12 神様のなりかた
「くふふふふっ……もふもふ……もふもふ……もふもふふふふふっ……」
何とも言えない恍惚とした幸福感の中、俺は顔をひなゼミ……日永瑛子 古典遺伝情報処理ゼミにて愛玩されている毛玉を、一匹拝借して顔を埋めている。
正式名称は忘れたが、体の体積の三倍程度の柔らかな尻尾を持つこの生物は、大人しい性格で幼児の情操教育の一環として飼育される事が多い。大きなリスみたいな奴だ。
もう、何日缶詰めでこの研究室に居るかは忘れたが、延々と繰り返される卒論の実験の中、ふと極上の枕が欲しくなった訳である。
「あとこれに……可愛い抱き枕があれば最高だな」
仮眠室なんか行くのも怠く、俺は自分の作業スペースに荷物をどかどか置くと、床に転がり、一人で一心不乱にその毛玉をもふっていた。
「うおっ……きも……」
俺がふひひひひって幸せそうに笑っているだけなのに、入室早々酷い事を言うゼミ仲間である。
「んだよ。抱き枕は美少女が良いのに」
「お前……その欲望垂れ流しな言動なんとかしろよ……絶対女子達引いてるって……」
俺に暴言を吐くこいつは、この大学で知り合った友人の一人だ。
「無理やりというのもまた趣深ぎっ……」
そいつは毛玉の尻尾で俺の口を押さえつけてくる。もっふもふで顔を埋めたい程心地良が、口の中に毛が入るのは勘弁して欲しい。
「あのなぁ。そんなんだから彼女が出来ても、一週間しないで別れを切り出されるんだ。しかも、後輩の方から告白してきたんだろ?その短期間で何したんだマジで……」
俺はもごもごと返事をするしかなかった。息が苦しくなったので毛玉を引き剥がして、床に座り直す。
「ほら、一目惚れだったから。理想と夢が強かったんだよ。多分」
ため息をつきつつ、そいつは話しを切り替えてくる。
「研究の方は?」
「あと五千三百六十一回実験を終わらせて、それをまとめた論文を書けば終わりさ」
はははっと笑いながら言っている俺の声は、限りなく乾いていた。
「……まぁ、お前はゼミの中でも一番きついテーマだしな……そんだけ期待されてんのさ」
慰めと期待の言葉をかけられた。
「お前が性転換手術で華奢な体で巨乳になり、人格インストールで健気で従順な美少女になってやって来てくれたら、慰めの続きを貰ってやろう。主に体でな」
「それ俺の要素全否定だろ!!てか人格とか犯罪だしっ!この万年発情期め!!」
こんな研究室にひたすら篭りっぱなしとか、発狂するわ!!!欲求不満で済む俺の凄まじい精神力が分からないのか。
「じゃあ、この毛玉になって俺の枕二号になれ」
もふもふと毛玉を触りつつ、さっき始めた実験が終わり、次に移った事を確認する。
ディスプレイに追加データが映し出された時、メッセージが届いた。
「二千六百四十年卒業予定学生 就職候補決定通知。かぁ……」
現在の社会では、今までの学業成績、学内の生活態度などなど。まぁ、個人情報の塊みたいな物から適した仕事の斡旋を行う。企業側もそれらのデータからスカウトを行う。そんなのがまとめられた物が、今回のメッセージの内容だった。
俺の通知文には十社が明記されていた。ここから気になる所に面接を受け、合否の判定となる。
「お〜。流石、大手研究職ばかりだな」
「全く。論文で手一杯だから、こんなのしばらく考えたく無いってところなんだけどなぁ……やる暇ないっつーの」
俺はリストを眺める。一つ、気になるのがあった。
存在子確率研究施設
通称「神様業」と呼ばれる研究所だ。
俺達が居る世界には存在子というエネルギー体がある。俺達人間も、動植物から無機物、時間、空間など、ありとあらゆるものはそれからでき、影響を受けている。
存在子の研究が進み、俺達の世界の外にある存在子を使い、他の空間や世界を創り出す事が出来きるようになった現在。そこで神のように天地創造を行い、様々な生物、文化、文明の進化と発展の可能性を探る。そんな仕事である。
それぞれの世界に一定量しか集まらない存在子を効率良く効果的に使う事も、その中で模索しているらしい。
「お前が神様業……?あれだろ、邪神とか悪魔の類だろ。担当は色欲だろ」
失礼な。と言おうかと思ったが、中々気に入った。
神は人間を神に似せて創った。なんて話しもあるそうだが、全人類と相応しいのが神ならば、それは酷い俗物で煩悩の塊なのだろう。
例えばそう言われる俺のように。
なんだか楽しくなってきて、にやにやしながら受諾を押してやった。
隣でマジで?と、なんとも言えない表情の友人を見る。
そのまま、毛玉を片手にとりあえず仮眠室に向かうことにした。神になる前に過労死も発狂死も困る。
それに、世界を創る神は7日目にはきちんと休んだそうだ。俺はここ最近ろくに寝ていない。
神様業も週休一日だそうで、まったくユーモアが効いているな。と思った。
世界観と主題バラしの回でした。
7神はSFでした。主人公も人間なんで毎回失敗する訳です。
ジャンルがコメディーなのも、ファンタジーと言うと嘘だし、SFって言うとネタバレな為です。
今後は主人公の煩悩全開の話がメインになっていきます。
主人公の三大欲求は飛び抜けてダントツ1位に性欲、離れて2位に睡眠、かなり下に3位食欲。これからは、そんな世界っす。
存在子とはなんぞや。という解説回は、本編終了後の番外3にてガッツリ書かれています。
本編では主人公が天地創造する時に、やってる作業で必要最低限の解説をするくらいです。
かなりの解説文章量になるので、各話に少量づつ織り交ぜると
「存在子のあの説明、何話だっけ?忘れちまったってばよ!!」
って現象が起こりかねないので、解説はまとめて書いています。
本編で解説回を書くと、1話の大部分が解説文になるので、1話内でオチつけられません。技量不足です。
とりあえず、天地創造は魔法でも奇跡でもなく、所詮人間の科学技術によるものだ。と思っていただければ。
煩悩だらけの神様の今後の活躍、ご期待下さい。
自分的にはラスト直前の24話25話が、1番煩悩酷くて気に入っています。
人間とは少々の綺麗事と、大部分の酷く浅はかで、どうしようもなく馬鹿で時に見苦しい生き物ではないだろうか。そういう存在、自分は好きです。
次回13話更新は
3月18日(水)深夜0時頃を予定しています。
最後に宣伝。
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主に文章の進行報告や更新のお知らせ、時々自分の頭の中身を呟いています。
良ければ覗いてみて下さい。
彼岸 明@小説家になろう
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