で天地創造の神に異世界召喚されたんですが。

 僕は澤村智樹と言います。今年、高校一年生になりました。初夏の少しばかり日差しが強い中、帰宅部だったのですぐに家に帰っていました。

 家でダラダラとしながら、ゲームが早くやりたかったからです。

 自転車で田んぼ道を駆け抜けていると、突然目の前に真っ白な光が現れてブレーキが間に合わず中に突っ込みました。

 そのまま後輪が浮き上がって、でんぐり返しをする様な形で地面に叩きつけられたのです。


「い……たたた……」

 目を開けてみると、辺りは真っ白な光に包まれていて何も見えません。何だよこれ。とか思って辺りを見回して見ると、頭上から赤い髪の男が降りてきました。明らかに浮かんでいます。

「困惑しているようだな。まぁ、落ち着いて話しを聞け。我は天地創造の神である。此度、貴様を異世界へと招待してやろうと思い、降臨した」

 赤い男は、なんか昔の海軍の軍服に似たようなコスプレをして、偉そうに踏ん反り返って話しかけてきました。うーん。ドッキリ?痛い人?ワイヤー見えない凝った作りだなぁ。


「おい、貴様!我が神だと信じてないな!!……まぁ、いい。異世界へと旅立てば、貴様も我の偉大さが理解できるであろう」

「え………異世界?なにそれ……腹減ったし、僕早く家に帰りたいんですけど…………この明るいライトなんですか?撮影会ですか?」

 そんな本心を僕は言いました。だって痛いコスプレ男の言う事なんて怪しいし……厨二病は中学生の間で十分だよ。


 なんて事を考えていると、コスプレ男はニヤニヤといやらしい感じのする顔で、僕の事を覗き込んできました。

「貴様はこれから異世界で勇者として、魔物とそれを束ねる魔王を倒して貰う。拒否権は無い。これから、我が貴様に素晴らしい力を授けてやるから、ありがたく思え」

 一方的にそう告げられたのです。


「え?勇者?ちょっと……なりきりとか、ネットの中だけでお願いします………その歳でコスプレもどうかと思いますよ……」

 僕がドン引きしながら後ずさると、コスプレ男は少し目を見開いて固まりました。しかし、すぐにコスプレ男は右手を前に出して、まるでキーボードでも叩く様に指を動かし出したのです。

「……コスプレなどでは無いっ!我は神なのだ。神が神としての衣に身を包むのは当たり前の事…………それに言っただろう。神に選ばれた者には拒否権は無いのだ」

 喋りながら指を動かし、最後に人差し指を空中に押し当てる……その途端、体に激痛が走った!?


「いっ……!?!?………たぁぁぁあっっっ!?な??何し……た………!?」

 痛みに呼吸が止まってしまう。絞り出すように息を出し入れする。

「あぁ、言い忘れてすまん。能力を与えるには副作用があってな。少しばかり辛いだろうが、一〜二分もすれば無くなる。代わりに勇者の力が貰えるんだ。我慢してくれ」

「は………ぁっ……??何を……勝………手……にっ……」

 ひゅーひゅーと息をするだけで精一杯の僕は、うずくまったまま最早コスプレ男の方も見る事が出来ない。激痛に意識が飛ぶかと思った時間はとても長く感じた。が、男の言葉の通り痛みが治まった。顔を上げようとした瞬間、フワッと、浮遊感を感じた。


 !?!?!?


 僕は叫ぶ暇もなく地面の感覚が無くなり、バンザイをする形で落ちた……気がしたが、一メートル程度で地面にぶつかる。

「おぐっ!!!!」

 ガンッと上半身を硬いものにぶつけた。それは僕の体重と共に動き、一緒になって倒れたようだった。





 ざわざわと……‥人の声がする。主に男の声に感じる。顔が土と雑草の露で汚れた感じがする。


「おい、見たか?本当なのか??」「なんだ、あのガキ………突然現れたぞ……」「嘘かよ……なんてこった……」「おい、見ろ!抜けちまってるぞ!!」「俺がやる前に……」


 なんか、周りがどよどよしている。目を開けると、僕の下には漫画やゲームなんかに出てきそうなカッコいい剣が下敷きになっていた。

「いったいなぁ……」

 四つん這いのまま周りを見てみると、本当にファンタジーゲームみたいな人達が僕の周りを囲んでいる。西洋風の甲冑を着て剣や槍、弓を持っている。

「なにこれ……」

 僕が呆然としていると、空からあのコスプレ男の声がした。


「我は天地創造の神である。皆の者、祝福せよ!只今をもって聖剣の持主は現れた。かの少年は魔王を倒す力を我から授かりし者。平和の世はもうじき訪れるであろう!!」


「はぁ?何言ってんだよ!!!!ふっざけんな!!!!!」

 僕は声のする青空に叫んだが、コスプレ男の姿は無い。

 すると、耳元で小さくヤツの囁く声が聞こえた。

「今更変更手続きとか面倒いし。世界の移動って楽じゃねぇんだぜ?まぁまぁ、魔王を倒したら帰してやるから。それまで存分に楽しめよ」

 あのニヤニヤ顔がふと思い出される。すぐに振り返るが、そこには誰も居なかった。


 これが、僕が異世界に召喚された経緯だったのです。





 僕はその後事情が良く分からないまま、異世界の勇者として近隣の街で祭り上げられて、この世界の様々な事を知りました。

 本当にここは剣と魔法の世界だそうで、エルフやドワーフ、妖精なんかといった種族もいて、コスプレ男の話していた魔王により、人間は脅威に晒されているそうです。

 そして、召喚の時に倒れた聖剣を持たされ僕は、手始めに街の周りにいる魔物を退治しに向かわされました。


「えぇ〜………剣道すらやった事無いのに。剣で戦うとか……ていうか戦いたくない……」

 このまま、何処かに逃げてもいいかと思いましたが、行く当てもないです。途方にくれながら、貰った周辺地図を眺めて地理を把握しようとしていると、あの腹立たしい声が頭上から聞こえました。


「あー、そうそう。貴様には魔法の能力も与えてある。これがあんちょこだ」

 そう言うと、空からパラパラと数枚の紙が降ってきました。拾い上げてみると、そこにはゲームでも定番な呪文の一覧があったのです。

 ………安いコピー紙に普通にインクジェットっぽい印刷……本当に神なのだろうか………。

「そこに書いてある技名をテンション高く叫べば発動するから、まぁ頑張れよ」

 それで、神の声はとりあえず終わりのようでした。




「ファイヤーボール……アイスランス……リザレクション…………マジでこれ叫ぶの??……恥ずかしっ!!!!!」

 リストを見るだけで、小中学生時代にやったごっこ遊びを思い出しました。やだ。マジでやりたくない。黒歴史は見返したくは無い。

 でも、魔王倒さないと帰れない。とか言ってるし……何もせず街に帰るのもどうなるか分からないし……勇者とか言われながら、怖くて帰りました。とか気まずいよね?


 僕が道ばたで迷っていると、草むらからガサガサ音がしているのに気が付きました。野うさぎとかかな?なんて見てみると、それは紛れもないスライムという生き物でした。

 青くて、雫型で、まん丸な目の笑顔で………って、エンカウントしてるーー!!!!!

「えっと………襲わないでくれよ……僕も戦いたく無いし……」

 ジリジリと後ろに下がろうとすると、大きなスライムは僕の方に向かって体当たりしてきたのです。

「うわあああっ」

 そのまま尻餅をつきました。上に乗られたスライムをどかそうとしても、意外と重たい為に両手でスライムを支えた状態で一向に動きません。

「ファ……ファイヤーボール!!!!!」

 叫んでみると、本当に手から炎が現れて目の前のスライムに炸裂しました。スライムは粉々に砕け散ったのです。

「うわぁぁ…………本当に出た……」


 魔法なんて使うとMPみたいなものが減ったりするのかな?なんて思いましたが、特に疲労感もありません。

 レベルで使える魔法に制限とかあるのだろうか……?とも思ったので、一番凄そうな呪文を叫んでみました。

「えっと……よしっ!………メテオ!!!」

 数秒すると、青空の遠くから隕石の様な物が近づいてきました。このまま巻き込まれるのかと逃げようとしましたが、なぜか僕を綺麗に避けて隕石は落下しました。

「あ……ゲームみたいに当たらないんだ……」

 少しホッとして、半径三十メートルくらいでしょうか、焼け野原に立っていました。

 しかも、こんな強い技を使っておきながら、やはり疲労感はありません。勇者の様な能力は本当かもしれません。



「これなら……魔物も倒せるかな……??」

 僕は指定された魔物が出るという森の前まで歩いてみました。そして怖いので、メテオを四発くらい撃って、その大きな森を跡形もなくしてみたのです。森林破壊は少し心が痛むけど、恐い魔物も全滅したからいいよね??




 そんな調子に魔物退治を続けた僕は、いつの間にか勇者ではなく、デストロイヤーと呼ばれるようになりました。

 顔も知れ渡り、街に入ると「どうか街を壊さないでくれ!」と怯えられる始末です。宿代や食事代はタダにしてもらえるので、旅は楽にはなったのです。人が近寄らないので、揉め事も少ないです。近寄ってくると揉め事な事が多いのですが。

 …………街の人が皆よそよそしくて、宿泊に留まっていても居心地は良くないんですけどね。あと、時々コスプレ男の吹き出すような笑い声が聞こえるのも、無性に腹立たしいです。

「ぶふっ…………くっ………悪い悪い……」

 何が悪いだクソ。


 聖剣の方は本当に聖剣らしく、魔物に対しては触れただけでも激痛を与える物でした。一刀両断する程の腕力が無い僕でも、楽に接近戦が出来たのです。最悪、目の前の敵に押し付けるだけで良いんですから。




 そんなこんなで、僕は魔王の居るという城まで何とかたどり着けたのです。

 城の側まで来て、やっぱりここもメテオかなぁ………とか考えていると、中から角の生えた男性が出てきました。


「勇者よ!そこに居るのだろう?私は魔物達を統べる魔王だ!!これ以上の被害は無益だ。そして、人間達に恐れられるその力、我々に貸して頂きたい!!我が同胞を生み出した創造主と名乗る邪神。奴によって我々は住む場所も無く人間達に忌み嫌われている。我々は防衛としての攻撃も許されない。共に手を取り合って邪神の首を討ち取ろうぞ!!!」


 そう、魔王と名乗る男は言いました。邪神とはきっと、あのコスプレ男の事でしょう。僕は物陰から出て魔王に言ったのです。

「ほ……本当にあの男を倒すのか!?だとしたら、協力する!!!」

 そうです。あの憎たらしいコスプレ男をギャフンと言わせるチャンス。

 僕は勿論、あのコスプレ男より目の前の魔王に同情しました。なにせ、今まで魔物を沢山倒す機会はありましたが、魔物が一方的に悪者。って感じのする戦いはほとんど無かったのです。これは、あのコスプレ男が僕を利用してるとか、そういう事です。散々人の事を笑ってきて………絶対逃しはしない!!


「良く言ってくれた!!これは私の血で呪いを込めた誓約書だ。ここに勇者との協力を誓う!そして、私がこの誓約に背いた場合、私は込めた呪いによって死ぬ!!決死の覚悟である!!」

 本当なのかな……念のために呪いの判別魔法を僕は唱えてみると、魔王は本気で自分に呪いをかけていたのです。


 僕は誓約を受けると答えて魔王に近づき、誓約書を握り締めた魔王の手を両手で掴んで、大きく頷いたのです。

「やろう!!絶対あの男を倒そう!!」

 魔王も僕を見て力強く頷き…………あの、いつだったかの浮遊感がやってきたのです。





 目の前が真っ白にるとほぼ同時に、地面に顔面をぶつけました。更に、上から硬い物も覆いかぶさる様にぶつかります。


 目を開けると、そこは懐かしい田んぼ道と僕の青い自転車がありました。

「か………帰って……来た??」

 やった!!という嬉しい思いと、コスプレ男をブッ飛ばせない悔しさとで、なんだか複雑です。試しに空中へ呪文を唱えてみても、何も起きませんでした。


 塗装が少し剥げた自転車で家に帰ってみると、時間は飛ばされた時から全く進んでおらず、普通に家族がそこには居ました。

 母親には制服をどこにやったのだ。と怒らました。

 僕のお土産は傷が殆ど無い甲冑と、魔物の居ないここでは、ただの鉄の塊となった聖剣でした。







「お前、人を見る目が無いなぁ……」

 俺は先輩に今回の報告書を見られた後、こう言われた。

 確かに適当に選んだのは事実だ。しかし、それっぽいのを選んだつもりではある。


「ほらー、ラノベってやつの定番で居る、特技もない、平凡地味なやれやれ系巻き込まれ型主人公が、異世界チート能力を手に入れて勇者として成長する冒険活劇的なのを再現しようかと」

「定番を取りあえず入れればまとまる。とは限らんだろう」

 先輩は報告書のウインドをつついた。まるで、作家にダメ出しをする担当の様だ。


「そんな、人間ころっと気持ちを入れ替えて、突然消極的な人間が積極性あるカリスマを持つ訳ないだろう。後、異世界の方、手を抜き過ぎ。なんだよ。魔物がお前を敵視してちゃ、この主人公的には当然協力するはずだ。主人公への扱いもなっていない」

「えーー………そんな男とか優しくしても楽しく……」

 ゴッ!と頭にゲンコツを問答無用で食らった。無言で先輩は俺を睨み付けている。

「は………はーい……真面目にやりまーす」

「はいを伸ばすな!」

「はい……」



 そんな訳で俺は、報告書に今回の異世界転移へのケーススタディーを更に追加修正する残業となったのだ。

 あ。あの澤村ってのにアンケートとか取るんだった。忘れてたから、今度夢に出て聞き取りしないとなぁ。あーーめんどく……っざ!?


「今、何か言ったか?」

「………いえ……何も言ってません」

 久しぶりの先輩の鉄拳は、威力が全く変わっていなかった。

彼岸 明 的な、なろう路線でした。

なんか違うね。彼岸は彼岸でしかないな。

まぁ、7神もネタを詰め込み過ぎて、まとまっているのか謎ですが。

皆さん、どう思いますか?


次回24話更新は

4月25日(土)深夜0時頃

彼岸のお気に入り話その1

主人公、夢その1を叶える

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