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21 神の休日 3

 俺は特にやる事もなくテーブルに頬杖をつきながら、目の前の友人を見ていた。卒業した大学のゼミ仲間だ。卒論の時にも何だかんだ世話になったりして、卒業した今も時々会ってる友人である。


「さっきから……なに真剣に見てんだよ?」

 前回から三ヶ月ぶりくらいに会ったが、簡単な近況報告が済むと特にこれと言った話題もなくダラダラと雑談をしてた。俺はやる事も無く、さっき食べ終わった昼飯についていた茶に口をつけた。

 ヤツはディスプレイを真剣に見ながら、こっちの事なんかお構いなしに何かを考え込んでいる。


「いやさぁ………海に行くのに、海パン新しいやつ買っとくかなと……」

 じっと画面を凝視して、そんな事を呟いた。

「はぁ?お前いつの間に彼女できたんだよ」

「んぁー?ほら、ゼミの同期で今度行くじゃ……………あ。ごめん」

 俺はヤツの胸ぐらを両手で掴んで立ち上がった。

「おい!俺呼ばれてねぇーんだけど!?な……な、何?イジメ??」

「いやー…………ほら……女子も来るからさぁ……しかも海だと水着になる訳だろ?……すげー警戒されてるんだわ。お前……」

「うぐっ…………で……でも、自制心と理性くらい俺だっ「無いな」」

 ヤツは即答した。


「卒論の時の……お前の妄想垂れ流しのヤバい感じは皆見てるからなぁ。今更払拭できないぞ………第一、お前の煩悩は改善されてないし。ほら、土産に温泉饅頭買って来てやるから。近所が名湯で温泉卵とかも美味いらしいし、な?」



 うごおおおおおっ!!!!んだよそれ!水着回と温泉回が同時とかって何だよそれ!!!!!



 俺はテーブルに突っ伏して悶え続けた。しばらくすると見かねた友人がため息をつきつつ、手を差し伸べてくれたのだった。

「仕方ないな………分かったよ。バラしたのは俺だし。ちょっと皆にかけあってみるから……」

「マジで!?流石親友!!!」

 俺はヤツの手をがっしり両手で握り締めた。

 これは俺だけの問題ではない。読者サービスでもあるのだ!………ん?読者って誰だ?



 そんで親友の力を借りつつ俺も大人しく紳士に対応して、女子達から参加を許された訳だ。

「……まぁ、根が悪い人では無いから良いけどね…………でも何かしたら殺す」

 そうハッキリ言われた。手厳しい。





 快晴に恵まれつつ陽射しの強い中、潮風が気持ち良く吹いている。雲一つない青い空!白い砂浜!エメラルドグリーンがかった透明な海!

 まるで絵に描いたようなお約束の光景である。こんだけ綺麗に整っているのも、現代技術のおかげなんだけどさ。


 俺達は純和風な温泉旅館へと宿泊する事になった。その前に近くの浜辺へ遊びに来ている真っ最中。

 俺と親友を含めて男は三人。女子も三人。他にもゼミ生は居るが、後は都合が合わなかったそうだ。



 先に着替えた俺達は適当な所に場所取りをして、座りやすくシートを広げるとか、おもてなしの準備をしながら期待に胸をそわそわさせている。

 残念な事に俺を含めて、現在彼女持ちは誰も居ない。


 女子の方は男が居るかまでは、まだ把握は出来ていない。しかし、望みは絶対ある!と言い聞かせて俺達は、水着姿の女子たちが現れる時まで暇を潰した。

 あと、俺は男子の好感度を著しく低下させるそうで、


「よく聞け。黙って表情筋を動かさない。それがお前が一番手っ取り早くモテる方法だ。そしてオレ達二人も安全だ」

 そう三人目にご指南頂いた。そうかよ。と不機嫌に毒付いたが、親友にも大きく頷かれて立場は無かった。


 男と波風立てても女子に殺されても仕方ないので、俺は大人しくしている事に決めたのである。

 一緒に海に入って水をかけたりと、青春っぽく戯れようかと思って近寄ると、一番性格のキツイ女子に思いっきり睨みつけられ、酷く威嚇されてしまった。

 確かに水着姿はいつもと違っていいなぁ。って思いながら少し眺めていたが。そんなにバレバレだったのだろうか……。


 そいつは他の女子二人の側をガッチリキープしていて、集団行動を保とうとしている。いや、そんなはぐれたからって、すぐさま取って食わねぇし。

 そんな理由でキャッキャッウフフ的な行動が取れない俺は、手持ち無沙汰で砂の城を作っていた。



 完全にハブである。ボッチとも言う……。



 くそおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

 顔に出るかは別として、男の中身なんで大して変わんねぇよ!!!!あいつらだって俺と考えてる事なんて一緒だっつーの!!!!

 ちょっと表情出さないからって、中身が違うとは限んねぇんだからなぁ!!聖人君子なんているかよ!!むしろ、隠し事も無く振る舞う俺の方がよっぽど良いわ!!


 そんな事を心の中で叫びながら、忌々しいので砂の城をバシバシ叩いて固める。

「相変わらず器用ですね……何かのお城ですか?」

 突然の声でハッと我に返え声の方を見た。

「へ?………あぁ……フランスって所にあるやつに似せて……」

 俺の前に居た女子はその場にしゃがみ込み、優しい笑顔で俺と砂の城を眺めた。たわわに実っている谷間が目の前に広がる。キメの細かい肌はスベスベと透明感があり、とても柔らかそうな実である。でかい。学生時代はゆったりした服装が多かったせいか、何となく大きそうだ。くらいの印象だったが……でかい。埋もれる。

「博識ですね。やっぱり神様してると、沢山歴史を見るからですか?」



 巨……いや、この上品さが伺える子は卒論の時期にはよく差し入れしてくれたり、連日泊り込みの俺を小まめに気遣ってくれたりと、まさにゼミのオアシスであり天使のような子である。

 栗毛色の柔らかそうなボブカットに、小柄だが女性らしい体つきという事も合間って、ゼミの男共の間では癒し系として絶大な人気の持ち主なのだ。

 物静かで気遣い屋。NOと断れない弱気で人に強く出れない短所ですら、魅力に見えてくる。


 久しぶりに会い、水着姿……腰に巻いた薄い布が肌に張り付いて、隠すどころかむしろエロい。なんて思いながらぽやーっと見ていると、その奥からもう一人声をかけて来た。

「うわっ!なにあんた。コンテストに作品でも出すの?」


 大股に駆け出しながら近づく方は、ゼミの中では一番話しやすい部類の女子かと思う。サバサバしていて男女関係無く付き合うし、変に自意識過剰な感じもない。とても自然体な奴だ。男友達として片足突っ込んでそうなくらい気軽で、こっちとしてはありがたい。

 胸も尻も小振りだが、スポーツでもやっているみたいに引き締まった感じの体つき、これはこれで好きな奴は多い。



 言われて俺は目の前の砂の城を見てみると、熱中するあまり確かに細部まで細かく作っていた。わざわざ海水をかけて固めて、窓を小枝で掘っているとか……無意識に凝り性を発揮してしまっている。


「あー………なんか手が勝手に」

「あんたって昔から手先は良いよねー。頭も良いはずなのに、なんかネジ少ないって言うかー」

 あはははっ!と大口を開いて笑う。

 天使もふふっと、はにかみながら笑っている。これは可愛い。


「ちょっとー!!皆なにやってんのさー!!」

 残りのキツイ奴も他の二人が俺の周りに来ているので、嫌々ながらこっちに近づいた。何だかんだ言ってるが、いつも下ろしてる髪をポニテにまとめていて、スタイルも中々良い。うちのゼミの中でも、結構美人や可愛い子が集まって来てくれたのは、来て良かったと思える事である。

 そんで男共も次いでに集まり、何だかんだ男女対抗のビーチバレーという楽しい時間をその後は過ごせたわけだ。





 そんで夕方近くになり、俺達は浜辺から引き上げ宿に向かった。

 流石に男部屋と女部屋に分かれているので、女の園の詳細は分からないし、夜に忍び込む。なんて学生みたいな真似をして殺されるのもマズイので、大人として風呂上がりの浴衣姿を愛でる事で満足する事にした。満足するしかないだけだが。


 夕食は男女一緒に。部屋の大きな女子部屋の方で取るそうだ。飯の時間になったので行ってみると、風呂から出たばかりの女性陣がくつろいでいた。

 湯上りの浴衣はやはり良いものである。しっとりした肌や髪、赤みの差す頬。少し崩れた着慣れない浴衣。そこから覗く細めの手足や首。普段見慣れないというだけでも、十分効果てきめんな格好だと思うんだよな。


 おまけに酒も入り皆ふわふわと酔いが回って来ていて、これはお持ち帰りコースの食べ頃だろ。とか思ってしまう感じが見受けられる。

 爽やかな笑顔を絶やさないが、他の連中が俺と似た事を考えているのは明白だ。「これはいける!」とか言って心のなかでガッツポーズしてるのは確実だろ。ちょくちょく恋愛やら軽い下ネタトークを話題に混ぜてくる辺り、あからさまだと思うんだよな。

 キツイ系とか表面に騙されてなに見てるんだ。とか思うが。まぁ、俺は目の前に座る天使が美味しそうに酒や料理を食べ、ニコニコ皆の話しを聞いている姿に癒されている。それどころではない。


 男勝りなあいつは豪快に笑って場を盛り上げていた。他の連中も何だかんだノリのいい奴ばかりなので、楽しい時間ってのはあっという間に過ぎていくもんだった。水着じゃないからか視線も気にならないそうで、女子全員とも仲良く話せたし。久しぶりに面白い時間だった。なんか久しぶりに遊んだな。って気がしてきたわけだ。


 結構遅くまで喋っていたが、皆に眠気が現れてくると男部屋に返されてしまって終了。酔いも回っているので他の二人はさっさと寝てしまい、布団に入った俺も睡魔にすっと誘われたのだった。





 四時頃か。時たま深夜から明け方に目が覚める俺はなんでか、旅行先の今日も変な時間に目が覚めていた。

 温泉も閉まっている時間で、眠れずぼんやり過ごす。部屋に居ても退屈だし、旅館で一番見晴らしの良いと聞いた場所に行ってみる事にしたのだ。

 ソファーが置いてあるスペースには、目の前に全面ガラス張りで海を一望できるようになっている。さっきまで遊んでいた浜辺は少し遠いが、右端の方に見える白い浜辺だと思う。見える範囲の多くが海なので明かりも少ない。外は暗くて星も見えた。


 音楽を適当に流しながら、眠気が来ないかソファーに寄りかかって再度ぼんやりとする。うつらうつらと瞼が重たくなって来た時、ガラスに人影が見えて目を開いた。



「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたよね?」

 振り返ると申し訳無さそうな天使。

「うんん?………あれ?なんでこんな時間に……?」

「女子皆で朝日を観ようって話してたんですよ。ここの眺めが良いって中居さんから聞いて。でも酔っ払って全然起きないから、一人で来ちゃったんです」

 えへへっ。と少し照れながら天使は笑う。外に目をやるとほんのり空が白んできており、水平線からもうすぐ朝日が昇ってきそうだった。


「そっか。……一緒に観ててもいいかな?」

「ええ、勿論ですよ」

 そう言いながら笑顔で俺の隣にある一人掛けソファーに腰掛ける。



 改まって二人きりになると、なんて話題を出せばいいか思いつかず黙ってしまう。

 天使も特に何も話さず外を観ている。時々こちらを見て目が合うと、ゆっくり微笑んでくれるのだが。


 とても可愛いが……なんだか毒気を抜かれる子である。別に意地悪をしたい訳じゃないが調子が出しにくい。上手く出来ているか分からないが、天使に微笑みを返して朝日を待った。


 それから五分くらいすると、水平線の奥から明るい光が溢れ出してくる。「わぁ……昇ってきましたね」と言うので、「そうだね、空も明るくなってきたね」と答えた。

 朝日が昇る。なんて天地創造での試運転では毎回確認する作業なので、あまり有り難みを感じないが。天使二人きりの時間は良いと思えた。


 太陽が姿を現してくると、天使はそれをレトロな写真に収め始める。ズームやピント調整やら、結構こだわりながら熱心に撮影をしているようだ。意外と凝り性なのかな。

 あらかた撮り終わったようなので声をかけてみる。


「写真好きなんだね。大学ではあまり見なかったけど」

「あ。…………実は、彼の仕事がグラフィック関係の人で。仮想空間での景色や背景のグラフィック処理とか……その影響で最近趣味も似てきちゃったんです」

 恥ずかしそうに答える笑顔は可愛かった気がするが、俺は表情筋を動かさまいと心を無にした。

「あぁ、そうなんだ。仲良いんだね」

 多分、先程まで浮かべていた笑顔のまま顔を固定しているはずの俺は、その状態で返事をした。

 完全に日が昇ると天使は「そろそろ皆を起こしてきます」と言って部屋に戻った。俺も「朝風呂でも入ってくるよ」なんて答えた。





 その後は何事も無く朝食を経て近辺の観光をし、帰路に着く事となる。実に平和な一日だったさ。


 女子組と別れ、男だけになった時に「久しぶりに見たけど、天使ちゃん可愛かったよなぁ〜」なんてセリフの後に真実を告げて、奴らも道連れにしてみた。ざまあみろ。俺も半ばヤケになって投げやりである………くそぅ。



 結局、しょんぼりした男が三人出来ただけであった。

浴衣とか着物っていいですよね。


次回22話更新は

4月18日(土)深夜0時頃を予定

次は懐かしいあれの詳細でも


三週目の休日終了です。

後半戦突入。四週目がラストなんだ。

最終回まで後少し、お付き合い下さい。

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