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16 魔の神

 本日の俺は魔法文明を眺めながら、新たな生物を創造していた。

 いつだったか、俺の顔面に水をぶっかけてきたあの文明である。奴らは俺を散々冒涜して、闇の使い等と呼んでいた。だから、お望み通り希望を叶えてやろうと思ってな。

 今回はこの世界にはまだ居なかった、魔族と呼ばれる者を創っていた。魔物、モンスター。呼び名は何でもいい。


「今度は俺が邪神……魔王として君臨してやるのだ。カッカッカッ」

 知能の高い者から低い者、人間に似た姿からもろ虫や動物の姿まで。俺の配下であり眷属を生み出し中である。この辺は、神話以外にもゲームのクリーチャー図鑑とか見つつ、豊富も豊富にしている。サキュバスみたいなエロくて可愛い種族も勿論忘れない。粗方の種族のプログラムを組み終わると、この世界の一番大きな大陸に出現させた。


 人間どもよ、神の恐ろしさ今こそ思い知るがいい!





 俺は海沿いにある、人間の近寄らない険しい山を魔族の住処として選んでいた。陸海空、様々な種族がまとまるようにだ。

 先ずは俺が神である事を知能の高い者に伝え、知恵を与えて組織を作らせよう。ある程度数が増えて統率の取れたものが出来てから、各地に勢力を拡大して行く予定。


 でまぁ、俺は産まれた魔族の前に姿を現し、奴らに使命を伝えたのだ。


「我は天地創造の神である。堕落し愚かな人間達にこの世を支配させてはならぬ!同胞を増やし鍛え上げ、この地をお前らの物とするがよい」


 山に篭って魔族が数を増やす事に専念している間、魔族どもに人間文明や魔族の組織化、戦術等の知恵を授けてやった。早く魔族の支配を見たいし、結構厳しくやっているが、優秀な者も揃えてるので物分かりも早い。そろそろ頃合いである。

 いやぁ、あの人間どもが恐れおののく姿を考えると、口元が上がって仕方ない。



 あ、そうだ。聖痕が使えるのを忘れていた。俺が再来した事を人間達に広める為にも、呪いの印を体に刻みつけてやろうではないか。


 俺を象徴するもの……やはり前回一緒に現れたスレイプニル。あれはインパクトがあったから、あれにしよう。

 すぐさま貴族から平民に至るまで、その大陸に居る人間を適当に選び出していく。そんで、聖痕のプログラムと共にスレイプニルの画像データを送り込んでやったのだ。ふっふっふっ。





 朝日が射し込む中、鳥の鳴き声で少女は目が覚めた。

 眠い目を擦りながらベッドから出てくる。ベッドを整え、着替えを始めようと寝間着のワンピースを捲り上げていた。その時、少女の手は止まりしばらく何かを眺めた後、服を脱ぐのをやめて部屋を出て、ある人の所まで向かっていく。


 部屋の外には母親が朝食の準備をしている。野菜が煮込まれた鍋からは、暖かな湯気がたち、素朴だが食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。

「お母さーん。なんか、変な痣が出来てるー」

「あら、昨日でも転んだの?ちょっと見せてみなさい」

 少女は母親の前で、先ほどと同じように服の裾を上にあげて見せている。

「まぁ、大きな痣ね。全く気を付けなさいよ。今は痛むの?」

「痛くないよ」

「そう。なら一週間もすれば無くなるでしょう。それでも色が薄くならないようなら、おまじないでもしましょうね」

 母親は別段気にもせず、料理の続きを始め出す。少女は納得して部屋に戻り、改めて着替えに向かった。




 ??なぜだ。

 俺とスレイプニルはこの国では畏怖の対象として、どんなに貧しい者でも一度は聞く話しなのに……???

 少女に視線を移して再度確認しようとした。少女は着替えの為にワンピースを脱ぎ、その、白い太ももには拳二つ分程度の大きな痣が…………つぶれてるぅぅ!?!?!?!?


 しくじったあああっ!!!!!

 畜生すっかり失念していた。痣とは体表での内出血が主である。血管の損傷によって血液が皮膚組織に滲み出し、とどまる事で色を出すのだ。肌にじわっと広がった血。そんなもので、足が八本もある馬を細部まで表現できるはずがなかったんだよ!!


 くっそおおっ!!!!出力解像度おぉぉぉ!!!!!


 うわああああっ。と恥ずかしいと言えばいいのか。何とも言えない気分になり、机を両手でドンッ!と叩いて落ち着こうとした。冷静さを離すまいと念のため他の人間も確認してみるが、やはりどれも馬とは言い難い造形をしている。聖痕を受けた人間も「なんかデッカい痣が出来てる」くらいにしか感じていない……。



 うわぁ…………。

「ほ……ほら……たまに見せるお茶目なところも魅力的……」

 自分でフォローを入れてみたが、虚しいだけだった。前回といい凡ミスが続いている気がする……つ、疲れてるのかな……。


 手を顔にあて、ちょっと無言で俯いた俺は魔族の方を見る。

 あぁ、うん。軍としては大丈夫みたいだな。そうそう、人間をさ、征服してだな……うん……えっと………この後な…………こいつらでさ………………ふふふふっ……そうそう、今回の目的は全人類の頭を地面に擦り付ける事だった……いかんいかん。

 俺とした事が肝心な事を忘れていた。その過程なんて大した事ではないのだぁ!そう、結果が全てである!!人類を魔族によって支配する結果がな!!!




 俺は魔族の山に降臨し、即座に人類征服への進軍を叫んだのだ。この本拠地を中心として近隣地域に勢力を拡大させていく。村は次々と焼かれ、力の差のある魔族に人間どもはどんどん追いやられ逃げて行くのは明白だった。


 この大陸全土を治めている王国は黙っていなかったが、身体能力が人間より上な魔族相手の戦争は劣勢を極めた。更に俺の的確な戦術と相手の動向把握により、主要都市や要塞を落としていく魔族の勢いは増すばかりだった。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いとはこれの事。


 魔法軍も登場したが、こちらだって魔法を扱う一派は揃えてある。人間と同じように魔法を唱えられる奴らだ。





「第三班詠唱完了いたしました!」

「第三班撃てーっ!!」

 人類軍は後方部隊からの詠唱が終わり、司令官はすぐに発動の掛け声を上げた。人類軍と魔族軍の間には竜巻状の炎が立ち上がる。ごうごうと草木を燃やしながら炎と灰を舞い上がらせ、魔族軍へと迫ってきた。


「土性部隊、炎ごと敵軍を飲み込むのだ!!」

 こちらだって負けてはいない。俺たち魔族軍は得意な属性毎の部隊を編成しており、様々な属性魔法を同時に用意し、代わる代わる叩き込んでいく。

 巨大な土壁が地面からせり上がって炎の進路を断ち、敵兵を押し潰そうと進む。途中、敵軍の防御魔法の壁に阻まれ前進出来なくなったが、これはこれで良い。防御壁に土壁がもたれかかり、奴らの視界は大幅に悪くなっている。


「火性部隊、射てーー!!」

 壁を乗り越える程上空から炎の矢を射つ。飛距離からして軍の中ほどまでしか届かない距離ではあるが、中心部から火の手が上がれば、防御壁付きの土壁に挟まれた前衛部隊はひとたまりもない。火を消す為に水属性の魔法が発動されたら更にこっちのもんだ。


「電性部隊、放てーー!!」

 俺の指示通りに雷撃が壁の上から奴らを直撃した。空高くから落下した雷は地面に刺さり、地表から瞬く間に伝わっていく。予想以上の広がりで良かった。

 多分、奴らは消火の為に水を出してかけていたのだろう。魔法で生成された水は純水であり電気伝導率が少々心配だったが、体に被ることで泥や汗と混ざっているのだ。大して問題では無かった。



 こんな感じに俺達魔族軍は人間を打ち負かし、この大陸の支配権を手に入れたのだ。

 そう、この土地の人間達は残す事無く魔族に殺されるか、他の大陸へと海を渡り逃げていったのである。王都にある城に掲げてあった人間の旗を焼き捨てる。そして魔族軍の旗がたなびく瞬間は、なんとも言えない達成感だった。




「あ〜。スッキリした〜」

 俺は大きく伸びをして、清々しい気持ちで一杯でいる。

 褒美に魔族にはこの大陸を任せた。更に繁栄して世界中の大陸まで勢力を伸ばすよう伝え、俺は本日の天地創造を終了したのだ。

 実に爽快だ。激しいスポーツの後みたいな充実感のある疲労を感じつつ、家に帰った。今回は頑張ったなぁ〜。





 後日、あれから二週間……三週間は経っただろうか。

 俺は気が済んでしまったので、他の天地創造の作業に取り組んでいた。そしてふと、あの魔族は順調に世界征服を進めているか気になったのだ。



 魔族達の大陸を覗くと、そこにはおかしな光景が広がっている。

 大陸内や海辺付近等、魔族達は穏やか??に暮らしていた。それは良いんだが、奴らはなぜだか時折上空を見つめていたのだ。


 その訳は、俺の見ていない間に大陸と周辺海域に強力な結界がドーム型に張られており、一時間に一回程、その結界上空に魔法を動力源とした大きなゴンドラが飛んでいるからだった。


「えー、こちらがかの有名な大陸でございます。二百年前での魔族との戦争の中、我々人類はこの大陸に魔族を封じる事に成功いたしました。……あ、ご覧下さい。右手前方に見えますは、海の魔族セイレーンでございます。セイレーンは歌によって人を惑わす力がございますが、ご安心下さい。この距離と結界の力では彼女達も無力な存在であります。……さて、そろそろ大陸上空に進んで参りましょう。奥の草原をご覧になれますでしょうか、魔族の群れが観れるかと思います。あれは………」



 …………は?



 船の上では女の解説の元、多くの人間達がゴンドラから顔を出し、下にいる魔族達を眺めては指を指して笑ったり驚いたりしている。


 えぇ??何があった!?


 よく分からない事態に魔族側の様子を調べてみると、本当に人間の手によって結界が張られ、閉じ込められているようだった。


 いや、解除すればいいじゃん!お前らも魔法使えるだろ!!

 とか思ったが、なんと出来ないらしい。それは、俺が魔族に即戦力を求めるあまり、人間の開発した呪文を丸写しで教えてしまったせいだった。奴らは暗記能力はあったが、応用問題が解けず、新たに開発されたこの強力な結界の仕組みが解明出来ないまま、もう二百年近く過ごしているそうだ。サファリパークよろしく、魔族パークとして。ちなみに、魔族の出演料は一銭も落ちては来ない。




 何か俺、前に結果がどうのとか言ってた気がするが………まぁ、いい。スッキリしたんだし。

 俺はこの世界を見ない事にして、干渉ディスプレイをそっと閉じた。

成功したと思いつつの、相変わらずの主人公クオリティ。


次回17話更新は

4月1日(水)0時頃を予定しています。

次回は皆さんお馴染みの文化です。

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