02 原始的な人間の営みから探る平和
「……おいおい、なんでだよ……」
俺は今回も空振りに終わったようだ。
上手くやったつもりではいたのに、そうそう事が運ばないのが天地創造ってもんだ。
俺みたいな始めたての神様見習いが天地創造をするにあたって、最初に先輩神様から言われた事がある。
「いいか。文明というものは高度だから良いというものではない。知力だろうと腕力だろうと、大きすぎる力は本人達も扱いきれなくなる諸刃の剣だ。新人のお前が高度文明の種族を上手くまとめるのは難しい。最初のうちは太古の生物や文明を扱える程度の種から始めて、要領を掴んでから少しづつ段階を踏むんだ。序盤から過度な能力を与えてしまわないように。いいな?」
だとよ。
だから、最初の一回は先輩にアドバイス貰い貰い、二回目は自分一人でやってみて、三回目の前回は一回目と二回目で貯めた余力を全部使って俺的最強人類を創ってみた。
あのまま育てば、それはそれは能力カンストも夢ではない新人類となった。
いやぁ、星も小さくして、大陸も小さいの一個!あと全部海!水中生物は無し!陸上に最低限の生態系!大陸もほぼ平地!最低限の資源!火山や海流、大気の流れなんかの星の活動もギリギリまで省エネ!
俺的最強人類は不老の体で大怪我でもしなければまず死なない!食事は光合成で太陽と水だけあれば良し!水陸共にある程度の生活が出来る身体能力!高い知能に高度な文明にもなれる!見た目も美しく美男美女!光合成をする髪は緑色で、翼つけて正しく天使の様に!
この世界を作るにあたってのエネルギーを極力抑え、残りの全てを俺的最強人類につぎ込んだのだ。
とてもいい出来だった……そして俺は先輩神様に死ぬほど怒られた……。
いいじゃんよぉ。チートとかすげぇかっけーじゃんよぉ。
しかしまぁ、俺的最強人類は高度な知的生命と育ったが、温和で争いを好まない種族だったため、俺の素晴らしい創造主センスが輝き上層部からのお咎めはなかった。先輩からは長い長い始末書という名の反省文を作らされたが。
そして反省を表す為にも、初心に戻って『古代文明の繁栄と平和の維持』という課題を与えられたのだ。
「仕方ねぇなぁ……やるかぁ」
と、俺はずるずる作業を始めようか、やめようか。始めないでやめようか。とか悩んでいた。
いやしかし、ここは気持ちを切り替えてもう一つの目的を実現させてみたい。
やはり神になったからには、なんとしてでも崇められたい。それが神様ってもんだ。
そう!俺教をその世界宗教とし、そこに住む文明を持つ全生物に崇め奉られる!!何万何億という者たちが俺の前にひれ伏すのだ!!なんという絶景!!!
「ぐふふふ……俄然やる気出てきたぜ……」
おっと涎、涎。
何事も最初が肝心だ。しっかりと計画を練り、俺を崇拝して止まない素晴らしい世界を作らなければ。俺は笑いを堪えつつ、天地創造の作業へと取り掛かったのだ。
そこはなだらかな山々が見える、とてものどかな風景だ。
足を伸ばせば川のせせらぎが聞こえ、動植物が山に森や林を賑やかにし、雨も降るが晴れもあり、暖かく、時に寒さ続く時期もあるが、それを乗り越えれば命の色付く穏やかな幸せがくる。
少し先には海もある。山同様生き物も豊富で、海の者は山に。山の者は海に出かけお互いの食べ物を交換しあった。平地は肥沃な土地で、作物の実りもいい。
一組の親子が住まいである小屋から出てきた。農民らしい素朴な身なりで、まだ機織りの技術も粗末な文明の為か、麻の少しごわついた衣服を身に着けている。
「父ちゃん、今年も沢山実がなったな」
「そうだな。今年も収穫の後は、みんなで神様にお礼の踊りと歌を歌おう」
父親は小屋の裏の方に向かう。その後を少年が追いかけていく。
「おらも踊れるよう、練習したんだ!」
少年は父親の前でギクシャクとぎこちない踊りを始めた。振付とは大分違うようで、足の動きは殆どめちゃくちゃである。
「ははは、そんなんじゃ、大地の神様に笑われちまうよ、祭りまで父ちゃんともっと練習しような」
え?
父親は息子の頭を撫でながら、荷物を引きずり畑の方へと向かう。そこには作物が生えていない、土だけの場所が何箇所かある。その土の場所に父親は持って来た荷物、落ち葉や生ゴミといった物を撒いていく。そして息子と一緒に鍬を使って土を耕し出すのが今日の仕事の一つだった。
「父ちゃん、大地の神様美味しいって言うかな?」
「そうだとも。食べ物が実るのは大地の神様と水の神様のおかげだ。実を育ててた神様が疲れないように、こうやってご飯をあげて、息も沢山吸えるように土を混ぜて休んで貰うんだ。そうすっと、また美味しい実を育ててくれるのさ」
二人は額に汗して鍬を振るう。みるみるうちに、土は空気を含みふわふわと柔らかくほぐれていった。
んん?あれ?
場所が変わり、海辺では老人が仕掛けた網を引き上げている。少し空を眺めて鼻を鳴らし、耳をすませると素早く網を引き上げて、傍らの若者たちに声をかけた。
「今日は空の神様と風の神様の機嫌が悪くなっぞ。遠くには潜るんじゃねぇっぞ。さっさと帰って寝るんがいい」
それを聞いた若者たちは漁の準備を片付け、さっさと高台の村へと帰ってしまった。
いや、これってまじで……。
山の頂上付近。青々とした木々の中、子どもが何人も走り回り遊んでいる。頂上から駆け下りてきたのだろう、息を切らして休憩をした。
「ぷはぁっ……やっぱここの山の水は美味しいね!」
綺麗な湧き水が溜まる岩のくぼみに、顔をつけた子どもが言う。
「当たり前だろ!知ってるか?水は上から下へ流れるんだ。山から川にいって海に行く。そしたら海から天に戻ってまた天から降り注ぐんだと。だから、山の水は天に一番近い、水神様一番の水なんだってさ!」
物知りを自慢する様に、一人の子供が得意げな説明をした。
「そうなのかぁ。あ!じゃぁ、山頂の水が一番美味いんじゃないか!あーあー。さっき登った時に飲んどけば良かった〜」
それを聞いた子どもが残念そうにって、おい!いやいや、水神様じゃねーから!俺だから!!俺!!しかも、ご丁寧に山頂から等間隔で湧き水出しといたのも俺だから!!言うなら俺に礼を言え!!
神に感謝するには大きな恵みと、逆らった時の恐ろしさが必要である。その為に俺は豊かな自然整備とその厳しさを徹底的に調節した。
今回は反省課題でもあるから人類への補正は無し。良いとこで集落が農牧で豊かになりだす。くらいの進み具合にする予定だった。
極度の飢えから解放することで心に余裕を持たせ、宗教などの文化的な発展にも手が出せるようにしてみた…………が、奴らにとってはその豊かさと厳しさを与える自然そのものを神とする考え、自然崇拝が始まってしまった。
しかもこの星全体の大陸を満遍なく豊かにしてしまったため、自然崇拝の多神教が乱立してしまったのだ。
「よいか!この山には大きな猪の山の主がおる!山神様の使いじゃ!!決して失礼があってはいけない。山で我々が獲物を捕らえるのも、山神さまのご厚意あっての事じゃ!出会っても祈りを捧げ、静かに帰ってくるのだ!よいな!」
山の中の集落の建物では、独り立ちする若者へ、髭の長い老人が唾を飛ばしながら叱咤激励をしていた。若者はそれを聞き、大きく返事を返して応える。
「分かりました長老!初めての狩り、山神様に失礼の無いよう頑張ります!」
良くねぇよ!!っんだよ山の主って!?
あの猪はデカイとテンション上がるかなって俺が置いといた、ただの猪だっつーの!!山じゃなくて俺に失礼なんだよ!!てか山も俺が創ったのおおおぉぉぉぉっ!!!
俺はこの世界の光景を見て、地団駄を踏むしか無かった。
猪が神の使いとかまじねーわ。あんなむっさくて臭いやつ側に置きたかねぇし。さらに観察すると、デカイ猪どころか、古着や使い古した台所用品にまで神がいる。なんて言い出す地域も出てきている…………。
頭が痛くなってきた俺は、この馬鹿どもを矯正すべく天啓を与えようかとも思ったが、所詮神様見習いでそんな力も無い。残念ながら俺は頭痛に耐えるしか無かった。
「お、どうした?しっかり反省してやれば中々出来るじゃないか。この調子で今後も励むんだぞ」
後日、俺は先輩神様から呼び出されて中々の高評価を貰えた。
多神教は寛容な場合が多い。
「 あ、そちらの地域で太陽の神様はそんな名前で呼ばれてるんですね〜」
簡単に言えばそんなノリだ。しかも自然崇拝ならなおのこと。自然や動植物を大切にし、自然の辛さに工夫し耐え、そして豊かさを分けて貰う。そんな教えだ。
似たような環境を世界中に創ったため、思想も似てしまった。地域での反発も少なく人間同士で争うより、共に自然災害を乗り越えるため、未発展だが知恵を絞り協力する。そんな感じに世界平和がやんわり、まとまってしまったのだ。
奇しくも本世界のテーマである『古代文明の繁栄と平和の維持』をこの様な形で実現していた。
とりあえず、反省も認められたから、もう少し頑張れば見習いも取れるだろう。
俺は勿論、諦めてはいない。
2話まで読んで頂きありがとうございます。
こんな感じに、基本ドタバタ時たまシリアスな神の日常を綴っていきます。