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14 神の休日 2

 ふと、嫌な気分がして俺は目が覚めた。

 室内環境を見てみると、気温も湿度も快適値で問題ない。目の前のディスプレイを手で掻き消す。

 だけど、なんだか寒さが身に沁みる気がする夜だった。夢見が悪かったのだろうか。ぼんやり考えたが、夢など見たかも覚えていない。


 暖かい物でも飲みたくなったので、適当にホットミルクを用意した。それを飲んだらやけに落ち着いてきて、すぐに眠気に襲われた。

 最近仕事ばっかで疲れているんだろう。文明の繁栄と衰退を繰り返し見ているというのは、時にげんなりする事もある。眠気がなくならないうちに、さっさと寝よう。

 俺はベッドに潜り込んだ。今度は暖かくて安心感のあるふわふわした微睡みが俺を包んでいた。



 朝起きた俺は酷く体調が悪かった。酷い倦怠感に頭痛、発熱感。

 とりあえず、すぐに身体スキャナをスタートしてみる。

 目の前のディスプレイには体温から血圧、血中の各種の計測値、内臓の動きから脳波の測定など……多くの情報を表示できるが、トップの警告文を見てやめにした。


『急性上気道炎』要は風邪である。

 俺の人体画像には喉と頭、それと高熱という赤い注意マークが表示されてた。次点で肺にもマークがついている。そいう言えば、唾液を飲み込むのも辛い事に、今更気が付く。

 休みの日になるなよなぁ……なるなら仕事が休める平日がいい。どうせ個人作業の研究なんだし。今回の進み具合は順調だしさ。


 だるい手つきで計測データを医療機関に送る。すぐに薬が転送ポストに届いた。それを口に投げ入れて、ベッドに入る。水も持ってくるのが面倒なので、そのまま飲み込んだ。




 医療や科学が発達した現代だが、我々人間の身体は急激には進化しない。遺伝子をいじって色々と高機能にも出来るが、やり過ぎると個人差はあるものの、無理が生じる。

 全てを組換え造られた者は人間の枠組みから外れており、現人類の立場も危ぶまれる事から専門研究機関でしか基本扱われない。

 脳の使用%を上げたりも出来るし、テロメアなんかの細胞の分裂や寿命などに関する研究も終了しており、生物的に永久的な命も獲得できる。体の機械化、脳の電子化なんかをやる奴もいる。


 しかし、精神はそれについていかない。何も手を打たないでいると、すぐに堕落し発狂するそうで、そんな例が後を絶たない時期もあったそうだ。死のない身体を獲得した事により、全能性に魅入られ事件を起こす人間が出たりしたんだと。

 耐えうる為に人格をインストールする事も出来るが、洗脳や独裁に悪用される恐れが強すぎて、重症患者でもない限り、人間の人格、精神の強制的な科学処理は罪とされている。

 なにより、その人間の特性や人間性を失う恐れも伴っているからだ。

 子どもの急激な成長や発達は精神の発達がついていけず、やはり人格が破綻したり、疾患に繋がる事が多い。産まれたての赤ん坊や胎児に人格を埋め込む。なんて、今で考えればご法度な実験もやったそうだが、やはり個性というか、その人間独自の人格の発達を阻害するらしい。

 人格がそれなりに形成された者は、新たにインストールされた人格に。例え部分的なものであっても、従来の自身の人間像に誤差が生まれ心を病むケースが多いそうだ。

 人間は果てのない長寿を手に入れたが、それに耐え扱い切れる精神を膨大な時間をかけて育てていくしかない。

 それは基礎教育機関を終えた成人頃から、やっと本格的に始まると言える。


 個人差はありけり二百年近く経ってくると、生への執着が減り死ぬ覚悟が出来たり。無制限に続く時間に耐えうる精神が育たなくて、むしろ死にたい。なんて自殺願望者や自ら命を断つ者、延命処置を行わない者も出てくる。

 全人類がそっくりそのままは増えず。適度に間引きされて、それなりに図太い鈍感な者が生き残っている。繊細な者は花火のようなものだ。


 とまぁ、生死が関わる者は別として、医療において急激な負荷を与えず、なだらかに細胞の代謝や再生を促す。それが今の主流だ。瞬時に治ると、反省も感じず病気や怪我に無頓着な馬鹿が増える。そういう意味もあるらしい。



 って訳で俺の飲んだ薬は痛み止め作用はしっかりあるが、反省期間で症状の回復には少し時間がかかる。後数時間は寝てるにかぎる。何よりまだ早朝だ。俺の休日は昼頃からスタートするからな。




 一時間もしないうちに、コール音が耳元で煩く響き渡った。

 寝ぼけていた俺は、目覚ましか何かと間違えて出てしまった。残念なことに先輩からの連絡だった。


「休日にすまんな。急な連絡があってな」

 画面上の先輩はすまなそうに言いながら、手元にあるデータを見ている。

「あー………なんすか……」

  熱も無くなったがまだ少しだるい。


「??酷い声だな。喉でも痛めたのか?」

 喉の炎症は完全には治まっておらず、随分なガラガラ声を出していた。

「あー、風邪っすよ。別に寝てれば……」

 なんか嫌な予感がする。この糞真面目な先輩の事だから、見舞いに行くとか看病は。とか言い出しそうだ。

「何言っているんだ。明日には治して貰わないと、この追加データで俺も大変なんだ。それにお前、KJ使ってないだろ。誰が世話するんだ」

 そう言いながら、本題のデータディスプレイを閉じる先輩。

 いや、そんなに大変な用事が明日から始まるなら、俺はあと三日くらい寝ていたいんだが。

「んな、食事くらい転送ポストで届けて貰いますよ。この喉でも入るようドリンク剤とかで……」

 いやいや、と首を振られた。


 この文明オタクは様々な文明や歴史を追体験しているおかげで、現代文明にも信用を置いていない。


「風邪と言ってもかかった原因は千差万別だ。根本的な改善を図らねばまた引くぞ。計測データだけでは分からない事だってある」

 俺の言葉なんてお構い無しで出かける準備を始めだす始末だ……。

「じゃぁ、手土産はカラメル堂の限定プリンで……」

 全く……とかなんとか。先輩の話しを聞き流しながら、俺は片手を振りながらベッドへ倒れた。





 先輩が俺の家に着いたのは、それから二時間ほど経過してからだ。


「まさか、このご時世に店頭販売しかしていない店があるとは……しかも一時間は並ばされたぞ」

 そうだ。俺は嫌がらせも兼ねてこの店を選んだ。勿論、ここのプリンが絶品である事も知っていたが。

 文句を言いつつ、きちんと注文の限定プリンを買ってくる辺り、実に律儀な人である。



 飯の用意をしてくれた先輩と一緒に食事をとる。

「それにしても、風邪が治ったら是非とも部屋を片付けた方がいいぞ……もしくはKJを使うとか……」

 俺は病人食にされた。今の症状に適した漢方が処方されている粥だそうだ。またもや嫌な推測が頭を過ったが、中々美味かったので言わないでおいた。


「いいんすよ、これくらいが落ち着くんで」

 俺は面倒くさがりな人間である。物自体は少ないが、服とか脱ぎっぱなしでその辺に置くし、データを出したりしまったりするのが面倒で、後でにしよう。と思ったディスプレイはそのまま放置してある。

 定期的に服等は片付けるし、ディスプレイは実体が無く、触れようとしなければ素通りしても問題ない。生活には支障はきたさない。

 KJ-AI……自宅用アンドロイドも邪魔臭くて置いてない。便利ではあるが家中をウロウロされるのは、なんか好きじゃない。

 室内環境の設定も全部調節し直したから、この部屋のチリや埃、ウイルス等はすぐに排気、除菌される。吸い取れないゴミは小型の掃除ロボットが外出時にやってくれる。

 大きなゴミは流石の俺でも捨てるし。



「いや、これはいかん。これはきっと気の流れが悪いからかもしれん」

 室内環境の表示を見て、ウイルス等が皆無である事を確認した後、先輩はもう一度部屋の中を見回して断言した。

  実は最近先輩は『古代中華文明の思想文化と理論の発展』というものに取り組んでいる。なので最近、風水だとか気の流れだとかにハマっている。

 これは、絶対面倒くさい。


 第一、俺はどちらかと言うと科学万能主義なのだ。

 魔法とかもまぁ、見たり作ったりは楽しめるのだが。実際に「考えるな!感じろ!」みたいな、ぽやんとしたものをやらされるのが苦手だ。方法や法則は違くてもいいが、観測とそれに元ずく理論が組まれていないと理解しにくいし、感じろ!ってのが何より苦手だ。

 まぁ、気についてのデータもあるのだが、実際に受け継ぎ使う連中は感じろ。と言うやつが結構居る。残念ながら、俺は感受性に極振りを行っていないので全く感じない。



 俺が苦い顔をしているのを全く気にせず、先輩は方位を確認し周辺地図を出してくる。さらに古地図まで出して比較を始め出した。


「ふむ……ここに昔は川があったが、埋め立てられたのか……この山は半分程切り崩されて海岸の埋め立てに使われたと聞いた事があるし……この家を中心に考えると……」

 なにやらブツブツ呟きながら地図に書き込みをしている。

 プリンも食べたし、俺のガラガラ声も大体治って来たから早く帰って欲しい……。




「よし!分かったぞ!掃除をして大々的に模様替えだ!!」

 何が分かったんだ。いいから帰れ!!

 俺が訴えかける視線を投げつけているのに、先輩はとても楽しそうに勝手に人の服をまとめ始め、部屋中に広がるディスプレイを閉じ始めた。


「えぇっ!?ちょっと、それまだ半分しか流してないやつ……!」

「放置は掃除の天敵だ!また今度なんて言うやつには、またなど来ない!」

「違うっつーの!そこに溜まってるのは、こっちのやつに必要で………だから閉じるな!!」

 先輩は俺の拳をかわして次々消して行く。仕方ないから全力で重要なやつにロックをかけた。



 ロックがかかり残りに手をつけられないのが分かると、先輩は不満そうな顔をしてこちらも見る。


 こいつは…………確か俺の見舞いに来たんじゃないのか……。

 残ったディスプレイも先輩がベタベタいじるもんだから、場所が移動したり滅茶苦茶だ…………こう、俺みたいなタイプは一見乱雑に見えても本人の中では約束や時系列が決まっており、使いやすく分類してあるのだ。とりあえずはさ。

 俺としたら整理された本棚を端から倒された様な気分だ。


 怒りに震えていると流石の先輩もオタク熱が冷めてきて、やり過ぎた。しまった。と顔色がどんどん変わってきている。


「……す……すまん…………調子に乗り過ぎた……」

 頭を垂れて、本当に申し訳なさそうに謝られた。これくらい許してやるべき?とか少し思ったが、こっちの機嫌の悪さは戻らない。

「なんか、疲れたんで寝ますね……明日は休ませて貰います」

 と言って寝室に戻る。

「分かった……本当にすまない……」

 消え入りそうな声でもう一度謝り、先輩は帰っていった。





 しばらく不貞寝をして、夕方前に目が覚めると体調は全快していた。


 せっかく休みを貰ったので、気を取り直してその晩から翌日はずっと遊び倒す事にしてみたのだ。気分もサッパリして、家に帰ってロックのかかったディスプレイを見回すと、実は酷い被害は無かったのが分かった。運が良いのか、結構どうでもいいやつが中心に消えている。


 冷蔵庫を開けるとカラメル堂の箱が入っていた。余分に買って来ていたようで、限定プリンが一つ残っている。

「明日は仕返しにからかってやるか……」

 翌日、俺はいつも通り天地創造をやってやる事にしたのだ。

主人公の感受性は、姉貴様のおかげでマイナス補正が多少かかってます。



あと、先輩に自分の本棚を自由に整理させると、

1.分類別に棚を分ける。

2.分類毎の本を背の順で分ける。

3.巻数を順番通り揃える。

4.作者別に五十音順で本を並べる。

5.背の順では違うサイズだが、同じ作者の場合は、バラバラにしない。分類がごたまぜ、数が多いなら専用コーナーを作る。

6.ブックエンドはちゃんと使う。

7.本棚は扉付きで、ガラス面があるなら遮光シートなど貼れたら完璧。


先輩 真面目文系vs主人公 ズボラ理系


という自分の勝手なイメージ。



主人公の本棚

床に本を積み上げる。


時系列が上下で出来るし、よく使うやつは必然的に上に来るし、分類分けたいなら、積み上げる山を変えればいいし。必要なのは中身だし、作者とか、作者研究でもしない限りよくね?


みなさんはどっち派ですか?

自分は主人公派です。流石に床には積みませんが。

仲の良い友人とは討論になります。


次回15話更新は

3月25日(水)深夜0時頃を予定しています。

次回はあんまりコメディーじゃないですが、16話から更にテンション高くなってきます。

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