表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

11 真理と教典

 さて、今回は気長に世界を見ている俺だが、効率の良い俺教の布教について考えている。


 どうにも俺は先輩のように歴史介入するのが下手くそみたいだ。なんでか自分の思った通りの歴史を辿ってくれない。

 さらに天啓や夢への進出くらいしか出来ない現状だし、姿を現すならいくらか蓄えておかなくてはいけない。見込みの少ない世界で無駄使いする訳にもいかない。


 先輩からアドバイスを貰ってみたが

「やっぱり観察して、歴史や生きている者たちの流れを把握する事だね。何を欲しがっていて、どうなりたいか。それを行える人材に助言や力を与えつつ、自分のやりたい事も少しづつ混ぜていくんだ。権力者や指導者は移り変わるから、主要国以外の重要人物にも気を配って、民衆や世論の動きを見逃してはいけない。まぁ、ご機嫌取りながらの地道な作業だよ」



 人の気持ち、欲しいもの、嫌じゃない範囲を少しづつ。

 簡単に言うが、苦手だ。

「まぁ。お前は裏表が少ないと言うか、ストレートで分かりやすいからな。義理や建前、ごますりおべっか……そういう物もある意味思いやりであって、人間を動かすには大切なのさ」

 とも言われた。

 相手の気持ちを気遣いつつ…………ダメだ。面倒臭い。


 放棄してはいけないのだが、気持ちに配慮しつつ遠回りしながら近づくとか、建前を用意しつつ、本題をさりげなくとか。相手の顔を立てて根回しとか?もっとシンプルでいいじゃん!とか思ってしまうのだ。欲しいものがあるなら最短距離でいけばいいじゃん!とかさ。

 そんなんだから、女心が分からない。とか言われるのかもしれないんだが。俺、男だから分かんねーし。と最近は開き直っている。


 まぁ、そんなこんなで俺が歴史を自由に動かせるようになるには、まだまだ経験が必要なようだ。

 一から俺教を創る大変さも知ったし、ここは大きな宗教勢力が育ったところで神として出てきて、乗っ取ってしまった方が早いのでは?と思った次第である。





 今眼下に居る人物は、いわゆる『悟り』というものを開こうとしているようで、昼も夜もなく修行と鍛錬に励み続けている。

 本日は瞑想中のようだ。先ほどから男は岩の上であぐらの様な座り方で微動だにしない。

 いつもはこういう時に声をかけているのだが、今回は見守ってみるか。教祖として育ち、大きな組織になるまで待てばいいんだろ。そしたら神様の俺が登場ってことだ。

 静かな男の周りには、自然と動物達が集まっていた。



 それから何十年なのか経ってくると、男は悟りを見出したようで人々にその事を話し始める。

 初めは無視されすぐに立ち去られていたが、少しづつ人は増え、男の晩年には多くの弟子や教えを信じる者達が増えていったのだ。




 ふむ……そろそろ男が死ぬ前に現れて、弟子や信者達にも受け入れやすくしておくか。

 俺はもうじき死を迎える男の元に現れる事にした。男は相変わらず今日も瞑想を行っている。そこに男だけに聞こえるよう、声をかけた。


「汝、その耳に我が声が届くか。そうであればゆっくりと返事をしろ」

 男は少し間があったものの、すぐに「届いております」と落ち着いた声で答えた。


「我は天地を創造せし神である。汝の世界、そして己への真理を求める心。年老いてもなお続くその生き方称賛に値する」

「私はまだ道半ば……まだそのようなお言葉を頂くには早い身であります」

 男は目を瞑ったまま、静かに返事を返していった。


「しかし汝の命、果てる時は近い。その前に真理を見せようぞ」

「神よ……真理というものは己が力で見出せしもの………輪廻の中にて、その機会は全ての者に与えられます」


 あ、いや……天国とか地獄を経て、輪廻転生とかまず無いんだけど……。


「全ての命が因果による輪廻の中で己が真理を見つける。私も弟子達もまだ果たせてはおりませぬ……」


 えーっと。なんつーか。そうも取れるかもしれないけど、この世界の法則とは厳密にはちょっと違くて、なんて説明すればいいかな。えっと、あーー………えー……。


「最期の時に神に出会えた事に感謝いたします。しかし、神へ教えをこうには私はまだ未熟であります。来世にて真理へと神の側へと自ら近づきたく思います」

 俺がなんて返そうか考えていると、そう言って男は瞑想に集中し始めた。


 おおい、ジジイ!勝手に自己完結すんなって!!


 でも、これで無理に強いるのもなんか神の偉大さが欠ける気がするし……相手の気持ちを尊重して……??

 なんて考えて始めた俺は、結局ジジイにこれ以上言うのを止めた。

 ほら、こいつが分からなかったら、次世代に俺の凄さを広めて行けばいいしさ!後釜なんてこんだけデカイ組織なら、いくらでも出てくるはず!



 なんて思い、その後ジジイの意思を継いだ弟子達にも声をかけてみたが、どいつもこいつもジジイと同じ事を言う。

 そして、あっという間にそのジジイの宗教は、世界で大きな支持を得るようになってしまったのだ。


 勿論、歴代のジジイ教指導者に天啓を与えたが「自分は若輩者でまだ修行が足りない……」だとか「自らが掴んでこそ、真理とは意味がある」だとか「神という貴方も輪廻の中の一つであって、我々と同じではないだろうか」なんて俺の存在全否定の意見まで出てきた。



 押したり引いたり……あともう何があんだよ!!

「あー、もう面倒臭せぇー!!止め止め!!この作戦お終い!!」

 と俺は頭を抱えた手を大きく投げ出し、悔しさと苛立ちに大の字で転がった。

次回、物語ターニングポイント回となります。

お楽しみに。


次回12話の更新は3月14日(土)

深夜0時頃を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ